番外編・プリウス急加速問題(36)

“よい謝罪”と“悪い謝罪”

現代は“謝罪の時代”である。あらためて指摘するまでもなく、近年、トップマネジ

メントの公式謝罪が増えている。企業のトップがテレビ画面で頭を下げるシーン

は、いまや日常茶飯事となった。


実際、2004年以降、六本木ヒルズの大型回転扉の挟まれ事故をはじめ、姉歯

秀次元一級建築士のマンション耐震強度偽装事件、松下電器(現パナソニック

のFF式石油温風機による一酸化炭素中毒事故、シンドラー社のエレベーター挟

まれ事故、パロマのガス瞬間湯沸かし器の中毒事故、三菱自動車の大型車タイ

ヤ脱落事故、ソニー製のリチウムイオン電池発火事故などが相次ぎ、各企業のト

ップが次々に頭を下げた。


加えて、赤福石屋製菓白い恋人」、不二家船場吉兆雪印乳業、ミートホー

プ、比内鶏など、食品業界でも偽装発覚が相次いだ。まさしく、日本は第一級の

〝謝罪社会〟といっていい。


謝罪には、“よい謝罪”と“悪い謝罪”がある。


まず、タイミングが重要である。今回は、トップの謝罪が遅かったと非難された。

もっと早く米国に出掛けて謝罪していれば、かくも大騒動にはならなかっただろう

という意見が多いが、話はそう単純ではない。トップが謝罪のタイミングを間違え

れば、自殺行為になりかねないし、火に油を注ぎかねないからだ。だから、早け

ればいいとは一概にいえない。


また、トップが謝罪をするからには、そうとう慎重にならざるをえないのは事実だ

ろう。ちなみに、死者が出た旧松下電器のFF式石油温風機の事故で謝罪したの

は、当時の副社長の戸田一雄氏で、社長の中村邦夫氏ではなかった。また、ソ

ニー製のリチウムイオン電池によるPC発火事故でも、謝罪会見に社長は出な

かった。


加えて、心からの謝罪の気持ちが伝わらなくてはいけない。話し方、頭を下げる

角度、服装など、何か一つでも欠ければ、たちまち揚げ足を取られる。


過去、日本マクドナルド代表取締役会長兼社長CEOの原田泳幸氏が、赤いネク

タイで謝罪会見に臨み、新聞紙上で批判を浴びた。先日も冬季五輪スノーボード

國母和宏選手が、公式服の“腰パン”騒動で謝罪会見をしたが「反省してまー

す」という軽いノリで発言し、さらなる批判の声が上がったのは記憶に新しいとこ

ろだ。


課題となるのは、豊田章男氏の謝罪が、グローバル企業として“よい謝罪”であっ

たかということだ。はたして、米国をはじめ、世界の顧客に心からの謝罪の気持

ちが伝わったかどうか。豊田章男氏は、公聴会の報告会で、「自分の言葉で一

生懸命伝えようと努力致しました。しかし、言葉の壁もあり、どれだけ伝わったか

はわかりません」とコメントした。


豊田章男氏の日本の記者会見での謝罪をめぐって、米CBSテレビは「社長は、

謝罪の言葉を述べる際に深く頭を下げなかった」と報道した。公聴会での謝罪に

ついての評価をいま下すのは時期尚早かもしれないが、公聴会への出席後、ト

ヨタバッシングが収まったことを思えば、効果があったといって間違いない。


自動車産業に限らず、日本企業は、いまアジア勢との厳しい戦いを強いられて

いる。武器ともいうべき品質に傷が付いたことは、日本企業の競争力の低下を

招きかねない。その意味で、トヨタがいかに品質問題を克服し、復活するかに日

本企業の今後が懸かっている。


今回のリコール問題で明らかになったのは、トヨタには危機管理のほか、組織の

肥大化による官僚化、グローバルマネジメントに関して弱点があることだ。


「オールトヨタ緊急ミーティング」において、登壇した豊田章男氏のほか、米国トヨ

タ自動車販売社長兼COOのジム・レンツ氏、米国トヨタ自動車販売会長兼CEO

の稲葉良み(目へんに見)氏、トヨタ自動車副社長の佐々木眞一氏、同副社長

の内山田竹志氏の5人の役員は、販売、技術などの立場の違いはあるにしても、

異口同音に「今後、仕事のやり方、組織の在り方を全般的に見直します」と語っ

た。


今回の問題を契機に、トヨタは組織体制の抜本的な見直しとともに、組織能力の

再構築に取り組まざるをえないだろう。

http://news.goo.ne.jp/article/php/business/php-20100410-02.html

    

しかし現実問題として、この問題は更に続く。それはトヨタへの訴訟問題である。

このリスクにトヨタは如何に立ち向かうのか、まだまだ目が離せないし、その対

応如何ではトヨタの盛衰が左右されないとも限らない。

       

  
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【第168回】 2010年4月13日 週刊ダイヤモンド編集部

p54トヨタに残された最大のリスクについて語ろう」
企業賠償責任の専門家トム・べーカー ペンシルベニア大学教授に聞く

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トヨタの大規模リコール問題に関するメディア報道は鎮静化に向かう一方、集団

訴訟が全米各地で起こされている。原告には死亡事故の遺族に加え、トヨタ

のオーナーや株主なども含まれ、賠償総額は数十億ドルとも数百億ドル(数兆

円)とも言われている。そこで企業のリスクや賠償責任に詳しいトム・ベーカー教

授に、賠償総額の見通しやトヨタに残されたその他のリスクなどについて聞いた。

(聞き手/ジャーナリスト・矢部武)


トム・ベーカー(Tom Baker)
専門は民事訴訟法、保険法など。企業のリスク、賠償責任などを経済・社会学

の視点をまじえて研究する著名な学者。法学者、人文学者、社会学者などで組

織される研究団体“保険と社会研究グループ(ISSG)”の共同設立者である。最

近は、株主代表訴訟のリスクに備える賠償責任保険のプレミアム(保険料)が企

業のコーポレートガバナンスリスク管理などとどう関係しているかの研究に取

り組む。また、著書「医療過誤神話(The Medical Malpractice Myth)」(2005年)

では、民事訴訟改革(行き過ぎた訴訟を抑制するための)に向けた動きの背景

にある誤った考えを批判し、現実的な解決策を提案して高い評価を得た。


―リスクや賠償責任の専門家としてトヨタのリコール問題をどうみるか。


 それは非常に大きな質問だが、まずトヨタが何を間違えたかを言う前に、何を

うまくやってきたかを説明しよう。トヨタは長い期間をかけて、「安全で信頼性の

高い車をつくる会社である」と人々を説得することに成功した。だから米国人消

費者は、同じサイズや性能なら少しぐらい値段が高くても他社の車よりトヨタ車を

購入しようとしてきたのである。


 しかし、大規模なリコール問題でトヨタ車への安全性に対する信頼が崩れ始め

ている。


―全米各地で集団訴訟が起こされているが。


 米国社会では何か問題が起きた時に原因や責任などをはっきりさせるために、

訴訟は大きな役割を果たしている。新聞などでも訴訟に関する記事を毎日のよ

うに目にする。これは米国人が何百年にもわたって用いてきた問題解決の手段

なのである。

(続く)