尖閣諸島問題(125)

そして日本に接する東シナ海では、1970年代から海洋調査を始めている。80

年代に入ると試験的な石油試掘も実施している。この間日本は、先に述べたよ

うに試掘の権利は与えたものの、試掘の実施は中国に慮(おもんぱか)って許可

させなかった。実に情けないことであった。その間中国は着々と東シナ海の海洋

調査を実施し、軍事面と資源開発面での調査を遂行していった。1990年代に

入ると東シナ海の調査は、ますます活発化していった。

            
この間、中国は二つの重要な決定を下している。
          

その一つは1980年代後半(年表では1985年としている。)に導入され

「戦略的国境概念」である。「地理的国境」が国際的に承認された静的な安

定した国境であるのに対して、「戦略的国境」はその時々の国の意思やそれを

支える軍事力によって変化させることが出来るもの、と定義している。すなわち

中国によれば、国家の総合的な力、国力によって変化させることが出来るもの

なのだ。「地理的国境」はもとより、更に拡大された「戦略的国境」をその国家の

総合力で長期的に維持すれば、維持した戦略的国境を地理的な国境に拡大で

きる、と中国政府は考えている。(財)DRC研究委員・五味睦佳氏は、「中国の

国境に対する考え方」をこのように述べている。これは恐ろしいことである。国

力(国家の総合力)によって国境は拡大できると言うことは、軍事力によって国

境を拡大する
と言うことであり、中国は国策として侵略により国境を拡大させる

と宣言していること等しい。中国は十分に、日本を侵略する意思と軍事力

持っている。その手始めが、尖閣諸島への侵略である。事実中国は、1971

年に、既に尖閣諸島の領有を宣言しているのである。先の年表を確認すると、

1971.12.30に外交部声明と言う形で、日本の尖閣諸島の領有を宣言している

のである。


これと相前後して、中国は「海軍発展戦略」を発表し正式に航空母艦の保有を

公表している。これは1986年のことである。そして年表を確認すると、1980

年5月
には大陸間弾道弾ICBMを完成させ、1985年には人民解放軍の近代

化の第一段階が完了し、百万人の兵員を削減している。更に1986年12月

には、原子力潜水艦の外洋航海にも乗り出し、潜水艦発射短距離ミサイルの発

射実験にも成功している。そして空母の保有宣言である。中国は、着々と覇権

を唱えるために戦力を増強させ、拡大させているのである。この質・量的な中

国軍の拡大
は、その意図が判然としてないと言われているが、そんなことは

無い。彼らは、中国の意図を安易に、軽く判断しているに過ぎない。明らかに中

国は尖閣諸島の領有を狙っているのであり、日本を属国にするための米軍に

対抗
するための軍事力拡大なのである。
            

そしてその二つ目は1992年に「領海法」を制定したことである。そこ

には尖閣諸島をはじめ、西沙、南沙諸島、台湾を含む多様な地域の領有権を

一方的に明記
してある。そして、その地域の防衛する権利は、中国人民解放

軍が持っていると主張しているのである。全く何をかいわんや、である。こんな

国が隣に存在しているのである。中国は、自分勝手に法律を作り、それを盾にし

国際法を無視して領土や領海への主権を主張しているのである。そしてその

履行には軍事力も辞さないと宣言しているのである。こんな国が、国連の常任

理事国となっているのである。明らかに世界というものは、無政府なのである。

いくら国連があっても、中国のこの無法な振る舞いには何の咎めもしないので

ある。これに対しては、日本は自分で自分を護らなければならないのである


そして1992年以降中国の海洋調査船が、我が物顔で日本近海に頻繁に出没

し始めたのである。更に1995年5月には、中国海洋調査船向陽紅9号

一ヶ月以上尖閣諸島沖縄トラフを囲む海域で資源探査を実施し、1995年

12月から1996年2月
まで石油試掘リグ勘探3号が試掘までやっているの

である。この何れもがわが巡視船の中止命令を無視しての行為であった。


そして1998年「平胡ガス田」の開発に成功するのである。平胡ガス田は日

中中間線から約70km程中国寄りにあるが、2004年5月28日には、日中中

間線からわずか4kmほどの中国よりに位置する春暁ガス田」の開発に着手

したのである。


中国は、1974年1月に西沙諸島を支配下におさめ、更に1980年代には南沙

諸島をもその支配下におさめているが、この時も相手国の行動を見据えながら

なし崩し的に西沙や南沙の島々を占領していった。今回の尖閣諸島近海でのこ

の中国のやり方は、将にこのなし崩し的な軍事力と恫喝を背景とした侵略

他ならない。相手国がしかるべき対応をとらないと見るや迅速果敢に侵略

(進出)し実効支配をしてきたのである。尖閣諸島でも同様な手をとっているので

ある。

(続く)