番外編・プリウス急加速問題(30)

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「景気がよいときには誰でも経営者は務まる。それは、自動操縦の飛行機に乗っ

ているようなものだ。問題は、企業が逆境に置かれたときだ」とは、ある大手

企業経営者の言葉である。


 彼は、「景気がよくて企業が順調に動いているときは、経営者の重要性は相対

的に低いが、一旦景気が悪化して業績が落ちたりすると、途端に経営者の重

要性
が増す」と言いたいのだ。


好景気にはむしろ存在感薄?
不況下における経営者の重要性


 リーマンショック以降の景気急落によって、わが国企業の多くは、まさにそうし

た状況に遭遇した。そうした状況を打開するためには、どうしても、企業のリーダ

ーたる経営者の役割が重要になる。


 企業が生き残るためには、リストラなど痛みを伴う施策を実行したり、今までと

は違うビジネスモデルを考え出さなければならないからだ。それは口で言うほど

簡単なことではない。逆に言えば、そういう状況だからこそ、経営者の力量が生

きるのである。


 今回のトヨタのリコール問題については、今までのところ、豊田章男社長の経

営能力が十分に発揮されているとは考えにくい。むしろ、「最高責任者である章

男社長が、リコールの表舞台を避けている」という印象を与えたことは、問題を

一層深刻にした。


 それが社内外に与えたマイナスの影響は、無視できない。すでに組織のなか

からも、「創業者一族の社長が登場したことにより、求心力を高める目的が裏目

に出てしまった」という見方も出ているようだ。


 問題は、今後豊田章男社長が、難局に正面から向かって行く姿勢を示せる

か否かだ。逃げずに立ち向かうことによって、組織内外の信頼を回復することを

最優先すべきだ。


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 現在のトヨタの財務内容を見ると、今回のリコール問題により、短期間で企業

自体の屋台骨がおかしくなることはないだろう。しかし、今回の問題をきっかけに

して、トヨタが長期的な低迷期への入り口に入る可能性もある。 


 企業経営については、昔から「築城3年、落城3日」と言われることが多い。こ

れは、長期間かけて積み上げてきた企業の強みが、何かのきっかけでわずかな

期間に雲散霧消することをいう。企業経営とは、それだけ微妙なものなのだ。


トヨタ長期低迷への入り口か?
章男社長の出方は、日本経済を左右


 今回のリコールによる損失の発生をきっかけに、トヨタの企業としての活力が

大きく低下するようなことにでもなれば、今後同社の収益力は坂を転げるよう

に落ち込んでいく
ことも考えられる。


 特に今回の問題においては、製品そのものに対するお客の信頼が大きく傷つ

いたのである。しかも、自動車という耐久消費財の特性から考えて、安全性は

最も重要なファクター
である。


 トヨタ・ブランドの損傷度合いはいかほどか、まさに計り知れない部分がある。

同社は、少なくとも今後数ヵ月程度、お客のスタンスを注視することが必要にな

るだろう。


 もしリコール問題が予想外に長期化することになると、トヨタ自身の収益性が

低下するだけでなく、わが国経済全体に与える影響も憂慮しなければならない。


 特に今回は、わが国の“モノ作り”に対する信頼に傷がついたわけだから、“メイ

ド・イン・ジャパン”製品全般に対する波及効果は小さくはないはずだ。


 そう考えると、豊田章男社長の経営力はトヨタだけの問題ではなくわが国に

とってもかなり大きなファクターになるだろう。豊田章男社長には、ぜひ真正面か

ら困難に対峙して欲しいものだ。

http://diamond.jp/articles/-/818

   

Wall Street Journalの解説は、辛らつだ。5月4日、5日、6日と連続して紹介

したが、豊田章男政権は短期政権と結論付けており、品質問題は奥田、張、渡

辺時代の拡大路線に端を発していると分析し、しかしボードメンバーだった豊田

章男も、メンバーとしてそれを防ぐことが出来ていなかった。しかもトヨタ社内に

は、豊田章男派とアンチ章男派との抗争が激しく、章男社長はこの難局に対し

て強力なリーダーシップを発揮し切れていないと言っている。そしてトヨタ一社だ

けの問題でなく、日本の経済全体への影響が心配だとも言っている。


これは困った事だ。鳩山民主党政権は全く役に立っていないどころか、トヨタの行

く先々に先回りして、あたかも足を引っ張り回すような振る舞いばかりしている。

これではいくらトヨタが頑張ってリコール問題を解決しようとしても、沈静するどこ

ろではない。長引くばかりだ。しかしトヨタは今こそ本来に戻って愚直に徹して対

応してゆくしかない。ともかくアメリカ国民のトヨタへの信頼は全くなくなってしまっ

たという状態ではない。トヨタの頑張りどころである。果たしてトヨタはこの内部抗

をどのように解決してゆくのか。

(続く)