後者の問題を、簡単に振り返ると次のような流れだ。
GMは「ボルト」を「レンジエクステンデッド・エレクトリック・ヴィークル(航続距離
延長型・電気自動車)」と呼んでいる。これは、技術的にはシリーズハイブリッド
方式であり、エンジンは発電機のみとして作動し駆動力はモータのみ、のはず
だった。だが量産型「ボルト」では、「走行中にエンジンが駆動力として加わるこ
とがある」と判明。これでは「電気自動車というよりハイブリッド車にかなり近
く、GMの表現は消費者に誤解を招く」という論調が全米に広がったのだ。
こうした様々な「ボルト」評を受けて、今回の受賞でもメディアが「ボルト」への
冷ややかな目を持ってしまったといえる。
今回の賞はグリーンカージャーナル誌とGreencar.comの編集者が選考する
もの。米国では2010年秋以降の発売車を2011年モデルと呼ぶことから、ノミネ
ートされたのは2010年中の生産車だ。同賞のファイナリストとなった5台は、「ボ
ルト」以外に、日産「リーフ」、フォード「フィエスタ」、ヒュンダイ「ソナタ・ハイブ
リッド」、リンカーン「MKZハイブリッド」だった。
「ボルト」はこれ以前に、「2011年モータートレンド誌・カー・オブ・ザ・イヤ
ー」、「2011年オートモービル誌・カー・オブ・ザ・イヤー」など、米大手自動車雑
誌からの表彰を相次ぎ獲得している。
一般的に考えると、こうした「賞の総なめ現象」は「GM再上場へのご祝儀」に
感じられる。だから今回の受賞現場でも米国人自動車業界関係者の間から
「あ~、やっぱりね」という声がチラホラ聞こえた。
では、この「ボルト」、実際のところはどんな車なのだろうか?
ここでハイブリッド方式を勉強してみよう。先ずは「シリーズハイブリッド」方式と
はどんな方式なのであろうか。ハイブリッドHybridとは「2つ以上の異なるものを
組み合わせること」を表しているが、一般的には主に植物の交雑種のことでハイ
ブリッドと言う言葉に接したことがあると思われるが、自動車で言う「ハイブリッド
ビークル」とは、2つ(以上)の異なった動力源を使う車を意味する。即ち内燃機
関(主にガソリンエンジン)とバッテリーに蓄積された電気によるモーターと言う2
つの動力で駆動する自動車である。そして、エンジンとモーターの使い方によっ
てハイブリッド方式が異なる。
シリーズハイブリッド(直列式)方式は、エンジンは発電機を回すことだけに使
われて車の駆動には使われない。車の駆動には発電機で作られた電気を蓄電
池Battryに蓄え、その電気でモーターを回して車を動かすものである。したがっ
てエンジンは小型で、その代わりバッテリー・モーターは大型となる。エンジンで
充電するため長距離走行が可能となる反面、出力はそれほど期待できない。
バッテリー
↑↓ (直流電力)
インバーター
↑ ↓ (交流電力)
E/G-→発電機 モーター-→車軸(駆動) と言う動力の流れになる。これに対して、
パラレルハイブリッド(並列式)方式と言うものがある。
この方式では、エンジンで発電もするが車の駆動にもつかわれ、更には発電さ
れた電気はモーターを介して、駆動にも使われる。発進や加速時にはエンジンと
モーターが使われ(場合によっては発進時はモーターのみ)、低速時には発電機
も回し充電も行うなど臨機応変に起動させる。そのため構造や制御が複雑と
なる。
バッテリー
↑↓ (直流電力)
インバーター
↑↓ (交流電力)
E/G-→{発電機→モーター}--変速機→車軸(駆動) と言う流れになる。
ホンダのIMAはこの方式となる。そしてその両者のいいとこ取りをした方式が次
のスプリット方式である。
スプリット(動力分割式)方式とは、
プラネタリーギアによる動力分割機構により動力を発電機とモーターに分割(ス
プリット)する方式である。プラネタリーギアによる発電機とモーターの回転制御
を行うため、変速機が不要となる。
発進や低速走行ではEV走行し、通常走行ではエンジンで充電しながら駆動輪
を回して走行できる。動力分割機構の制御が複雑になるが、変速機が不要とな
るコストメリットや低燃費と走行との高効率管理が可能となり、トヨタが採用して
いる(THS)方式である。
バッテリー
↑↓ (直流電力)
イ ン バ ー タ ー
↑ ↑↓
発電機 ↑↓ (交流電力)
↑ ↑↓
E/G-→動力分割→モーター-→車軸(駆動)
(遊星歯車)
GMのシボレーボルトはこのうちどんな方式化は知らないが、このスプリット方式
に近い方式なのであろう。そのためプリウスのこのプラネタリーギアの制御方
式の中身を、知りたくて仕方なかったことであろう。そのためありもしない急加速
問題を起こし、電子制御システムを無理やり提出させたものであろう。
さて本文に戻ろう。
LAモーターショーで開催された次世代車試乗会で、量産型「ボルト」を運転席
及び後席(都合2回)で試乗してみた。さらに、日産「リーフ」と乗り比べをしてみ
た。
走行ルートはショー会場の地下駐車場を出て、同会場周辺の一般道路を3km
ほど。法定速度は35mph(約56km/h)だが、他車両を含めて筆者が後席試乗し
た際、ほとんどの参加者は法定速度を超過して加速性能を試していた。
なお筆者は、年間を通じて、日米欧の各種試乗会で合計数百モデル(同一車
種でもモデル別などがある)を乗り比べている。または守秘義務がある条件下
で、各種メーカーのテスト車両試乗を行っている。そのため、今回のLAショーで
の状況のような短時間試乗でも、車両の基本特性を感じ取ることが出来ると自
負している。
(続く)