W杯の時から増加したクリアの数
縦軸はクリアの回数を、横軸は自陣のゴール前から30メートル以内の危険なエ
リアに進入された回数を示す。W杯の時に比べて、アルゼンチン戦の日本の数
字は悪化。逆に韓国戦では著しく改善しているのが分かるだろう。
アルゼンチン戦では、危険なエリアに進入された回数がW杯の時の40回から
46回に増え、クリアの数も36回から40回に増加した。
世界とアジアの迫力の差なのか。それとも、いわゆる内弁慶なのか。世界ラン
クで上位のチームとの試合となると、どうしてもピンチを攻撃の起点に変えようと
するプレーができていない。
もとより、就任して間もない監督の初陣である。W杯南ア大会が閉幕してから約
3カ月しか経ってもいない。チームが劇的に変わるはずがない。アルゼンチン相
手に初勝利を挙げたという結果に目を奪われることなく、この試合で改めて明ら
かになった日本の“実力”を直視し、チーム力を高める方策を考えていくべきで
ある。
もっとも、W杯南ア大会からの進化が全く見られなかったわけではない。例えば
クリアだけでなく危険なエリアに進入された回数も増えてはいたが、これは守
備が“改善”した結果でもあった。
この試合で、ザックは4人のディフェンダー、2人の守備的ミッドフィールダー、
3人の攻撃的ミッドフィールダー、そしてワントップのフォワードからなる「4-2-
3-1」という陣形を採用した。
アルゼンチン代表のエース、メッシ選手
試合の映像を基に、5分間ごとの選手たちの位置を分析すると、試合が進んで
もこの陣形が大きく乱れず、一定の距離が保たれていた。
これまでの日本代表はボールにハエが群がるような守備をしていたため、中
盤より前の選手がボールの周りに集まり、ポジショニングのバランスが悪くなっ
ていた。それがアルゼンチン戦では常に陣形を崩さず、選手間の距離も一定
で、チーム全体が実にコンパクトに保たれていた。
そうできたのは、ボールを保持している相手に対して複数の選手がやみくもに
奪いにいくのではなく、いったんスターティングポジションに戻ってから、ボールを
持った相手のプレーヤーに近い選手がまず奪いにいく。それに伴って2番目、3
番目の選手が続くという規律のある守備が徹底できていたからだ。
そのため、アルゼンチンに縦パスでゴール前まで迫られても、リオネル・メッシ
(スペイン・バルセロナ)やカルロス・テベス(英マンチェスター・シティー)といった
世界に名立たるフォワードたちもできることが限定されてしまい、決定的な仕事
ができなかった。
この点から日本の守備は、W杯南ア大会の時に比べて再現性の高い組織的
な守備ができていたと言える。
攻撃でも見られた改善の兆し
攻撃の面でもわずかながら改善の兆しが見られた。次の図は、自陣ゴール前
と中盤の位置から前方へ出したパスの成功率と、相手からボールを奪取して16
秒未満でシュートに持ち込んだ回数の相関関係を分析したものだ。
日本のパスの成功率は、アルゼンチン戦では50%と、W杯南ア大会の平均で
ある55.5%から一段と低下していた。同大会で優勝したスペイン(71.4%)をは
じめとする世界の強豪とは大きな差がある。このデータも、残念ながら世界を相
手にした時の日本の現在の“実力”をよく示している。
他方、ボールを奪ってから16秒未満でシュートに至った回数は、W杯南ア大会
の1.62本からアルゼンチン戦では4本に増えた。このデータにもあるように、シュ
ートに持ち込むまでの時間が短縮されていた。
これは攻撃面でのデータだが、この部分の改善は実は守備の安定性が増した
ことが影響していると思われる。
いくべき時にボールを奪いにいくというタイミングをチーム全員が共有すること
によって奪いどころが明確になる。その結果、ボールを奪ったと同時に前に行け
る選手の数、ポジションなどが改善され、効率よくボールを前方へ運ぶことがで
きたのである。
(続く)