世の中、何だこれ!(TPP,6)

いったん交渉に参加すれば
途中離脱は実質的にムリ


 交渉参加とは「参加を前提とする一定のコミットメントである」というのが、国際

社会の常識である。例えるなら、婚約が結婚を前提とする約束事であるのと同じ

ようなものだ。


 実際、多国間交渉から途中離脱した国の例はきわめて稀である。特にTPPに

関しては、全ての品目を関税撤廃の対象とすることが交渉参加の条件とされて

おり、交渉参加時点で、通常の通商交渉以上に強いコミットメントを求められる。

従って、もし、日本がTPPの交渉参加を表明したら、オバマ大統領は欣喜雀躍

することだろう。


 想像してもらいたい。


 こうした状況の中で、日本が交渉の結果が自国に不利になったという理由で、

交渉から離脱したらどうなるか。TPPはアメリカにとって、日本が参加していなけ

れば無意味な協定である。期待を裏切られたオバマ大統領が日本に対する不

信感を募らせ、日米関係が著しく悪化することは火を見るより明らかだ。


 アメリカ以外の交渉参加国からも反発を招くだろう。アメリカに次いで経済規模

が大きい日本が交渉の途中で離脱したら、TPP交渉全体を撹乱するのは間違

いない。その結果、日本は国際的な信頼を完全に失うであろう。シンガポール

前首相が「いったん交渉に参加した上で、離脱する手もある」と言ってくれたこと

など、何の意味もない。


 従って、いったん交渉に参加した日本は、日米関係の悪化や国際的な信頼の

失墜を恐れるがゆえに、交渉から離脱できなくなる。交渉からの離脱が不可能

ということは、言い換えれば、交渉結果がどのようなものになろうとも、それを受

け入れなければならなくなるということだ。



東日本大震災で農家の状況は一変
復旧も進まぬなかTPP議論すべきか


 このようにTPP交渉参加とは、嫌なら途中で抜ければいいなどという甘い話で

はなく、外交上、極めて危険な判断なのである。TPP参加を手柄にしたい事務

方からどのような説明を受けているのか知らないが、枝野大臣には、この交渉

参加の重大な危険性を十分にご認識いただきたい。


 それにしても不思議なのは、多くのTPP推進論者は日米関係という外交リスク

が生じる可能性を知りながらも、以前から「TPPの交渉参加は、参加とは違う」と

いう論理を強調してきたことである。彼らはTPP懐疑論者や反対論者の議論に

応える代わりに、「交渉が日本に不利になるなら抜ければいいのだから、まずは

交渉に参加すべきだ」という論法を執拗に繰り返してきた。


 おそらく、彼らにとっては、この「日米関係悪化というリスクを負うこと」こそが交

渉参加の狙いなのである。現時点でTPPに反対している政治家は少なくない

が、いったん交渉に参加してしまえば、反TPPの政治家たちも、日米関係悪化

のリスクを恐れて反対を主張しづらくなるだろう。世論もTPP容認の方向へと流

れるだろう。


 要するに、交渉参加とは、アメリカの威を借りて反対勢力を黙らせ、TPP参加

を首尾よく実現するための戦術なのである。そうではないと言うのならば、TPP

推進論者には、最低限、交渉離脱の条件を明らかにしてみせてもらいたい。


 もっと問題なのは、東日本大震災からの復興もほとんど進んでいない状態で、

TPPの交渉参加を検討していること、それ自体である。


 そもそも菅政権は、TPP交渉の参加の検討に際しては、農業再生を前提とし

ていたはずである。しかし、震災によって、特に被災地に多い農家は、農業再生

どころか、原状回復の目途すら立っていない悲惨な状況にある。それどころか、

被災地の農家が将来、TPPによって農業を営むことが困難になるかもしれない

と不安に感じたら、農地を復興しようという気力すら失ってしまう恐れすらある。

前提が崩れ去った今、TPP参加はもちろん、TPP交渉参加という議論の存在自

体が、復興の妨げになる。



 野田政権は、復興を最優先課題として掲げている。ならば、TPP交渉への

は、むしろ断念することを宣言すべきだ。しかも、大震災という事情の変化を

理由にした交渉参加の見送りであれば、アメリカの理解も得られるだろう。とこ

ろが、交渉参加に前のめりになっているのは、むしろ日本側だというのが実態で

ある。悲憤に耐えない。


 未曽有の大震災、世界的経済危機という国難にあって、「交渉参加と参加とは

違う」などという見え透いた詭弁に惑わされて、国家百年の大計を誤るようなこ

とがあっては断じてならない。

http://diamond.jp/articles/-/14341

   
日本を含めたTPP参加10カ国のGDPが日米で90%なので、アジア諸国の成

長を取り込んでデフレ脱却などと言うことは、まさに野田首相が詭弁を弄してい

るに過ぎないのであろう。長期的にはアジア諸国の成長を取り込むことは必要な

ことではあるが、現在のデフレ脱却の即効薬にならないのではないか。願わくば

TPP交渉では参加するといってしまった以上、得すると言うことよりも、損するこ

とのないように
強力な交渉陣を布陣してことに当たってもらいたいものだ。何れ

にしても、来年の4,5月頃からの動きとなろう。それまでにしっかりと野田首相

じめ民主党は、東日本の大震災の復旧・復興とともにTPPへの参加を表明した

からには万全の準備を取ってもらいたいものだ。


もうひとつアメリカが気にしているのが、「東アジア共同体」構想である。鳩山の

ポン助
が口にした”あれ”である。鳩山由紀夫が言うと、それはどうしても閉鎖的

な経済ブロックとしか見えなかった。オバマでなくても閉鎖的な経済ブロックで

は、世界が困るのである。大東亜戦争が、ABCD包囲網とか言う日本を締め

出す閉鎖的な経済ブロックを米英が作ったことから、始まったことを思い起こす。
('08/9/12,「靖国神社に参拝しよう(2)」参照のこと。)


だから米国は閉鎖的な経済ブロックをアジア圏に作られる前に、手を打っておけ

と思っているのかもしれない。それが次の流れにつながる。

(続く)