番外編・プリウス急加速問題(106)

SIM-Drive社による
EV開発の実績


 今回の電動低床フルフラットバスの試乗前、同キャンパス・アルファ館の会議室で、SIM

-Driveの藁谷正裕氏が「21世紀社会の電気自動車」と題して約70分間の講演をした。配

布された資料によると同氏は、同社地球展開部部長兼企画部部長。だが、実際に紹介さ

れた肩書きは、車両総括開発部・プロジェクト事務局長だった。司会者が読み上げた同氏

の経歴は、三菱自動車工業プジョーシトロエンを経て現職にあるとのことだ。

 講演のなかで同氏は、同社代表取締役・清水浩氏のEV開発の実績を紹介。1982年の

「A Car」に始まり、1997年に最初の8輪車「KAZ」が登場し、それが2004年「エリーカ」

進化。そして、SIM-Drive社となってから、5ドア乗用車の「SIM-LEI」、そして今回のEVバ

に至ったと、各車の実験の模様を動画で紹介した。

 尚、本稿の参考資料として、清水氏のEV開発に対する思い(
http://diamond.jp/articles/

-/6921
) 、さらには清水氏と「エリーカ」開発で協力した、吉田博一氏(現・エリーパワー代

表取締役)が語る「エリーカ」の企画秘話(
http://diamond.jp/articles/-/798)をご参照頂き

たい。

 さて、参加者が2グループに分かれて試乗した後、先に講演が行われた会議室に戻り、

藁谷氏と参加者による質疑応答が行われた。今回試乗会を実施した自動車技術会は、自

動車メーカー、自動車部品メーカーの技術者たちが所属する自動車技術関連のオーソリ

ティだ。そのため質問は当然、専門分野に及ぶ

Ebusimg_bd33c4341a5907fa8cb8f941d32
台湾TECO社製のインホイールモータ。写真左側がホイール。
Photo by Kenji Momota

 参加者にとって最も気になったのは、インホイールモータについてだ。藁谷氏の説明で

は、EVバス用のモータは5ドア乗用車「SIMーLEI」と同じ、アウターローター式ダイレクト

ドライブ
インホイールモータ
。つまり製造者は台湾TECO Electrric and Machinery

社製
だ。今回の講演のなかで、協力企業のなかでTECO社は紹介されたが、モータが

TECO社製と明言されなかった。だが、TECO社は筆者も参加した、2011年4月に開催さ

れたEV台湾(台北市)で、SIM-Drive提供資料として、TECO社製インホイールモータの仕

様を公開している。それによると、直径320mm×厚さ130mm、重量は49.5kg(シャフトとハ

ウジング含む)、定格出力20kw、最大出力65kw、定格トルク150Nm/1250rpm、最大トル

ク700Nm/900rpm、最大回転数2000rpm。

 このモータについて、本稿冒頭に紹介したように「発進時の音が気になる」という声が

あった。さらに質疑応答の際には「微振動もあり、コンプレッサーのような感じだ」という声も

あった。これに対して藁谷氏は、「コギング、またはリップルトルクによるもの。今後改善が

必要だと認識している」と答えた。


EVベンチャー
あるべき姿とは?


 さら参加者から、急速充電についてなどEVの基本的な技術について質問があった。

だが、藁谷氏の返答は歯切れが悪い。「これではお答えになっていないとは思いますが…

」、とか「一般的には…」と、質問に対する直接的な回答が出ない場面が多かった。とくに

協調回生ブレーキについて、質問者は「リーフ」向け等の量産品開発に直接関わっている

技術者だっただけに、藁谷氏のあやふやな回答に対して、彼は何度も質問をぶつけた。そ

して最終的に藁谷氏の回答が「(弊社には)協調回生ブレーキ技術のノウハウ(ほ

とんど)ない
」となってしまった。

 こうした質疑応答が続くなか、会議室内は重苦しい空気に包まれた。

 ここで筆者は、SIM-Drive代表取締役の清水浩氏に申し上げたい。今後、関連の技術説

明の場には必ず、各技術部門の専門家を立ち会わせるべきだ。そして、技術的な実証が

不完全で、まだハッキリと分からないことはハッキリと、「分からない」と答えるべきだ。

さらに、先行開発事業などで各事業者との間でコンフィデンシャル(企業機密)として公開

できない案件については、どの部分がどのようにコンフィデンシャルなのかをハッキリと答

えるべきだ


 今回、同社の事業としては初めての実証試験となる「電動低床フルフラットバス」を自動

車技術会会員に試乗してもらい、その感想を聞くことは、「最高のダメ出し」の機会であっ

たはずだ。「モータがうるさい」、「ハンドルのキレが悪い」、そうした声は実証試験としては

大歓迎のはずだ。参加者の様々な意見に、技術面で正攻法の意見交換をすることが、

実証試験の本質であるはずだ。

 だが結果的には、上記にように、参加者たちがEVベンチャーへの不信感を抱くような

対応になってしまった。筆者がこれまでの各種取材を通じて感じることは、日本の自動車

メーカーや部品メーカーは、EVベンチャーの存在に対して懐疑的だ。郵便配達用EV事業

を受諾しながら破綻したゼロスポーツ社についても「それみたことか」という声が、自動車

産業界では多い。

 いま、EVベンチャーについては日本だけでなく、アメリカでも風当たりが強くなってきた。

オバマ政権の売り物になるはずだったグリーンニューディール政策は、多額の補助金を取

得した太陽光パネルのベンチャーが経営破綻、また米国内のリチウムイオン二次電池メー

カーで人員整理が行われるなど、不安な要素が出始めている。

 そうした社会背景の下、EVベンチャー各社が当初描いていた量産化ロードマップが大幅

に修正されるケースも目立つ。こうしたアメリカ発の情報を裏付けとして、EVベンチャー

ブル崩壊のような基調の一般マスコミ報道が今後、増えてくる可能性もある。

 このような情勢だからこそ、日本のEVベンチャーの雄であるSIM-Driveは、正々堂々と

自動車産業界に立ち向かうべきだ。他業種の民間企業、そして産学と連携する

SIM-Drive。日本が今後、新しいカタチの自動車産業を切り開いていく上で、その存在意

義は極めて高い。このことを清水氏におかれては、再認識して頂きたい。

http://diamond.jp/articles/-/15614

 
 
SIM-Drive社の清水教授は、自身の電気自動車「エリーカ」は「アイディア」を形に出来た段

階で、試作品でもまだ初期の段階である、との認識を示している。清水教授は電気自動車

の発展段階を次のように考えている。


Q)EVの今後の普及についてどう思うか? 

清水先生は技術論として、発明発見から産業化の道のりを、こう表現している。

魔の川」/発明発見~試作品      アイディアを形にする難しさ
死の谷」/試作品~製品化       試作品を商品にする難しさ
ダーウィンの海」/製品化~産業化   商品を大量に普及する難しさ

A)エリーカ(及び、エリーカのコンセプトによる各車)は、死の谷」の前だ。安全性、信

頼性、耐久性のための衝突試験をしていないので、これから結構時間かかる。だが、EV

が成功する鍵である、加速、乗り心地、スペース広さの3点を実現しており、製品化すれば

一気に「ダーウィンの海」を渡りきる自信がある。

 三菱「iMiEV」は、ダーウィンの海」の前だ。これから海を渡れるのが勝負。課題は、

これまでの競合製品(=ガソリン車)に対して、値段と性能などあらゆる面で勝てるかどう

かだ。価格については、年10万台を超えるとガソリン車と同等化する。自動車産業では組

み立て工場の1本のラインは年産10万台がベース。これが大量生産のワンユニットとな

る。EVは元来、シンプルな構造で部品点数が少ないので、ガソリン車より高くなるわけが

無い。


 太陽電池についていえば、そこそこ普及しており「ダーウィンの海」は渡っている段階だ。

ただ、まだ政府補助ありきであり、自立出来ていない。価格が現在の半分になって自立

できる。


 また、リチウムイオン二次電池高価格が、EV普及の弊害になっているが、年産10万

を超えれば、当然安くなる。現在の自動車は、原材料(鉄、ゴム、アルミ、ガラス、プラス

ティック)は1トンあたり約20万円だ。それが、我々が電池メーカーから買うリチウムイオン

電池の原材料は1トンあたり4000~5000万円もする。トヨタが当分の間、EVではなくハイ

ブリッド車を主流とするのは、電池の価格が当面高いと思っているからだが、年産20万台

になれば、原価は10万円になるはずだ。』


DIAMOND online エコカー大戦争
トヨタ、日産も密かに気にする
慶応大学「次世代電気自動車」戦略の実態
【第2回】 2009年7月2日 桃田健史 [ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/6921)    以上は これより引用。これも是非ご一読願う。


まあこの記事も2009年物なのでかなり古い。その後2010年12月には日産「リーフ」が発売

されており、あたかも電気自動車が(早急に)自動車の主流に躍り出るような雰囲気も

あった。しかしながらガソリン車に取って代わるには、まだまだ先のこととなろう。なんと言っ

ても2次電池が高価すぎるし、航続距離の問題がある。ダーウィンの海」/製品化~

産業化
を漕ぎ出すにはまだまだ準備不足なのであろう。

(続く)