尖閣諸島問題その2(13)

 ここまで見てきたように、中国は自らの主張を通すために軍事力を行使することに抵抗

がありません。


表現は悪いですが、ミスチーフ環礁の例でも見られるように、嘘を力で通すことも平気で

やってのけます。

中国の指導者たちは、他国の指導者たちと同じように公式的にはリアリズムの信奉者

あることを否定しますが、実際の行動を見る限り、中国ほど直接的にリアリズムを用いる

国家は、イスラエルやロシアなど極めて稀にしかありません。


 また、中国の戦略家たちは、他国の研究者などから直接聞かれたときには、率直にリア

リストであることを認めてくれることもあります。リアリズムの信奉自体は、「現実に有効な

方法を使わない手はない」といわれればそれまでなので、ある意味では仕方のないことな

のですが、こういったタイプの国を相手にするときには、対抗側もリアリズムの論理を活

する必要に迫られます。


 日本も中国との間に尖閣諸島をめぐる紛争を抱えています。中国側が日本の排他的経

済水域を無視して日本側に何の断りもなく調査を繰り返したりするのは、リアリズムの論

理から見れば、日本側からの強い抗議がない以上、それに付け込んで自らの主張を通

のは当たり前のことであり、問題があるのは中国側の行動よりも、国際政治のイロハも

わきまえない日本側の対応であるといえるでしょう。日本の外交当局者たちは「中国を刺

激するから」といった理由を述べますが、リアリズムの論理では、刺激されない程度の抗議

しか来ない内は「まだ行ける」と受け取られます。


過剰にやり返すのは問題ですが、反撃するまでは相手の行動がエスカレートするということ

くらいは知っておかなくてはなりません。


 また、04年に入ってから中国は潜水艦の行動範囲拡大のため、日本の最南端の領土

である沖ノ鳥島を「島ではなく岩」と見なし、その排他的経済水域の有効性を否定しまし

た。こういった場合も、相手が引き下がらざるを得ないレベルの抗議なり反撃なりを行

わない限りは既成事実化を図られ続け、いずれは中国側の言い分が通り、中国に好きな

ように使われるようになるわけです。

http://www.h6.dion.ne.jp/~ct-labo/eye/china%20domestic.htm#2-1 

 
 
同じ趣旨のことを、同じように的確に述べいてる次の論考も是非ご一読願う。

 
 

海国防衛ジャーナル
西沙諸島海戦が教える中国の海洋戦略
2011年01月20日 12:00

先日、日本の離島防衛に有用な戦訓を引き出すケース・スタディとしてフォークランド紛争

を取り上げましたが、今回の題材は西沙諸島海戦です。

(下図は、クリックで別画面となる。)
Img    

西沙諸島海戦とは、1974年西沙(パラセル)諸島海域において領土問題を抱えていた

中国と南ベトナムが交戦した武力衝突です。結果は中国が勝利し、同諸島全域の支配

権を確立
しました。海戦としては知名度も低く、取るに足らない小規模なものなのですが、

本海戦は中国の海洋戦略を考えるにおいてうってつけの好材料です。現在我が国が中国

との間で抱えている尖閣諸島問題などでオーバーラップする要素が多く、当ブログでもこ

れまで何度か言及してきました。


本稿では、過去の記事も踏まえ、西沙諸島海戦から得られる対中海洋戦略の教訓

探ってみたいと思います。尖閣諸島問題を頭の中で描きながら読んで頂ければより分かり

やすいかと思われます。

 
◆資源の存在確認→領有権主張
1950年代半ばから、ベトナム西沙諸島の領有権を主張し、その一部を支配下に置

いていました。他方、中国1956年パラセル諸島東側部分を支配し、この状況は

その後20年近く続きました。


西沙諸島周辺海域に中国が強烈な関心を示し始めたきっかけは、1967年から翌年にか

けて実施されたアジア極東経済委員会(ECAFE)によるベトナム南部海域の探査結果が

出てからでした。この調査でメコン・デルタ沖に石油の埋蔵が確認されたのです。まず、

ベトナム政府が同海域の島嶼を自国の管轄下に編入することを決定しますが、これに対

して中国は声明を発し、南シナ海にある島嶼及びその付近海域の資源には、中国の排他

的領有権があることを主張しました。これにより、西沙諸島海域領土紛争の舞台へと

変貌しました。

 
◆覇権国のプレゼンス低下

この時期はベトナム戦争末期にあたり、ベトナムの敗戦が濃厚だったことから、西沙

諸島を守備する南ベトナム軍が中国軍に反抗することはそもそも難しい状況でした。なに

より、米軍が南ベトナムへの支援を縮小し始めていて、そのプレゼンスは低下していま

した。つまり、中国が西沙諸島へ侵攻してもアメリカが介入してくる可能性低かったの

です
。さらに、中国は北ベトナムを支援しており、中国軍による西沙諸島の占領に北ベトナ

ムが抗議することも考えられませんでした。こうした有利な国際環境を背景に、中国は軍

事力の行使を決意
します(参照)南下政策。

(続く)