尖閣諸島問題(130)

海保のオンボロ船

だが、日本こそ真の海洋大国だ。日本の安全と繁栄は確実な海の守りが大

前提
で、その最前線に立つのが海保海上自衛隊である。だが双方ともに、

強大化する中国の海軍力とは反対に、予算の減少に泣き、船も航空機も大いに

不足している。たとえば、海保の巡視船・艇約350隻、航空機約70機の4割が耐

用年数を超えて老朽化しているのだ。


巡視船「なとり」は32年前の船だ。上甲板が腐食し、無数の小さな穴が開いて破

れそうに見える。船齢28年の巡視船「ひたち」はなんと燃料タンクの腐食が進み、

目視出来るほどの穴がある。船齢33年の巡視船「まつうら」は主エンジンにつな

がる配管が腐食してボロボロだ。


これで、日本の海を侵犯する外国船の脅威に対処せよとは、現場の隊員が気

の毒だ。それでなくても海保の船の能力不足が指摘されてきた。連想するのは

1999年3月
北朝鮮工作船2隻が能登半島沖に侵入したときのことだ。結

論からいえば、あのとき、海保は対応出来なかった。海保は巡視艇15隻、航空

機12機で追跡したが、工作船は速度を上げて逃走を続け、海保の船は追いつ

けず、追尾を諦めたのだ。代わって追尾したのは海自の艦艇だった。


それにしても海保の船はなぜ、こんなに老朽化しているのか。外国の海上保

安機関と比較すると原因の一端が見えてくる。情報非公開の中国とロシアを除

き、米国、韓国、台湾との比較を見てみる。


まず、予算である。海保の予算のGDPに占める割合を1とした場合、米国は22、

韓国は3.6、台湾は3.1である。米国の予算が思ったより少なく思えるかもしれな

いが、米国には世界最強、最大規模の海軍がある。その海軍に守られていてさ

え、沿岸警備に日本よりはるかに多くの予算を、米国は割いているのだ。


EEZ10万平方キロあたりの船艇数は、日本を1とした場合、米国2.4、韓国5.8、

台湾3.2である。EEZ10万平方キロあたりの航空機の数は、日本1、米国1.6、

韓国2.1だ。海岸線1キロあたりの隊員数は、日本1、米国6.6、韓国13.7、台湾

26.7である。


海保の予算、船、航空機、人員、すべてが不足なのだ
。だが、自衛隊海保

の役割分担の異常さも見なければ、海保を取り巻く状況の真の厳しさは見えて

こない。


戦後日本ではずっと、自衛隊を雁字搦めに縛りつける政策が続き、本来海自が

果たすべき役割であっても海自は遠ざけられ、代わりに海保が駆り出されてきた。

結果として海保にとっては恒常的に過剰負担の状況が続いている。
              

「道路局」には6兆円

たとえば領海警備だ。他国ならば平時から海軍が領海を警備する。日本は海

自を封印し、海上で犯罪が発生した場合に、海保が出動する。尖閣諸島周辺

の領海に常駐するのも海保の船だ。同海域には時として中国海軍の軍艦が遊

弋する
中国の軍艦に睨みを利かせ得るのは海自であって海保ではない

ソマリア沖の海賊退治にも当初、海保の派遣が検討された。国際社会では、犯

罪集団としての海賊への対応は海軍の出動が大前提だ


日本ではこうしたことのおよそすべてに、まず、海保が出される。にも拘らず、海

保の予算、装備、人員は、先に見たように、著しく貧弱だ。


たしかに海保は、現在、老朽船を順次新型に替え、情報通信システム等の整備

も進めつつある。だが、その整備の速度も規模も、日本周辺海域の緊迫度に較

べれば遅々たるものだ。新型への更新の緊急整備予算は少なくとも3,800億円

が必要だと見積もられているのに対し、手当されているのは2,000億円だ。


航空母艦の建造を発表し、海軍大国への道を明確に歩み始めた中国は、尖閣

領有権を主張して止まず、その主張を尚、強めつつある
。日本は外交交渉

の柱としても、海保と海自双方の力を急ぎ整備しなければならない。にも拘ら

ず、なぜ、海保の困窮状態は改善されないのか。


海保を所管する国土交通省の考え違いもその一因ではないか。海保の年間予

算は1,858億円。船が腐食し、緊急整備予算も十分に手当してもらえないとき、

同じ国交省の道路局には、毎年特別会計から6兆円余りもの資金が流れ込む。

海保の船や航空機の老朽化にまともに向き合わず、領土領海の侵犯に目をつ

ぶり、道路局ひとり甘い権益を貪り続けているわけだ。国家政策の重要性と優

先度についての判断が出来ていないのである。日本国全体として海保と海自の

役割分担など取り組むべき課題は多いが、国交省自身、自分の足下から国

益に基づいて政策と予算配分を改善していく必要がある


2009年03月05日 | 中国・領海, 北朝鮮・韓国, 周辺諸国・外交, 安全保障・自衛
隊・イラク復興, 領土・領海・ガス田
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ここは是非、前原誠司国交相大臣に期待したいところである。

次は「正論」6月号の中国共産党が放置するシルクロード核ハザードの恐

怖」
の紹介である。


(続く)