番外編・プリウス急加速問題(89)

GMのEV「ボルト」発火 米当局、電池の安全性調査
2011.11.12 09:24

 米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が販売している電気自動車(EV)「シボレー・

ボルト
」が発火し、米道路交通安全局(NHTSA)がEVの電池の安全性について調査を

進めていることが11日、分かった。欧米メディアが報じた。

 ボルトはGMの環境対応車戦略の核となる車種で、調査の行方次第では、GMに打撃と

なるほか、各メーカーのEV開発の遅れにつながる可能性も出てきた。

 AP通信などによると、NHTSAは5月に米ウィスコンシン州の施設でボルトの側面衝突

実験
を実施したが、その3週間後に発火したという。

 またNHTSAは日産自動車フォード・モーターなどほかの自動車メーカーに対しても電

気自動車向け電池について発火の危険性があるかどうかなどを問い合わせた。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111112/fnc11111209240004-n1.htm

   
この3週間後に発火したとはどんな状況なのかこれではわからないが、試験場の駐車場で

炎上したとのこと、それにしても大変なことである。GMもさぞかし泡を食っていることであ

ろう。

Wikipediaによると、「リチウム電池の欠陥」として次のように書かれている。

「2012年1月5日、搭載されているリチウムイオン電池韓国LG電子)が発火する恐れ

があるとして、米国で販売した電気自動車(EV)「シボレー・ボルト」を無償で改修すると発

表した。同社は「自主的な措置で、リコール(回収・無償修理)ではない」としている。」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%9C%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%88

そこには「シボレー・ボルト」の販売不振のことが次のように載っている。

 
「ただし販売面では苦戦を強いられており、2011年の販売目標1万台に対し実績は7671台

と目標を下回ったほか、2012年に入っても売上が改善していない。このため、GMでは

2012年3月に生産の一時休止、並びに従業員の一時帰休を行うことになった。」

   

このような状況ではシボレー・ボルトも大変だ。次の論考では火災発生もさることながら、

ボルトはプリウスに比べると100万円は高く、当初のGMの報道では全くの電気自動車

言っていたものが、蓋を開けるとスプリット式ハイブリッド車の変わり型であることなどか

ら、GMに対する不信感が嵩じてなかなか売れないのだと言う。

   
発火事故報道だけではない!?――GM肝入りのエコカー、シボレー「ボルト」

が売れない理由

http://diamond.jp/articles/-/16653    【第105回】 2012年3月21

売れていないと言われている
「ボルト」を買いに行ってみた


GMシボレー『ボルト』、一時生産休止」。

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GMシボレー「ボルト」、販売店にて。 Photo by Kenji Momota

 これは、2012年3月2日複数の米国メディアが、GM側が明らかにしたとして報じたも

のだ。生産休止される組立ラインは、米ミシガン州ハムトラック工場。期間は2012年3月

19日から4月23日
までの5週間。その理由として各メディアは、2011年11月に明るみに

出た、同車の発火事故報道の影響による、「ボルト」の販売不振を挙げた。GMの2011

年「ボルト」の計画販売数1万台に対して、実売数は7671台と報じられた。だがこの生産休

止について、本稿執筆時点では、GM本社のメディア専用ウェブサイトにプレスリリースは

掲載されていない。

 そうしたなか筆者は、同車が生産休止になる前の週、2012年3月15日に、居住地である

テキサス州ダラス近郊のGMシボレーディーラーに「ボルト」を買いに行った。正確に言

えば、取材半分、買う気半分だ。けっして、冷やかしではない。現在使用しているクルマの

1台が近く、リース満期を迎えることもあり、「ボルト」のリースを以前から考えていた。

「ボルト」にはこれまで数度、メディア関連イベントで試乗しており、「アメ車としては十分完

成度が高い」と思っていた。また、「クルマにワケありなのは十分承知の上で、実証試験の

つもりで所有するのも悪くかもしれない」という気持ちもあった。訪問したディーラーには

現在、「ボルト」の在庫は7台。価格は標準装備車が3万9000ドル(約324万円)、皮張り

シートやタッチスクリーン式カーナビなどフル装備車が4万5000ドル(374万円)だった。

 結論から言えば、買わなかった。理由は、リース契約内容が不明瞭だったからだ。

最初にリースについて質問したところ、GMが昨年発売時点で公開した、月350ドル(約2

万9000円)の36ヵ月契約、頭金2500ドル(約20万7500円)というパッケージの提示がディ

ーラー側からなかった。そして「クレジットスコア(支払い信用度の指標)によって、月の支

払い額も期間も様々だ。だたし、マネージャーと交渉しながら、あなたの希望に合うよう調

整は可能だ」という。

 これは、アメリカ人がアメリカの自動車ディーラーに対し、長年に渡って抱き続けてきた

懸念、“古い体質の販売方法”そのものだ。筆者は過去に何度もアメリカで、こうした無駄

なやり取りをしながら、購入やリース契約交渉をしてきた。ちょうど欧州取材から戻ったば

かりで、体調が悪かったこともあり、面倒な交渉をする気にならなかった。

 これが筆者が「ボルト」を買わなかった理由だ。これはあくまで、筆者の感情の問題だ。


大きく2つある

「ボルト」販売不振の理由



 では次に、「ボルト」販売不振一般的な理由について、筆者の考えを書く。


 それは大きく2つあると思う。

①「プリウス」に比べて価格がかなり高く感じること

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トヨタプリウス」。テキサス州ダラス近郊のディーラーにて。Photo by Kenji Momota

 今回、筆者がGMシボレーディーラーで「ボルト」を見に行った帰り、トヨタディーラーにも寄

り「プリウス」の実売価格をチェックした。

 ちなみにアメリカでは顧客は、ディーラーが事前にオプション設定した“ありモノ”の在庫

の中から購入車を選ぶ。日本のディーラーで顧客が行うような、オーダーメイド的な発注は

稀だ。

 このトヨタディーラー、テキサス州内でもトップ3に入る大型チェーン。来店した店舗には各

モデル合計で約200台の在庫があり、そのうち「プリウス」は20台近くあった。価格帯は

2万5000ドル~2万7000ドル(約208~224万円)のモデルが多く、最上級で3万5000ド

ル(約291万円)だった。「ボルト」より、ざっと100万円安い
。(ブログ筆者注、高いとあったものを

文脈から安いに修正している。)


 この100万円の差を、顧客はどう感じるか。

 EPA(米環境保護庁)はこのほど、新車販売時に側面ガラスに貼る表示「ステッカー」の

記載内容を変更した。これは、長い距離のEVモード(モーターのみで走行する状態)があ

る、プラグインハイブリッド車、レンジエクステンダー、そしてEVの登場により、これまでの

ガソリン車(またはハイブリッド車)対応のみ燃費表記方式では対応できなくなったからだ。
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GMシボレー「ボルト」のステッカー表示。EPAが今年から新規策定したもの。燃費の他、

5年間使用の際の一般乗用車と比べた燃料費などを明記。 Photo by Kenji Momota

拡大画像表示

「ボルト」の場合、EVモード航続距離35マイル(約56km)までの電気消費率と、それ以降の

ガソリンエンジンが作動し、最大航続距離379マイル(約606km)までの燃費が記載されて

いる。さらに、一般的な使い方をした場合の年間の燃料代が1000ドル(約8万3000円)。

また、5年間使用して一般的乗用車と比較して場合の燃料費が7600ドル(63万円)お得

だ、と記載されている。

 対する「プリウス」は、市街地とフリーウェイそれぞれの燃費値の上に、そのふたつの平

均燃費値を大きく表示。これは普通のガソリン車と同じ表示方法だ。そして、年間の燃料

代が1100ドル(約9万1000円)、5年間で一般的乗用車と比較した燃料費の差が7100ド

ル(58万9000円)だ。

 この表記データで見る限り、顧客にとって「ボルト」は「プリウス」に対し、新車価格100万

円高のメリットを直感できないだろう

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CARB(米カリフォルニア州大気保全局)による、同州内の次世代車の普及予測図。 EV

は2020年頃からやっと普及が始まる。出所:CARB(米カリフォルニア州大気保全局)

http://diamond.jp/mwimgs/5/6/-/img_56b096794932cd99f1e272180b6bf7bd35688.jpg


 一般的なアメリカ人はプラグインハイブリッド車、またはレンジエクステンダーという言葉

を知らない。だが、ハイブリッド車なら知っている。そのため現時点で、「ボルト」も「プリウス

」もハイブリッド車として同類化されることが多く、「ボルト」の付加価値を理解するのは、一

部のクルマ好きや、環境対応への志向が非常に強い人などに限られている。



②顧客のGMに対する不信感


 この不信感とは、発火事故問題に対してだけではない。伏線がある。

 最初の不信感は、「エンジン動力によって、自走しない」と、GMが事前にメディアや顧

客に言った言わないの問題だ。

「ボルト」はアメリカで、レンジエクスタンダーと呼ばれるEV(電気自動車)の一種だ。

 本来、レンジエクステンダーとは、搭載する蓄電池が放電して電気量が低下した場合、

別途搭載しているエンジン等の発電機を作動させ、レンジ(航続距離)をエクステンド(延長

する)という仕組みだ。だが、「ボルト」は搭載する1.4リッターガソリンエンジンの動力でも

走行することが、GMの商品発表後に明るみに出た。つまり、こうした仕組みは、トヨタ「プリ

ウスPHV」と同種のPHEVプラグインハイブリッド車)と呼ばれるべきだ。

 また、破綻前の旧GM時代に「ボルト」がコンセプトモデルとして登場して以来、GMは同

車のEVモードでの航続距離を40マイル(約64km)と説明してきた。一般的なアメリカ人

は、普段の生活で1日の走行距離は40マイル以内がほとんどで、最低40マイルあれば

十分、と説明してきた。それが量産車ではいきなり、5マイル(8km)も減った

 こうした度重なる、量産車の技術内容の変更について、メディアが噛み付いた。それを「G

Mのウソ」という表現で報道し、それを「ボルト」のファーストカマー(初期需要の可能性のあ

る顧客層)が見てきた。

 そして、発火事故問題が報道された(※)。発火したことも大きな問題だが、それ以上に

発火事故の報告が遅れ、されに事実の公表がGMからでもなく、発火が起きた衝突試験を

行なった米DOE(運輸省)管轄のNHTSA(運輸省道路交通安全局)からでもなく、米メディ

アのスクープ的な報道によるものだったことが、「ボルト」のファーストカマーたちの不信感

を招いた。

 また、筆者が2011年12月上旬の米LAオートショーで、GMの「ボルト」開発の総責任者に

インタビューした際、「事故調査は進めるが、リコールはないと思う」と答えていた。

(※)
本連載第93回『ホンダ「フィットEV」の保守性、「テスラ」、「フィスカー」の不在、そして

シボレー「ボルト」火災報道の真相~米LAオートショー発、誰も書かない最新EV裏事情』

参照

http://diamond.jp/articles/-/14971

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シボレー「ボルト」の車体中央部分、水冷式バッテリーへの側面からの衝撃に対応した 対

応部品。出所:米GMメディア専用ウェブサイト

 ところがその後すぐ、リコールが実施された。しかも、GMが2012年1月5日に記者会見

で公表したリコール対策は、かなり大々的なものだった。車体中央に装着されているリチ

ウムイオン二次電池パックに対して、車体全体の強度にも影響するような大型の補強材の

追加や、リチウムイオン二次電池パックの冷却水のオーバーフロー(吹きこぼれ)対応のタ

ンクの設置を行うなどとした。

 筆者は本稿の最初で、「ボルト」をディーラーに買いに行った際、「クルマにワケありなの

は十分承知の上で、実証試験のつもりで所有するのも悪くかもしれない」と書いた。つま

り、筆者としては、GMのリコール内容を十分承知していたという意味だ。だが、発売されて

間もない新技術車が大幅なリコールを受けたとなれば、一般のアメリカ人の多くが「ボルト」

に対して腰が引けてしまうのは当然だろう。

 なお、同車のリチウムイオン二次電池のセル(電池単体)を開発製造している、韓国

LG化学
の子会社のコンパクトパワー(LGCPI)のプラヘイカー・パティルCEOは2012年2

月22日、米自動車技術会の講演で「ボルトの発火事故の件で、弊社製品の安全性に問題

はない」と発言している。


「ボルト」は生き残れるのか?


 筆者は、「ボルト」が2007年の北米国際自動車ショー(通称デトロイトショー)でコンセプト

モデルとして登場して以来、様々なシチュエーションで同車を見てきた。開発を強力に推進

してきたロバート・ラッツ副社長(当時)にも直接、筆者の同車に対する疑問、質問をぶつけ

てきた。

 そうしたなかで「ボルト」は、破綻前の旧GMの技術革新のシンボルであり、新生GMのシ

ンボルとなり、同時にオバマ政権のウリであるグリーンニューディールのシンボル

なった。

 そして「ボルト」は2010年末から2011年にかけて、西海岸のカリフォルニア州東海岸

ニューヨーク州ニュージャージー州コネチカット州、ワシントンDC、中東部のミシガン

州、中西部のテキサス州、合計7州でのテスト販売された。前述のように、その計画販売台

数1万台に対して、実売数は7671台。2012年から全米展開に移り、計画販売台数は6万

台としていた矢先に、在庫調整のために製造ラインがストップした。

 2012年3月14日、GMのダン・アカーソンCEOはサンフランシスコで、「ボルト」オーナー

33人に会って意見交換し、その後に環境関連会合で講演した。そのなかで同CEOはこう

述べたと報じられている。「ボルトはアメリカの大きな技術革新であり、発明であり、この国

にとってそして弊社にとって最高の存在だ」。

 ジワジワとガソリン価格が上昇するなか、アメリカで低燃費車への関心が高まりつつあ

る。「ボルト」にとっては追い風だ。だが、このタイミングでトヨタは低価格ハイブリッド車

リウスc(アクア)
」と、「プリウスプラグインプリウスPHV)」を市場投入する。またフォー

ドが今春に投入するSUV・新型「エスケープ」にも注目が集まっている。同車搭載の低燃費

の1.6リッターターボエンジンは、このカテゴリーとしては異例の小型エンジンとして話題にな

っているのだ。

 はたして「ボルト」は生き残れるだろうか?

 2012年は「ボルト」にとって正念場となる。

http://diamond.jp/articles/-/16653
(続く)