8/17、第6回本会議。(9)日本の戦費の「払い戻し」(比較的必要条件)がテー
マである。いわゆる賠償金問題である。(5)樺太の割譲問題(比較的必要条件)
とならんとで日本にとっては「絶対的条件」に近いものである。しかしロシアにとっ
ては、「(9)賠償」「(5)割地」「(10)軍艦引渡し」「(11)海軍力の制限」の4項目は、
譲歩出来ない項目である。
日本側は、戦争のために掛かった費用即ち戦争の直接実費だけの要求であ
り、「交譲妥協の精神」で協議している、だからロシア側としてもよく(受け入れ
を)考えよ、と言うものであった。しかしロシアは、賠償金は完全敗戦国が支払う
ものであり、ロシアはまだ負けていない。平和を望むが賠償金を支払ってまで平
和を求めない、と一切認めない。ペテルスブルグかモスクワまで攻められれば、
ロシアは賠償金を考えるかもしれないが、そんな状況ではないとうそぶくばかり
であった。
小村は「賠償金を払ってさっさと戦争を終結するほうが、ロシアの国力の温存に
つながるのではないか」と言えば、ウィッテは「それなら日本はロシアにいして過
重な要求はやめて、速やかに講和したらどうか」と答えて、将にああ言えばこう
言う式の対応であった。そのため、第9条の討議を打ち切り午前中の会談を終
了した。
午後の会議。(10)中立港逃避のロシア艦の引渡し(比較的必要条件)、これも
平行線を辿る。そのため(11)ロシアの極東海軍力の制限(比較的必要条件)
に討議を移す。ロシアにおいては、すでに(極東においては)海軍は無かったか
らロシアが譲歩を示すが、その取り扱いでもめたので翌日回しになる。
翌日8/18(金)には第12条を討議し、土日は休会、8/21(月)午後3時に再開しこ
れで以って最終回とすることになった。(12)ロシア領海・領水の漁業権の許与
(付加条件)は、ロシア側は内諾している。残るは(5)樺太の割譲問題、(9)日本
の戦費の「払い戻し」、(10)中立港逃避のロシア艦の引渡しと(11)ロシアの
極東海軍力の制限の対立項目だけである。これだけの対立項目がありなが
ら8/21(月)が最終回と言うことは、ウィッテは談判決裂を考えているのかと記
者たちは色めきたった。
その夜遅くウィッテは緊急会議を開いた。講和の必要性については全員一致し
ている。4項目の取り扱いでは意見が分かれた。しかしウィッテは、樺太と賠償
金については日本は譲歩しないであろうと判断し、(5)樺太の割譲、(10)ロシア
艦の引渡し、(11)海軍力の制限、については譲歩する代わりに、(9)賠償金だ
けは拒否するとの内容を本国に発信させた。
この内容は日本側は知るよしもない。小村も、ウイッテと同様追い詰められて
いた。(10)ロシア艦の引渡し、(11)海軍力の制限、を譲歩して様子を見たい、
それでも駄目なら戦争開始を覚悟して欲しい、旨の電報を打っている。そして
ニューヨークの金子堅太郎にも同内容を打電し、大統領のロシア説得を要請さ
せた。
8/18、10時開催。日本側がまず(10)ロシア艦の引渡し、(11)海軍力の制限、
の撤回を提案した。そしてウィッテが回答文を随員にロシア語で口述し始めたが
すぐに「待て」と叫び口述を中止する。そして全権委員のみでの秘密会議を提案
した。小村委員は「樺太」と「賠償金」についての腹案かと、小躍りして同意した。
日本側、小村・高平両全権と随員安達峯一郎(通訳)
ロシア側、ウィッテ・ローゼン両全権と随員ナボコフ(通訳)
の6人が部屋に残った。
(続く)