ヨーロッパと日本(23)

新日本建設に関する詔書

ここに新年を迎う。顧みれば、明治天皇、明治の初、国是として五箇条の御

誓文を下したまえり。

曰く。

1.広く会議を興し、万機公論に決すべし。

1.上下心を一にして、盛んに経綸を行うべし。

1.官武一途庶民に至るまで、おのおのその志を遂げ、人身をして倦まさら

しめんことを要す。

1.旧来の陋習を破り、天地の公道に基づくべし。

1.智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし。

叡旨公明正大、また何をか加えん。朕はここに、誓を新たにして国運を開か

んと欲す。すべからくこの御趣旨に則り、旧来の陋習を去り、民意を暢達し

(ちょうたつ、のびのびとしている様)、官民挙げて平和主義に徹し、教養豊かに文

化を築き、もって民生(国民生活)の向上を図り、新日本を建設すべし

大小都市の蒙りたる戦禍、罹災者の艱苦、産業の停頓、食糧の不足、失業

者増加の趨勢等は真に心を痛ましむるものあり。然りと雖(いえど)も、我国

民が現在の試練に直面し、且徹頭徹尾文明を平和に求むるの決意固く、克

(よ)く其の結末を全うせば、独り我国のみならず全人類の為に、輝かしき

前途の展開せらるることを疑わず。夫(そ)れ家を愛する心と国を愛する心

とは我国に於いて特に熱烈なるを見る。今や実に此の心を拡充し、人類愛

の完成に向い、献身的努力を致すべきの秋(とき)なり

(おも)ふに長きに亘(わた)れる戦争の敗北に終わりたる結果、我国民は

動もすれば焦燥に流れ、失意の淵に沈(ちんりん、おちぶれること)せんと

するの傾きあり。詭激(きげき、現行が中正を失って過激なこと)の風漸を長じ

て道義の念頗(すこぶ)る衰え、為に思想混乱の兆しあるは洵(まこと)に深

憂に堪えず。

然れども、朕は爾(なんじ)等国民と共に在り、常に利害を同じうし、、休戚

(きゅうせき、喜びと悲しみ・幸と不幸)を分たんと欲す。朕は爾等国民との間

の紐帯(ちゅうたい、ひも帯のように物事を結びつける働きをするもの、血縁地

縁利害などさまざまなもの)は、始終相互の信頼と敬愛とに依りて結ばれ、単

なる神話と伝説とに依りて生ぜるものに非ず。天皇を以って現御神(あきつ

みかみ、現世に姿を現している神の意から天皇を尊んで言った語)とし、且(か

つ)日本国民を以って他の民族に優越せる民族にして、延(ひい)て世界を支

配すべき運命を有すとの、架空なる観念に基づくものに非ず。

朕の政府は国民の試練と苦難とを緩和せんが為、あらゆる施策と経営とに

万全の方途を講ずべし。同時に朕は我国民が時艱(難)に起し(けっき、

勢いよく立ち上がる・決起)、当面の困苦克服の為に、又産業及文運(学問

芸術)振興の為に勇往(いさんでゆく)せんことを祈念す。我国民が其の公民

生活に於いて団結し、相寄り相扶(たす)け、寛容相許すの気風を作興する

に於ては能く我至高の傳統に恥じざる真価を発揮するに至らん。斯(か)

の如きは実に我国民が人類の福祉と向上との為、絶大なる貢献を為す所

以(ゆえん)なるを疑わざるなり

一年の計は念頭に在り、朕は朕の信頼する国民が朕と其の心を一にして自

ら奮い自ら励まし、以って此の大業を成就せんことを庶幾(こいねが、しょき)

う。

御名御璽

    昭和二十一年一月一日                         ]

(続く)