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「景気がよいときには誰でも経営者は務まる。それは、自動操縦の飛行機に乗っ
ているようなものだ。問題は、企業が逆境に置かれたときだ」とは、ある大手
企業経営者の言葉である。
彼は、「景気がよくて企業が順調に動いているときは、経営者の重要性は相対
的に低いが、一旦景気が悪化して業績が落ちたりすると、途端に経営者の重
要性が増す」と言いたいのだ。
好景気にはむしろ存在感薄?
不況下における経営者の重要性
リーマンショック以降の景気急落によって、わが国企業の多くは、まさにそうし
た状況に遭遇した。そうした状況を打開するためには、どうしても、企業のリーダ
ーたる経営者の役割が重要になる。
企業が生き残るためには、リストラなど痛みを伴う施策を実行したり、今までと
は違うビジネスモデルを考え出さなければならないからだ。それは口で言うほど
簡単なことではない。逆に言えば、そういう状況だからこそ、経営者の力量が生
きるのである。
今回のトヨタのリコール問題については、今までのところ、豊田章男社長の経
営能力が十分に発揮されているとは考えにくい。むしろ、「最高責任者である章
男社長が、リコールの表舞台を避けている」という印象を与えたことは、問題を
一層深刻にした。
それが社内外に与えたマイナスの影響は、無視できない。すでに組織のなか
からも、「創業者一族の社長が登場したことにより、求心力を高める目的が裏目
に出てしまった」という見方も出ているようだ。
問題は、今後豊田章男社長が、難局に正面から向かって行く姿勢を示せる
か否かだ。逃げずに立ち向かうことによって、組織内外の信頼を回復することを
最優先すべきだ。
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現在のトヨタの財務内容を見ると、今回のリコール問題により、短期間で企業
自体の屋台骨がおかしくなることはないだろう。しかし、今回の問題をきっかけに
して、トヨタが長期的な低迷期への入り口に入る可能性もある。
企業経営については、昔から「築城3年、落城3日」と言われることが多い。こ
れは、長期間かけて積み上げてきた企業の強みが、何かのきっかけでわずかな
期間に雲散霧消することをいう。企業経営とは、それだけ微妙なものなのだ。
トヨタ長期低迷への入り口か?
章男社長の出方は、日本経済を左右
今回のリコールによる損失の発生をきっかけに、トヨタの企業としての活力が
大きく低下するようなことにでもなれば、今後同社の収益力は坂を転げるよう
に落ち込んでいくことも考えられる。
特に今回の問題においては、製品そのものに対するお客の信頼が大きく傷つ
いたのである。しかも、自動車という耐久消費財の特性から考えて、安全性は
最も重要なファクターである。
トヨタ・ブランドの損傷度合いはいかほどか、まさに計り知れない部分がある。
同社は、少なくとも今後数ヵ月程度、お客のスタンスを注視することが必要にな
るだろう。
もしリコール問題が予想外に長期化することになると、トヨタ自身の収益性が
低下するだけでなく、わが国経済全体に与える影響も憂慮しなければならない。
特に今回は、わが国の“モノ作り”に対する信頼に傷がついたわけだから、“メイ
ド・イン・ジャパン”製品全般に対する波及効果は小さくはないはずだ。
そう考えると、豊田章男社長の経営力はトヨタだけの問題ではなく、わが国に
とってもかなり大きなファクターになるだろう。豊田章男社長には、ぜひ真正面か
ら困難に対峙して欲しいものだ。
http://diamond.jp/articles/-/818
Wall Street Journalの解説は、辛らつだ。5月4日、5日、6日と連続して紹介
したが、豊田章男政権は短期政権と結論付けており、品質問題は奥田、張、渡
辺時代の拡大路線に端を発していると分析し、しかしボードメンバーだった豊田
章男も、メンバーとしてそれを防ぐことが出来ていなかった。しかもトヨタ社内に
は、豊田章男派とアンチ章男派との抗争が激しく、章男社長はこの難局に対し
て強力なリーダーシップを発揮し切れていないと言っている。そしてトヨタ一社だ
けの問題でなく、日本の経済全体への影響が心配だとも言っている。
これは困った事だ。鳩山民主党政権は全く役に立っていないどころか、トヨタの行
く先々に先回りして、あたかも足を引っ張り回すような振る舞いばかりしている。
これではいくらトヨタが頑張ってリコール問題を解決しようとしても、沈静するどこ
ろではない。長引くばかりだ。しかしトヨタは今こそ本来に戻って愚直に徹して対
応してゆくしかない。ともかくアメリカ国民のトヨタへの信頼は全くなくなってしまっ
たという状態ではない。トヨタの頑張りどころである。果たしてトヨタはこの内部抗
争をどのように解決してゆくのか。
(続く)