24【主張】TPP交渉参加 攻めの戦略で国益守れ 実効性ある「司令塔」構築を
2011.11.12 03:07
資源に乏しい日本が貿易立国として生き残っていく上で、アジア太平洋に21世
紀の貿易経済共同体構築をめざす枠組みに加わるという意味ある選択が下さ
れた。
野田佳彦首相がようやく環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への「参加に
≪日本版NSCの検討を≫
それにはしたたかで、しなやかな交渉戦略とパワーが不可欠だ。各省庁を
束ね、実効性ある「司令塔」を築けるかどうかである。野田首相は国家戦略会
議の強化や、日本版の国家安全保障会議(NSC)創設なども検討すべきだ。
(*National Security Council)
首相は11日夜の記者会見で「貿易立国としてフロンティアを開拓する」と述
べ、「国益を実現する第一歩になる」と参加交渉の意義を強調した。
農業など国内への悪影響を恐れる慎重論が広がり、与党の民主党も積極参
加を打ち出せなかった。首相自身の決断表明が1日遅れたのも極めて遺憾とい
わざるを得ないが、最終的に国益に合致する判断を下したのは当然といえる。
少子高齢化が進む日本は、海外の成長をとりいれなければ経済活動の縮小
が避けられない。アジアと米、豪などを含むTPPに参加しない選択肢はあり得
ない。
内閣府の試算によれば、関税撤廃の効果だけで10年後に国内総生産
(GDP)が2・7兆円増加する。域内投資効果も考えれば、より大きな成長が期待
できる。成長を実現しなければ、超高齢化社会を支える財源確保は難しい。
新たな自由貿易圏に参加する意味も大きい。クリントン米国務長官は10日、
ハワイのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に向けたアジア太平洋
の包括戦略を明らかにし、日韓との同盟強化やTPPを柱とする取り組みを本格
化した。TPPでは、自由化や制度の透明化などを通じて「21世紀の貿易共同
体」を築いていく意欲を訴えた。
APECではオバマ大統領との日米首脳会談も行われ、首相は日米で中国に
対抗していく戦略的連携を踏まえた認識が必要だ。
TPPの交渉対象は食品安全、医療、金融、知的財産権など21分野に及ぶ。
アジア太平洋全体の地域経済統合の枠組みに発展していく可能性が高い。
国益をしっかりと踏まえ、国際標準ルールを築く覚悟で交渉すべきだ。
原則すべての関税撤廃が目標だが、最長10年の猶予が認められるため、例
外品目をめぐる攻防が激しさを増している。コメなど農産品の関税、知的財産権
に関するルールづくりなどでいかにメリットを最大化し、デメリットを最小化するか
が重要だ。
≪農業改革の好機にせよ≫
(*United States TradeRepresentativ)
経済産業省や農林水産省など省庁縦割りで対応する従来の交渉では乗り切
れない。オールジャパンで一丸となって交渉する態勢の構築がかぎだ。米通商
代表部(USTR)のように、司令塔としての権限を持った機関や専任担当相の
創設も検討すべきではないか。
国論が二分された状態は解消すべきだ。積極的な政府の情報開示と透明性
が必要である。慎重派が抱く懸念には説明を尽くし、不利な状況を覆せない分
野には具体的対策を講じなければならない。とくに参加反対論の中心となった
農業問題は重要だ。米、豪よりも生産規模の小さい日本農業への影響は大き
いが、高齢化と担い手不足が続けば衰退は必至だ。TPPを契機に農業改革を
進める「攻め」の知恵こそが求められている。
具体的には農地を集約して規模を拡大し、生産性を高める仕組みが不可欠
だ。世界貿易機関(WTO)ルールで認められた農家の所得を直接補填(ほて
ん)する制度の活用もある。現行の戸別所得補償のようなバラマキは論外だ
が、生産規模拡大や品質向上をめざす専業農家を手厚く支援する対策が必
要だ。
国内には「TPPは米国のゴリ押し」といった批判も根強いが、米議会にも日本
の参加に賛否両論がある。いずれの国も自国の国益をかけている。せめぎ合
いの世界だ。グローバル経済を生き抜く覚悟とタフさがなければ、日本は立ち枯
れしてしまいかねない。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111112/fnc11111203070002-n1.htm
向けて関係国と協議に入る」と明言したことだ。
参加表明は入り口に立ったにすぎない。既に米国など9カ国が交渉中だ。今後
は各国の複雑な利害が絡む中で出遅れを回復し、新たな貿易ルールづくりにど
こまで主導権を発揮して日本の国益を確保できるかが問われる。
ちなみに日本の主な高関税品目は、ほとんどが農産物とその関連品である。
コメの関税率は778%である。だから農業問題が最大の話題となっているのであ
ろう。消費者の立場から考えれば、もっと安価な穀物などが食べられることに
なる、のではあるが、そのために日本の農業が消滅しては元も子も無いというこ
とである。
37TPP交渉 「例外」コメ軸に検討 品目選定、国内調整は難航
(産経新聞)2011年11月12日(土)07:55
日本の主な高関税品目(写真:産経新聞)
TPP交渉で最大の焦点となるのが、関税撤廃の例外品目が認められるどう
かだ。原則全廃を掲げるTPPだが、主導する米国が砂糖など一部例外を主張
しており、交渉の余地はある。日本は例外品目としてコメを軸に検討するが、
乳製品や砂糖なども候補になる。品目選定の国内調整の難航は必至なうえ、ど
の品目に重点を置くのかなど、交渉力も問われる。
日本はこれまで2カ国のEPAなどを締結する際、コメのほか乳製品や砂糖、
牛肉などを例外品目としてきた。関税率はコメが778%、バターが360%、砂糖
が328%など。「内外価格差の大きな品目ほど高い関税が設定されている」(農
林水産省)だけに、撤廃時の打撃も大きくなる。
農水省の筒井信隆副大臣は今月、日本が主張する例外品目について、「最有
力候補は当然、コメだ」と強調した。主食で生産額も大きいためだが、消費者に
は国産米志向が強く、コシヒカリなどおいしいコメは競争力も高い。農業関係者
は「品質格差がないため、関税撤廃で完全に輸入品に置き換わる」(全国農業
協同組合中央会の万歳章会長)とし、乳製品や砂糖の打撃が深刻だとして
いる。
主力とする農産物は地域ごとに異なるうえ、それぞれに業界団体もあり、例外
を求める品目の選定は紛糾が避けられない。
4カ国で始まった当初のTPPでは、宗教上の理由があるブルネイの酒やたば
こ以外はほとんど例外はなかった。交渉参加を希望したカナダは乳製品などの
例外を求めたが認められず、現在の9カ国の交渉にも入っていない。
9カ国交渉では米国がメンバーのオーストラリアと結んでいるFTAで砂糖など
を例外にしている枠組みをTPPでも継続させるよう主張している。
ただ、日本は米国、豪州の両農業大国とは既存協定がなく、厳しい交渉が予
想される。鹿野道彦農水相は11日の参院予算委で、例外について「獲得は困
難だと思っている」と述べ、早くも白旗を上げた。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/business/snk20111112087.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111112-00000087-san-bus_all
さて、アメリカが、中国へ強く市場開放(又は元の変動相場制移行)を求めれば
求めるほど、TPP参加国への自由化圧力は強まるものと考えなければならな
い。だから、日本は何を、どう守るのか、そして何をどう開放するのかを真剣
に考えて、このTPPへ突入してゆかなければならないのだが、ISDS(Investor
-State Dispute Settlement、投資家・国家間紛争訴訟制度)も知らなかったよう
な不勉強では、誠に心もとないのである。
(続く)