番外編・プリウス急加速問題(75)

 後者の問題を、簡単に振り返ると次のような流れだ。

 GMは「ボルト」を「レンジエクステンデッド・エレクトリック・ヴィークル(航続距離

延長型・電気自動車)」と呼んでいる。これは、技術的にはシリーズハイブリッド

方式
であり、エンジンは発電機のみとして作動し駆動力はモータのみ、のはず

だった。だが量産型「ボルト」では、「走行中にエンジンが駆動力として加わるこ

とがある」と判明。これでは「電気自動車というよりハイブリッド車にかなり近

く、GMの表現は消費者に誤解を招く」という論調が全米に広がったのだ。

 こうした様々な「ボルト」評を受けて、今回の受賞でもメディアが「ボルト」への

冷ややかな目を持ってしまったといえる。

 今回の賞はグリーンカージャーナル誌とGreencar.comの編集者が選考する

もの。米国では2010年秋以降の発売車を2011年モデルと呼ぶことから、ノミネ

ートされたのは2010年中の生産車だ。同賞のファイナリストとなった5台は、「ボ

ルト」以外に、日産「リーフ」、フォード「フィエスタ」、ヒュンダイソナタ・ハイブ

リッド」、リンカーン「MKZハイブリッド」だった。

「ボルト」はこれ以前に、「2011年モータートレンド誌・カー・オブ・ザ・イヤ

ー」、「2011年オートモービル誌・カー・オブ・ザ・イヤー」など、米大手自動車雑

誌からの表彰を相次ぎ獲得している。

 一般的に考えると、こうした「賞の総なめ現象」は「GM再上場へのご祝儀」に

感じられる。だから今回の受賞現場でも米国人自動車業界関係者の間から

あ~、やっぱりね」という声がチラホラ聞こえた。


 では、この「ボルト」、実際のところはどんな車なのだろうか?

   
ここでハイブリッド方式を勉強してみよう。先ずは「シリーズハイブリッド」方式と

はどんな方式なのであろうか。ハイブリッドHybridとは「2つ以上の異なるものを

組み合わせること」を表しているが、一般的には主に植物の交雑種のことでハイ

ブリッドと言う言葉に接したことがあると思われるが、自動車で言う「ハイブリッド

ビークル」とは、2つ(以上)の異なった動力源を使う車を意味する。即ち内燃機

関(主にガソリンエンジン)とバッテリーに蓄積された電気によるモーターと言う2

つの動力で駆動する自動車である。そして、エンジンとモーターの使い方によっ

てハイブリッド方式が異なる。


シリーズハイブリッド(直列式)方式
は、エンジンは発電機を回すことだけに使

われて車の駆動には使われない。車の駆動には発電機で作られた電気を蓄電

池Battryに蓄え、その電気でモーターを回して車を動かすものである。したがっ

てエンジンは小型で、その代わりバッテリー・モーターは大型となる。エンジンで

充電するため長距離走行が可能となる反面、出力はそれほど期待できない。

         バッテリー
          ↑↓   (直流電力)
        インバーター
        ↑    ↓ (交流電力)
E/G-→発電機  モーター-→車軸(駆動) と言う動力の流れになる。これに対して、


パラレルハイブリッド(並列式)方式
と言うものがある。

この方式では、エンジンで発電もするが車の駆動にもつかわれ、更には発電さ

れた電気はモーターを介して、駆動にも使われる。発進や加速時にはエンジンと

モーターが使われ(場合によっては発進時はモーターのみ)、低速時には発電機

も回し充電も行うなど臨機応変に起動させる。そのため構造や制御が複雑と

なる。

            バッテリー
             ↑↓ (直流電力)
            インバーター
             ↑↓ (交流電力)
E/G-→{発電機→モーター}--変速機→車軸(駆動) と言う流れになる。


ホンダのIMA
はこの方式となる。そしてその両者のいいとこ取りをした方式が次

のスプリット方式である。


スプリット(動力分割式)方式
とは、

プラネタリーギア
による動力分割機構により動力を発電機とモーターに分割(ス

プリット)する方式である。プラネタリーギアによる発電機とモーターの回転制御

を行うため、変速機が不要となる。

発進や低速走行ではEV走行し、通常走行ではエンジンで充電しながら駆動輪

を回して走行できる。動力分割機構の制御が複雑になるが、変速機が不要とな

るコストメリットや低燃費と走行との高効率管理が可能となり、トヨタが採用して

いる(THS)方式である。

          バッテリー
           ↑↓   (直流電力)
        イ ン バ ー タ ー
        ↑    ↑↓
      発電機   ↑↓ (交流電力)   
        ↑    ↑↓
E/G-→動力分割→モーター-→車軸(駆動)
              (遊星歯車)


GMのシボレーボルトはこのうちどんな方式化は知らないが、このスプリット方式

に近い方式なのであろう。そのためプリウスのこのプラネタリーギアの制御方

の中身を、知りたくて仕方なかったことであろう。そのためありもしない急加速

問題を起こし、電子制御システムを無理やり提出させたものであろう。

さて本文に戻ろう。

   

 LAモーターショーで開催された次世代車試乗会で、量産型「ボルト」を運転席

及び後席(都合2回)で試乗してみた。さらに、日産「リーフ」と乗り比べをしてみ

た。 

 走行ルートはショー会場の地下駐車場を出て、同会場周辺の一般道路を3km

ほど。法定速度は35mph(約56km/h)だが、他車両を含めて筆者が後席試乗し

た際、ほとんどの参加者は法定速度を超過して加速性能を試していた。

 なお筆者は、年間を通じて、日米欧の各種試乗会で合計数百モデル(同一車

種でもモデル別などがある)を乗り比べている。または守秘義務がある条件下

で、各種メーカーのテスト車両試乗を行っている。そのため、今回のLAショーで

の状況のような短時間試乗でも、車両の基本特性を感じ取ることが出来ると自

負している。

(続く)