番外編・プリウス急加速問題(24)

p-3.7危機に直面するトヨタの御曹子
2010年 2月 4日  20:38 JST

 トヨタ自動車の米国での販売一時停止は、祖父の創業した巨大自動車メーカーのトップに

昨年就任した豊田章男氏にとって、まさに悪夢の実現だ。


 世界ナンバーワンの自動車メーカー、トヨタの設計・製造・販売方法の見直しに着手した同

社長は、品質にからむ問題がいずれトヨタを襲うことになるのをかねてから懸念していた

と、同氏をよく知る関係者は話している。豊田社長は今、そうした事態の収拾に躍起となって

いる。


 トヨタにとって、今回のリコールは品質の信頼性についての評判を損なうだけでなく、収益性

回復を妨げ、相次ぐ訴訟を招きかねない。今回の大失態は、トヨタの経営陣に厄介な疑問を

突きつける。果たしてトヨタは、品質を犠牲にして世界マーケットシェア獲得に突き進んできた

のだろうか。


 今回の安全性の問題は深刻さを増している。


 トヨタは27日、ペダルがフロアマットに引っかかる問題で昨年末に発表したリコールの規模

を拡大すると発表。当初430万台のトヨタおよびレクサスの人気8車種が対象だったが、さら

に4車種110万台が加えられた。リコールの規模は当初430万台の時点で既に同社史上最

大。今回の問題は、サンディエゴのハイウエーでレクサスES350セダンが加速暴走して乗

員4人全員が死亡した事故が引き金となっている。


 現下の危機への対応策として、トヨタは、ハイブリッド車プリウスやミニバンのシエナとい

った車種の販売に力を入れる。同社はディーラーに顧客を呼び込むため、新しい販売促進策

を発表する予定だ。今回の問題で、同社の収益喪失は週当たり5億ドルにも達するとアナリ

スト筋は見積もっており、販売インセンティブはそれを最小限に抑える助けになるかもしれな

い。一方で、トヨタはアクセルペダル問題の解決策を見つけることにも必死で取り組んでいる

が、解決にはまだ何週間もかかる見込みだ。


 同社は26日、顧客の安全とトヨタへの信頼回復に全力を傾けることを表明した。アクセルが

戻りにくくなる可能性を理由に230万台のリコールを発表した先週、トヨタは、今後引き続き

「予期せぬ加速の発生について調査し、特定された(事例)傾向に適切な措置をとる」とした。

トヨタのスポークスマン、マイク・ミヒェルス氏は27日、販売一時停止が、リコールに伴う法律

で定められたものだとして、「自主的なものではない」と語った。


 トヨタライバル各社は、顧客を奪う絶好の機会ととらえている。ゼネラルモーターズ(G

M)は27日、 GM製の乗用車やトラックに乗り換えるトヨタ車オーナーに対してキャッシュバッ

クまたはゼロ金利ローンを提供すると発表した。


 GMの小売事業本部長スティーブ・ヒル氏は、「お客は『こんな車はもうご免だ』と言ってい

る」と話している。ヒル氏によると、GMのディーラーのもとには、27日夜以降、不満を抱くトヨ

タ車オーナーからの問い合わせが殺到しているという。


 安全性と信頼性のリーダーとしてのトヨタの評判が危機にひんする中、豊田社長の使命

は、いよいよ焦眉の急となっている。


 豊田社長は、昨年6月の就任直後の記者会見で、トヨタが過去10年間、世界最大の自動

車メーカーになることに全力を傾けるあまり、顧客第一という同社のコアバリューがなおざ

になっていると語った。


 豊田氏は当時、世界中の顧客ニーズを満たすために事業を拡大したのは間違いではない

と思うが、手を広げすぎたきらいはある、と語っていた。


 27日に取材したトヨタのある幹部は、意図せぬ加速を引き起こした恐れのある欠陥につい

トヨタがどれくらい前から気付いていたのかという質問に答えることを控え、「時期の問題は

非常に重要なポイントだ。それはトヨタにとって法律面できわめて厄介な問題になりかねな

い」と語った。


 米幹線道路交通安全局(NHTSA)の記録では、トヨタおよびレクサス車が突然予期しない

加速をするとの苦情は数年前からあった。NHTSAは2004年に、02と03年式のレクサス

ES350とトヨタ・カムリでの速度制御問題について調査した。


 当時は何の措置も取られなかった。この件についてのNHTSAの最終報告書は、「現時点

では欠陥傾向は確認されていない」として調査継続は必要ないと結論付けていた。


 トヨタのスポークスマン、ブライアン・ライアンズ氏によると、同社には、エンジンスピード制御

に関する苦情が過去10年間に2000件以上寄せられているという。同氏は、NHTSAカテゴリ

ーを構成する要素があまりにも多いため、根本的な問題の診断はきわめて困難になっている

としている。


 同氏は、「苦情だけを基に判断するのは非常に難しい。故障の原因を見極める最善の方法

は、個々の車両を調べることだ」と述べている。


 過去のリコール事例にかかわっていたトヨタの元幹部は、「何が何でも」成長と利益を目

指す
同社の姿勢のせいで、品質問題が未解決のまま放置されたとしている。


 トヨタの成長への注力は、1995年社長1999年会長に就任した奥田碩相談役の台

頭を契機としていた。奥田氏の下、トヨタ世界最大の自動車メーカーになることを目指し

た。


 トヨタは、その後10年間、米国で急成長を遂げ、売上を伸ばすとともに、米国の製造拠点を

拡大した。2000年には160万台だった米国での販売台数が、2007年には260万台に達し

た。


 2005年トヨタは、フルサイズ・ピックアップ市場における米国自動車メーカーの支配に挑

戦することを試み、サンアントニオの工場に大々的な投資を行った。2008年には、スポーツ

RAV4製造のため、カナダ・オンタリオ州に新工場を完成させた。また、もともとSUVのハ

イランダーを製造する予定だったミシシッピ州にもう一つ工場を建設する計画も発表した。


 拡大を続けるなかで、トヨタ品質問題に直面した。トヨタ2005年に、米国で238万台の

リコールを行った。それは同じ年に同国で販売した台数を若干上回る規模だった。


 諸問題に直面した当時の渡辺捷昭社長は、2006年、一部新型の導入を半年も遅らせ

た。この措置は、車両および部品設計に取り組むより多くの時間を技術陣に与えるためだっ

た。渡辺氏は、場合によっては、新製品を導入するために、ほかで予定された製品を全面的

に廃止することも決定した。


 2カ月にわたる見直しの結果、トヨタは、グローバルな事業拡大重視のせいで、製品開発

プロセスにほころび
が出ていると結論付けた。渡辺氏は当時のインタビューの中で、同社技

術陣が、場合によっては、現物のプロトタイプを製作せずにコンピュータ・シミュレーション

に頼りすぎるといった、十分な品質チェックを行うことなしに、製品を急いで送り出していた可

能性を指摘した。トヨタはそうしたやり方にブレーキを掛けた。

トヨタ・リコール問題」の関連記事はこちら>> (http://jp.wsj.com/ed/toyota/

記者: Kate Linebaugh and Norihiko Shirouzu   
http://jp.wsj.com/Business-Companies/Autos/node_26986

  

今のトラブルはトヨタの管理できうる範囲を超えて手を広げすぎたために起きている、と言っ

ていたが、トヨタのクルマ作りから小生が感ずる所から推察すればそうは思われない。今のト

ヨタには十分管理できる力量が備わっていると、小生は感じている。力量がなければ、きちん

と各種のクルマのモデルをチェンジして、世の中に供給できてはいないであろう。問題は、そ

の力量を全員がそのことに集中してゆくマインドが薄くなってきているからではないのか。そ

の事は豊田綱領を見ればよく分かる。

(続く)