世の中、何だこれ!(TPP,10)

日本ナシで、米国の対中国戦略はない

 中国の台頭は日本の対米政策にとって追い風となっている。凋落するアメリ

カが、昇竜である中国を抑えるため、日本の力が必要だ。パートナーとしての

日本の重要性が高まることは、日本の対米交渉力の増強につながる。


 アメリカの外交戦略は今2つのテーマがぶつかり合っている。1つは「アメリカ

の優越性
を世界唯一のものとして維持する」というもの。もう1つは「多極化する

であろう世界
に柔軟に対応する」というものだ。


 世界は多極化したと言われて久しい。G20ならぬ、G0(ゼロ)の世界になった

という。アメリカの凋落を語るのは簡単だが、アメリカに匹敵する別の極はまだ

見当たらない。その軍事力、経済力、ドルが持つ基軸通貨としての機能、金融

市場、文化、ソフトパワーなどが世界に対して与える影響は、まだまだアメリカが

断トツだ。それらを維持しない手はない。維持する方が米国の国益にかなう。


 しかし同時に、ここにきてアメリカの財政も経済も急速に余力をなくしている。い

まだに世界で最も強い国ではあるが、アメリカは、自分の力だけでは目の前に起

こる様々な事態を打開できないと認識している。


 よって、アメリカは理想と現実を使い分ける。アメリカの圧倒的優位性を保つた

めに、多極化を利用するのだ。アメリカの優位性を保つために、政治・経済・安

全保障上の重要地域において、そこに位置する最大の同盟国を最大限に生か

していく。


 世界第2位と第3位の経済大国が位置する経済成長センター、東アジア。そ

こで最も重要な同盟国は間違いなく日本だ。地域で2番目に大きな経済と人口

を持ち、最大の米軍基地が存在する。


 オバマ大統領と韓国の李明博大統領が「史上最高の米韓関係」と称賛しあっ

ているが、韓国の規模は小さい。日本は韓国と比べて、人口で2.5倍、GDP

5倍、国家予算で10倍、国防費で2倍の大国である。米国は、最大の同盟国・

日本
との同盟を生かすことなくして活路なしと認識している。


 国家安全保障会議のメンバーであった韓国系アメリカ人政府高官も「日本

経済力・技術力を含めた高い総合力は、中国や北朝鮮に対して韓国以上に

響力を持つ
」と語っている。


韓国とは比較にならない日本の底力


 冷戦後の、アメリカ外交の最大の課題は、日本とドイツをいかに封じこめるか

にあった。宿敵のソ連が崩壊した後は、戦後の復興に成功して急速に台頭して

いたアジアの日本と欧州のドイツが目の上のたんこぶだった。


 そうこうしているうちに、アメリカがイギリスを抜き去って以来100年以上守って

きた世界最大の経済大国の地位を“奪わんか”の勢いで台頭する国が出てき

た。中国である。予想より早く2015年にも、GDPにおいて中国がアメリカを抜く

という予測がある。軍事費もアメリカに次いで世界第2位。しかも、中国は2011

年の中国国防予算を前年比12.7%と大幅に増加させた。この中に研究開発費

などは含まれていない。欧米の調査機関は「実際の軍事費は公表値の2倍

近い
」と見る。


 冷戦期のライバル、ソ連は、経済体制の違いから米国と経済交流がほとんど

なかった。これと異なり中国は、実質的には市場経済主義を取り、アメリカとの

経済関係は深い。メキシコを抜き去り、カナダに次ぐ第2位の貿易相手国となっ

た。大量の企業と投資が中国に向かい、中国からも人とお金がアメリカに押し寄

せる。アメリカ経済の今後の立て直しに中国経済は不可欠であろう。中国は、相

当の経済力と軍事力を持ち、経済交流も活発であるが、政治体制や価値観が

全く違う大国
となった。


 世界最大の人口を誇り、世界第2位の経済大国で、軍事支出を急増させてい

る中国にどう対応するかは国際政治・安全保障上の最重要課題の一つである。

アメリカは、この国の経済活力にはあやかりたいが、中国が東西南北に覇権

を広げる
のは何とか阻止したいのだ。


 東アジアが持つ経済的な重要性と、国際政治・安全保障上の危険性はアメリ

カが気づいたのだ。そして、アメリカ一国で東アジアのチャンスとピンチを取り仕

切る力はないとの、自覚も起こっている。複数の米政府高官と意見交換した感

触として、米韓関係だけでは、東アジア情勢に十分に対応することはできないと

間違いなく認識している。日本の持つ経済力、技術力、ソフトパワーなどの総合

力を、同盟関係を通じて、東アジアの平和と安定と繁栄のために最大限生かし

たい! これがアメリカの本音である。


 在東京アメリカ大使館からもワシントンからも、「米政府は怒ってますよ」と脅し

に来る米官僚がいるだろう。政権内で激しく手柄を競う、米国の官僚がやりそう

なことだ。日本の協力をできるだけ安く買おうとしていると思う。


 実態は、中国の台頭と北朝鮮の不安定性を背景に、日米関係はどんどん勝

手に良くなっていくだろう。いまだかってない日本の重要性をアメリカが認識

つつあるからだ。今こそ外交には、このように、相手(米国)の立場に立った見方

が必要だ。


 今こそ日本は、日米交渉で押しまくる時だ。日本の対米交渉力は史上最大レ

ベルにあると思う。日本政府はこれを認識して、国益のために活用すべきだ! 

今こそ日本は、日本の産業構造に急激な痛みを与えかねない部分への軽減措

置など日米交渉において強気で交渉すべきだ。場合によっては「そんなこと言わ

れるならアメリカさん、日本抜きで中国や北朝鮮と直接対応されますか?」と

言ってもいいくらいだ。

このコラムについて

田村耕太郎の「経世済民見聞録」

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101104/216952/

政治でも経済でも、世界における日本の存在感が薄れている。日本は、成長戦

略を実現するために、どのような進路を選択すればいいのか。前参議院議員

で、現在は米イェール大学マクミラン国際関係研究センターシニアフェローを務

める筆者が、海外の財界人や政界人との意見交換を通じて、日本のあり方を考

えていく。

⇒ 記事一覧

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101104/216952/

著者プロフィール
田村 耕太郎(たむら・こうたろう)
(Photo)
米エール大学マクミラン国際関係研究センターシニアフェロー。前参議院議員

内閣府大臣政務官(経済財政政策担当、金融担当)、元参議院国土交通委

員長。早稲田大学卒業、慶応大学大学院修了(MBA取得)、米デューク大学

ースクール修了(証券規制・会社法専攻)(法学修士号取得)、エール大学大学

院修了(国際経済学科及び開発経済学科)経済学修士号、米オックスフォード

大学上級管理者養成プログラム修了。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20111116/223885/?mlh2

    

現在の世界の情勢は、多極化だという。そして世界の唯一の大国としてのアメリ

カの優位性は、そのため薄らいできていると言う。中国が台頭し今までアメリカ

の手薄な地域で、盛んにチョッカイを出してきている。中国はこれからの超大国

化のために、世界中で資源を買い漁っている。そして軍事的にも、経済的にもア

メリカを凌駕しようと、競争を仕掛けてきている。アメリカもうかうかとはしていら

れない。中国とは、アメリカも日本も、政治体制も価値観も全く異なる。このこと

は、ある意味、危険極まりないことである。法と正義などは、共産党が作ればよ

いと考えている。だから危険なのである。中国の軍事費は、少なく見積もっても

公表値の2倍以上であろうと、見積もられている。国家予算の4分の1、25%

以上
に達しているだろうと言われているそうだ。


アメリカはその優位性を維持するためにも、日本の力が必要だという。だからと

言う訳でもないが、東日本大震災の際には、真っ先に駆けつけてくれ

た。誠に日本としては有り難かったことである。

(続く)