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見事なまでの一体化!
組織づくりのポイントは?
日本代表がワールドカップを戦うには必要不可欠だった“戦略の変更”です
が、これほど「言うは易し、行なうは難し」と言えるものはありません。普通であ
れば、メンバー内にこの変更に対して疑問を抱くものがいたりするものです。
また、企業においても通常は組織の混乱が避けられなくなるケースも多々あり
ます。
では、なぜ今回のサッカー日本代表においては、大きな混乱がなかった(少なく
とも現地報道からそういう類の話は出ていなかったようだ)のでしょうか?
ひとつは、やはり親善試合4連敗という結果にもとづく強烈な反省があります。
トップである岡田監督が戦略の変更を決断したように、代表メンバーも「このま
までは戦えない」という危機感を共有することができたのではないでしょうか。
その大きな危機意識が、「何とか新しい戦略を自分たちのモノにしなければなら
ない」という行動へのドライブにつながったのです。
ビジネスの現場でも“変化”を仕掛けるときに不可欠なステップとして“問題の
共通認識”があります。複数の部門とそれぞれの役割、幹部や一般社員といっ
た立場によって把握している問題やその重要度合いの認識はさまざまです。し
かし、正しい“変化”を起こすためには「何がもっとも大きな課題で、どう解決して
いけば良いのか」を一致させなければ、誰も動くことはありません。
もうひとつの理由は、カメルーン戦の勝利に尽きるでしょう。
カメルーン戦の試合前に国歌が流れたとき、選手たちが全員肩を組んで歌っ
ているシーンを見ながら、「今回は一体化してるなぁ」と思いました。結果、見事
に勝利をおさめたところで「一体化したから勝った」という思いを強くしていたの
ですが、日本代表の帰国会見をみて少し考えを改めました。
「まだまだ一緒に戦いたかった」という旨のコメントを選手たちがするなか、ある
記者が「どのタイミングからその団結力を感じたのか?」という質問をしました。
すると、長谷部ゲームキャプテンの答は「カメルーン戦で勝ったところから強く実
感した」というものだったのです。
「勝ったから一体化した」というこのコメントを聞きながら、「一体化するために
は“勝ち”が不可欠」であることに気づかされました。代表メンバーは、日本の中
で選び抜かれた優秀な選手たちであることに間違いはありませんが、なかなか
一緒になる時間を作れない寄せ集めとも言えます。
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つまり、苦しい練習を共に乗り越えるようなプロセスを通じての一体化がしづ
らい組織だということです。もし、このような組織が仮にカメルーン戦に敗れてい
たとしたら、戦略の変更への疑問が噴出し、再度メンバーの見直し、といった悪
い流れになった可能性が高いのではないでしょうか。
よく耳にする、組織リーダーの「一体化しよう」という掛け声は、「一体化するこ
とで目標達成を可能にしたい」という思いから発せられている言葉だと思います。
それ自体に間違いはないのですが、企業における組織も日本代表チームと同
様、プロセスを通じた一体化を図れるような組織はごく限られた数しか存在し
ないように思われます。だとすると、“真の一体化”は“勝ち”を伴わない限り実
現しないと考えた方が良いのかも知れません。そう考えると、小さくても構わな
いので適切なタイミングで積み重ねることのできる“勝ち”の定義を決めること、
こそが“一体化”につながる道なのではないでしょうか。
アフリカ勢の不振から考える
“国力”の使い方
今回南アフリカでの開催ということもあり、大いに期待されたアフリカ勢ですが、
ガーナがベスト8入りを果たした以外は全てグループリーグ敗退という結果に終
わりました。
かつての大会では“○○旋風”といわれるような番狂わせを度々演じていたアフ
リカ勢が、せっかくの地元開催で不振に陥ってしまったのはなぜでしょうか?
前日本代表監督であるオシム氏が著書『考えよ!』のなかで次のようなコメン
トを残しています。
「2010年のアフリカ選手権をみて、大いに失望した」
「アフリカの優秀な選手たちは、近年ヨーロッパのクラブチームから巨額な収入を
得られるようになってきており、それを理由に堕落が始まったのではないか」
「お金のために美しいプレーは無くなり、アフリカのサッカーは破壊されている」
そういえば日本対カメルーンの試合前にも、あるTV番組でこんな話が紹介さ
れていました。
・日本は、この試合に勝利すると100万円が選手に支払われる。
・カメルーンは、この試合に勝利すると300万円が選手に支払われる。
単純比較ではカメルーンが3倍ですが、カメルーン国内の平均年収は5万円程
度ということなので、カメルーンの300万円は日本人の感覚としては3億円程度
の価値があるかもしれない。したがって、圧倒的に両者のモチベーションには
差が出るのではないか、といった内容でした。
(続く)