ヨーロッパと日本(24)

この詔書は、1946年(昭和21年)1月1日に官報として発布された。此の官報

の原本は墨書であり、天皇陛下の力強い御名と御璽がある、実際の官報そのも

のは印刷物であったが。上記に引用したこの詔書赤字に修飾した部分が、

自らの神格性を否定した部分であり、これは昭和21年元旦の各新聞の一面で

天皇人間宣言として、紹介されたのである。

人間宣言」をした昭和天皇は、その後、全国を「巡幸」し、国民の歓迎を受けた。

人々は「咽び泣いた。万歳を叫んだ」(戦後最初の侍従長の大金益次郎の著作

『巡幸余芳』)

大日本帝国憲法明治憲法)の第3条には、「天皇は神聖にして侵すへからす

と規定されていたが、此の宣言では、天皇と国民とのつながりは「神話や伝説」

によるものではなく、従って天皇は現御神(あきつみかみ、人の姿をした神)など

でもなく、いわんや、日本国民は他の民族より優れていて、世界を支配する運命

を持っている、などと言う考え方に基づくものでもない、と言っているのである。

大日本帝国憲法 第一章 天皇

第一条 大日本帝国は万世一系の天皇之を統治す

第二条 皇位皇室典範の定むる所に依り皇男子孫之を継承す

第三条 天皇は神聖にして侵すへからかす

第四章 天皇は国の元首にして統治権を総攬(一手に握って統べ治める)し此

     の憲法の条規により之を行う

・・・・・・・となっている。

これに対して現行憲法では、

日本国憲法(公布 昭21・11・3 施行 昭22・5・3) 第一章 天皇

第一条[天皇の地位、国民主権] 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合

    の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

第二条[皇位の継承] 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典

    範の定めるところにより、これを継承する。

第3条[天皇の国事行為と内閣の責任] 天皇の国事に関する全ての行為に

    は、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、其の責任を負う。

第4条[天皇の権能の限界、天皇の国事行為の委任] 天皇は、この憲法

    定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。

  ②略。

以上見てきたように、明治憲法では、天皇は元首として日本を統治し、その統治

明治憲法により行う、となっていた。

それが昭和憲法では、主権は日本国民が有しており、天皇は日本国及び

日本国民統合の象徴となっている。

何はともあれ、明治維新では、天下の政権は幕府の独裁から朝廷に奉還され、

貴族院衆議院の両院を設けて帝国議会を成立させ、万機を公論で決める仕

組みの上で、天皇がこれを統治した。人材の登用もなり、幕府政治から近代化

へと一大模様替えを図っていった。幕藩体制から政権が朝廷に奉還され其の

運営は維新政府へと返還された。

その中心には天皇制があった。天皇制があったからこそ明治維新が成就でき

たのである。古の神代の時代から連綿と継承されている天皇制があったればこ

そ、日本国全体が一致団結できたのである天皇を頂点として、公卿、諸侯、

一般民衆が日本国民として、まとまることができたのである。このことなくしては

封建体制から明治近代化への脱皮は難しかったことであろう。

(続く)