SIM-Drive社による
EV開発の実績
今回の電動低床フルフラットバスの試乗前、同キャンパス・アルファ館の会議室で、SIM
-Driveの藁谷正裕氏が「21世紀社会の電気自動車」と題して約70分間の講演をした。配
布された資料によると同氏は、同社地球展開部部長兼企画部部長。だが、実際に紹介さ
れた肩書きは、車両総括開発部・プロジェクト事務局長だった。司会者が読み上げた同氏
の経歴は、三菱自動車工業、仏プジョーシトロエン等を経て現職にあるとのことだ。
講演のなかで同氏は、同社代表取締役・清水浩氏のEV開発の実績を紹介。1982年の
「A Car」に始まり、1997年に最初の8輪車「KAZ」が登場し、それが2004年「エリーカ」に
進化。そして、SIM-Drive社となってから、5ドア乗用車の「SIM-LEI」、そして今回のEVバ
スに至ったと、各車の実験の模様を動画で紹介した。
尚、本稿の参考資料として、清水氏のEV開発に対する思い(http://diamond.jp/articles/
-/6921) 、さらには清水氏と「エリーカ」開発で協力した、吉田博一氏(現・エリーパワー代
表取締役)が語る「エリーカ」の企画秘話(http://diamond.jp/articles/-/798)をご参照頂き
たい。
さて、参加者が2グループに分かれて試乗した後、先に講演が行われた会議室に戻り、
藁谷氏と参加者による質疑応答が行われた。今回試乗会を実施した自動車技術会は、自
動車メーカー、自動車部品メーカーの技術者たちが所属する自動車技術関連のオーソリ
ティだ。そのため質問は当然、専門分野に及ぶ。
台湾TECO社製のインホイールモータ。写真左側がホイール。
Photo by Kenji Momota
参加者にとって最も気になったのは、インホイールモータについてだ。藁谷氏の説明で
は、EVバス用のモータは5ドア乗用車「SIMーLEI」と同じ、アウターローター式ダイレクト
ドライブインホイールモータ。つまり製造者は台湾のTECO Electrric and Machinery
社製だ。今回の講演のなかで、協力企業のなかでTECO社は紹介されたが、モータが
TECO社製と明言されなかった。だが、TECO社は筆者も参加した、2011年4月に開催さ
れたEV台湾(台北市)で、SIM-Drive提供資料として、TECO社製インホイールモータの仕
様を公開している。それによると、直径320mm×厚さ130mm、重量は49.5kg(シャフトとハ
ウジング含む)、定格出力20kw、最大出力65kw、定格トルク150Nm/1250rpm、最大トル
ク700Nm/900rpm、最大回転数2000rpm。
このモータについて、本稿冒頭に紹介したように「発進時の音が気になる」という声が
あった。さらに質疑応答の際には「微振動もあり、コンプレッサーのような感じだ」という声も
あった。これに対して藁谷氏は、「コギング、またはリップルトルクによるもの。今後改善が
必要だと認識している」と答えた。
EVベンチャーの
あるべき姿とは?
さら参加者から、急速充電についてなどEVの基本的な技術について質問があった。
だが、藁谷氏の返答は歯切れが悪い。「これではお答えになっていないとは思いますが…
」、とか「一般的には…」と、質問に対する直接的な回答が出ない場面が多かった。とくに
協調回生ブレーキについて、質問者は「リーフ」向け等の量産品開発に直接関わっている
技術者だっただけに、藁谷氏のあやふやな回答に対して、彼は何度も質問をぶつけた。そ
して最終的に藁谷氏の回答が「(弊社には)協調回生ブレーキの技術のノウハウは(ほ
とんど)ない」となってしまった。
こうした質疑応答が続くなか、会議室内は重苦しい空気に包まれた。
ここで筆者は、SIM-Drive代表取締役の清水浩氏に申し上げたい。今後、関連の技術説
明の場には必ず、各技術部門の専門家を立ち会わせるべきだ。そして、技術的な実証が
不完全で、まだハッキリと分からないことはハッキリと、「分からない」と答えるべきだ。
さらに、先行開発事業などで各事業者との間でコンフィデンシャル(企業機密)として公開
できない案件については、どの部分がどのようにコンフィデンシャルなのかをハッキリと答
えるべきだ。
今回、同社の事業としては初めての実証試験となる「電動低床フルフラットバス」を自動
車技術会会員に試乗してもらい、その感想を聞くことは、「最高のダメ出し」の機会であっ
たはずだ。「モータがうるさい」、「ハンドルのキレが悪い」、そうした声は実証試験としては
大歓迎のはずだ。参加者の様々な意見に、技術面で正攻法の意見交換をすることが、
実証試験の本質であるはずだ。
だが結果的には、上記にように、参加者たちがEVベンチャーへの不信感を抱くような
対応になってしまった。筆者がこれまでの各種取材を通じて感じることは、日本の自動車
メーカーや部品メーカーは、EVベンチャーの存在に対して懐疑的だ。郵便配達用EV事業
を受諾しながら破綻したゼロスポーツ社についても「それみたことか」という声が、自動車
産業界では多い。
いま、EVベンチャーについては日本だけでなく、アメリカでも風当たりが強くなってきた。
オバマ政権の売り物になるはずだったグリーンニューディール政策は、多額の補助金を取
得した太陽光パネルのベンチャーが経営破綻、また米国内のリチウムイオン二次電池メー
カーで人員整理が行われるなど、不安な要素が出始めている。
そうした社会背景の下、EVベンチャー各社が当初描いていた量産化ロードマップが大幅
に修正されるケースも目立つ。こうしたアメリカ発の情報を裏付けとして、EVベンチャーバ
ブル崩壊のような基調の一般マスコミ報道が今後、増えてくる可能性もある。
このような情勢だからこそ、日本のEVベンチャーの雄であるSIM-Driveは、正々堂々と
自動車産業界に立ち向かうべきだ。他業種の民間企業、そして産学と連携する
SIM-Drive。日本が今後、新しいカタチの自動車産業を切り開いていく上で、その存在意
義は極めて高い。このことを清水氏におかれては、再認識して頂きたい。
http://diamond.jp/articles/-/15614
SIM-Drive社の清水教授は、自身の電気自動車「エリーカ」は「アイディア」を形に出来た段
階で、試作品でもまだ初期の段階である、との認識を示している。清水教授は電気自動車
の発展段階を次のように考えている。
『Q)EVの今後の普及についてどう思うか?
清水先生は技術論として、発明発見から産業化の道のりを、こう表現している。
「魔の川」/発明発見~試作品 アイディアを形にする難しさ
「死の谷」/試作品~製品化 試作品を商品にする難しさ
「ダーウィンの海」/製品化~産業化 商品を大量に普及する難しさ
A)エリーカ(及び、エリーカのコンセプトによる各車)は、「死の谷」の前だ。安全性、信
頼性、耐久性のための衝突試験をしていないので、これから結構時間かかる。だが、EV
が成功する鍵である、加速、乗り心地、スペース広さの3点を実現しており、製品化すれば
一気に「ダーウィンの海」を渡りきる自信がある。
三菱「iMiEV」は、「ダーウィンの海」の前だ。これから海を渡れるのが勝負。課題は、
これまでの競合製品(=ガソリン車)に対して、値段と性能などあらゆる面で勝てるかどう
かだ。価格については、年10万台を超えるとガソリン車と同等化する。自動車産業では組
み立て工場の1本のラインは年産10万台がベース。これが大量生産のワンユニットとな
る。EVは元来、シンプルな構造で部品点数が少ないので、ガソリン車より高くなるわけが
無い。
太陽電池についていえば、そこそこ普及しており「ダーウィンの海」は渡っている段階だ。
ただ、まだ政府補助ありきであり、自立出来ていない。価格が現在の半分になって自立
できる。
また、リチウムイオン二次電池の高価格が、EV普及の弊害になっているが、年産10万
を超えれば、当然安くなる。現在の自動車は、原材料(鉄、ゴム、アルミ、ガラス、プラス
ティック)は1トンあたり約20万円だ。それが、我々が電池メーカーから買うリチウムイオン
電池の原材料は1トンあたり4000~5000万円もする。トヨタが当分の間、EVではなくハイ
ブリッド車を主流とするのは、電池の価格が当面高いと思っているからだが、年産20万台
になれば、原価は10万円になるはずだ。』
DIAMOND online エコカー大戦争
トヨタ、日産も密かに気にする
慶応大学「次世代電気自動車」戦略の実態
【第2回】 2009年7月2日 桃田健史 [ジャーナリスト]
(http://diamond.jp/articles/-/6921) 以上は これより引用。これも是非ご一読願う。
まあこの記事も2009年物なのでかなり古い。その後2010年12月には日産「リーフ」が発売
されており、あたかも電気自動車が(早急に)自動車の主流に躍り出るような雰囲気も
あった。しかしながらガソリン車に取って代わるには、まだまだ先のこととなろう。なんと言っ
ても2次電池が高価すぎるし、航続距離の問題がある。「ダーウィンの海」/製品化~
産業化を漕ぎ出すにはまだまだ準備不足なのであろう。
(続く)