≪「今ある危機」が問題だ≫
故に、現下の安全保障に絡む現実を前にすれば、田母神俊雄前航空幕僚長
が自らの論稿を通じて行おうとしたのが、主に「過去の戦争」への評価に関する
異議申し立てであったのは、率直に奇異なことであったと断じざるを得ない。筆者
は、武官は、何かを語るにしても、「軍事専門家」として「現在の課題を前にして、
軍事作戦上、何が出来て何が出来ないのか」を世に知らしめることに徹すればよ
いのであって、「過去の戦争」への評価に容喙(ようかい・脇から差し出口をする)
し、「国士」を髣髴(ほうふつ)させる思想家、政治活動家もどきの振る舞いに及
ぶ必要性は全くないと考えている。
安全保障政策は、「経済立国・日本」の存立を支える国際社会の安定を維
持し、年金・医療・介護といった福祉、産業振興といった国民生活に直接に関わ
る施策の基底を支えるという意味では 誠に実践的な性格を持つ政策領域であ
る。それは、本来は、「歴史認識」論議の文脈で期待されるような「国家の威信」
といった要件とは直接の関連を持つものではない。
結局のところは、「進歩・左翼」層も「保守・右翼」層も、陸海空三自衛隊の活動
を語る折に、六十余年前の日本の軍隊の活動への評価と重ね合わせる性癖を
直すに至っていないのであろう。彼らは、「今、そこにある危機」には生真面目に
向き合っていないのである。こうした惰性こそは、今後の安全保障政策を進める
上でも、最たる「支障」であり続けるのであろう。(さくらだ じゅん=東洋学園大学
准教授)http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/205847/
尚、産経ニュースのURLは下記。2008.12.19 03:33 トピックス:金融危機
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/081219/plc0812190333006-n1.htm
この記事は、いみじくも日本の安全保障政策の未熟さに、警鐘を与えたものであ
り、意味のある提言とみるが、よく読んでみると櫻田淳教授自身も、ご本人が
言っているように、「今、そこにある危機」には生真面目に向き合っていない様で
ある。そしてWar Guild Information Programの惰性に引きずられて、「今、そこ
にある危機」が何たるかを理解できていないような書きっぷりをしている。
教授自身は、日本の安全保障政策が直面する「根本的な現実」が何たるかを、
しっかりと述べていない。国防費が0.8%ではなぜ足りないのか、「国際社会の
抱えるさまざまな問題」に積極的に関わってゆくことが、日本の直面する「根本的
な現実」なのか。「国際社会の抱えるさまざまな問題」に積極的に関与するため
に、国防費を増やさなければならないのか。
(続く)