マルーニさんは異質を指すのに「アノマリー」という英語を使った。
どの五輪でも近年は開会閉会の式から各種競技までのイベント入場券をイン
ターネットで売り出すようになったが、今回に限ってグローバルな規模での詐欺
サイトが誕生した。「beijingticketing.com」というサイトで各種チケットの販売が
始まり、多くの人が購入したものの、すべて架空だと判明した。
被害総額は5000万ドル以上で、米国などの司法当局が捜査を始めた。
マルーニさんもあわや被害にあうところだった。
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中国政府が五輪の計画どおりの実施という目的のためにチベット人を弾圧し
たり、宗教指導者や民主活動家を抑圧したりするという事態も、マルーニさんに
は「五輪の本来の目的をあまりに踏みにじる行動」として壁となった。一度は自分
なりの北京五輪ボイコットを考えたが、とにかく現実をみることにした。
米国の旅行会社を通じて北京でのホームステイを申し込んだ。中国人家庭に
五輪期間中、合計800ドルを払って滞在するという計画だった。だが当局への
滞在の登録や中国人家族への英語教授の義務など制約が多すぎることがわ
かって、旅行会社が計画全体をキャンセルしてしまった。
ちなみに北京市内の朝陽区では当局が外国人ホームステイ用に600の家庭
を選び、各国に宣伝したが、8月までに応募は2組だけ。ドイツ人夫婦と、イスラ
ム過激派につながるテレビ局「アルジャジーラ」の記者だったという。
北京入りしてからのマルーニさんはまず入場券の偽造と超高値の闇市場売り
のあまりの横行にびっくりした。しかも観客席がガラガラという場合が多いのだ。
歴代の五輪でも初めてみる現象だった。そして一般観客を含む外国人への監視
と規制の激しさも想像を超えていたという。(続く)