尖閣諸島問題その2(5)

フィリピンやベトナムが、南沙諸島西沙諸島をいくら自国領だといっても、中国は両方と

も中国領だと言って譲らない。それが冒頭に説明した「三沙市」だ。そして2011年5月に起

こったベトナムへのその仕打ちが、中国の立ち位置を如実に示している。これらの状況を

把握することは、尖閣諸島の防衛に役立つと言うものである。事の次第を次にまとめてみ

るので、概要を把握して欲しい。この成り行きを理解したら、次にその細部の記事を紹介し

てゆこう。


(0)2011.02.24、南沙諸島で中国海軍が演習、ベトナム(越南)が3/2に中国に抗議する。

(0)2011.03.02、南沙諸島で石油探査中の比・調査船が中国軍艦に妨害される。

(1)2011.05.26、EEZ内でベトナムの資源探査船の探査用ケーブルが中国監視船に切断される。

(2)2011.06.01、南沙諸島で越南漁船が中国艦船3隻から威嚇射撃を受ける。即刻抗議文を送る。

(3)2011.06.05、ハノイホーチミンの中国大使館前で抗議デモが行われる。

(4)2011.06.09、偽装中国漁船がペトロベトナム傘下の調査船の測量用ケーブルを破損させる。 (ボルネオとベトナム南部との中間の南沙諸島の西端に接する海域)

(5)2011.06.11、チャイナネットは6/11付けで「ベトナムは大損をする事になる」と恫喝する

(6)2011.06.12、ハノイホーチミンの中国大使館前で、再度抗議デモが行われた。

(7)2011.06.13、ベトナム海軍はグアンナム省(ダナン市)沖合い40km地点で実弾演習を行う。

(8)2011.06.14、中国の中金在線は、この演習を受け「必ずや報いを受ける」と再度恫喝する。
(注、中金在線とは2003年に営業を開始した中国の金融・証券系のニュースサイトである。)

 
 
(1)2011.05.26 に関する記事を次に示す。
 
 

「資源探査船ケーブル切られた」ベトナム,中国を非難(2011.05.31読売新聞)

「資源探査船ケーブル切られた」 ベトナム、中国を非難
南シナ海EEZ内、賠償要求


ベトナム外務省は29日、緊急の記者会見を開き、南シナ海における同国の排他的経済水

域(EEZ)と大陸棚で、「ベトナムの主権に対する重大な侵害があった」として中国を非難、

同海域での中国の監視活動の即時停止を求めた。


 同省によると、ベトナム中部フーエン省冲約120カイリ(約220キロ・メートル)のEEZ

で(2011.5.)26日、同国の資源探査船が中国国家海洋局所属のパトーロル部隊の監視船

3隻から妨害を受け、調査に用いたケーブルを故意に切断された。現場はベトナム国営石

油会社の開発鉱区で、中国監視船、無線による呼びかけを無視して接近し、ケーブル切

断後、「ベトナム側が中国の領海を侵犯した」と警告して立ち去ったという。


 ベトナム政府は27日、中国大使館に抗議、再発防止と損害賠償などを要求した。請求額

は不明だが、国営石油会社は「被害額は約10万ドル(約810万円)と国営ベトナム通信に話

した。中国外務省は反発している。中国は南シナ海ほぼ全域の主権を主張、スプラトリー

(南沙)、パラセル(西沙)両諸島をめぐって領有権争いを続けている。


 ベトナム外務省のグエン・フォン・ガー報道官は「今回、被害があったのはベトナム

EEZ内だ。中国は問題の平和的解決を主張しながら、状況を複雑にしている。主権と平和

を守るために必要な措置を取る」と強調した。


中国「取り締まりだ」

 【北京=大木聖馬】中国外務省埼の姜癒瑜副報道局長は、中国の監視船がベトナム

査船の活動を妨害したことについて「中国が管轄する海域で実施した完全に正常な取締り

活動だ」とする談話を、28日発表した。
http://www.bochao.jp/article/14005635.html

 
 

事件の発生したベトナム中部の沖合い120海里と言うと、1海里は1852mなので、222.24

kmの沖合いとなる。ご承知の通りEEZ(exclusive economic zone 排他的経済水域)と

は、国連海洋法条約により、自国の沿岸から200海里(約370km)の範囲となり、この範

囲内であれば沿岸国の独占的な経済活動が認められている。即ち漁業権や探査・採掘権

などを独占できるのである。


ベトナムの資源探査船の活動は、明らかにベトナムEEZでの活動であり、中国がとや

かく言えるものではないのである。しかし軍事力を背景にベトナムの探査船に実力行使し

たのである。これは明らかに中国が国際法に違反している。


しかしエコノミックゾーンであるため、他国の船舶の航行や上空飛行まで制限することは出

来ない。しかし自国沿岸の基線から12海里(22.224km)が領海となり、他国は何人たりと

も侵すことは出来ない。この領海から更に12海里の部分を接続水域と言う。


基線
とは引き潮時点の海岸線である、と考えていればよかろう。ただし島などがあったり

湾口など入り組んでいる場合は島や湾口の両端を結んだ直線となる。接続水域とは領海

から離れること12海里の幅の部分であるので、基本的には公海となるが、出入国管理や

環境・衛生に関する防止処置などをとることが出来る。


と言ったところが排他的経済水域に関する事項なのだが、ベトナムと中国の紛争問題

ら少しEEZの話に脱線しよう。


問題はWikipediaによれば、自国の沿岸からの大陸棚が200海里を超えて延びている

場合
は、EEZをそこまで設定できるとしていることである。そのため隣接国との排他的経

済水域とが重複する場合には、より深刻となるのである。


東シナ海では、中国が「大陸棚自然延長論」をとり、自国の沿岸から伸びる大陸棚の突

端までのすべての海域を自国のEEZと主張している。すると完全に日本のEEZと重複して

くるのである。そのため日本は「大陸棚自然延長論」をとるのではなく、両国の「中間線

」を主張している。そのためEEZの境目が日中両国では異なっているのであり、日中間

で対立が続いている。


しかし、国際海洋法裁判所ミャンマーとバングデシュ間の対立では、「大陸棚の境界

は、中間線を基本とする
」と言う判決を下しているので、日本は堂々と中間線論で物事を

おし進めるべきである。そのためにも、その主張を担保する軍事力を保持しておく必要

があることは、このベトナムと中国の西沙諸島をめぐる対立を見れば、明らかである。

(続く)