尖閣諸島問題その2(14)

◆拒否戦略
中国が西沙諸島で軍事力を行使しようと決意した理由は、主権海洋権益だけではあり

ません。軍事的理由として、ソ連の存在が挙げられます。


1950年代後半から中ソ関係は悪化し、黒海や紅海方面からインド洋方面へ進出するソ連

の動向に中国は警戒感を抱いていました。69年の国境紛争後も中ソ間の陸上国境沿い

にはソ連の大機甲部隊が配置されており、この極東ソ連軍と南方の沿岸一帯に展開され

る海軍力によって包囲されかねないとの脅威認識を中国が持つのは自然なことでした。

連の対中包囲網
を成立させないためにも、中国は南シナ海海域における海軍のプレゼン

スを誇示する必要に迫られており、今日でいうところの接近阻止・領域拒否(A2AD)に類

た戦略構想が要求されたのです。

 
◆海軍力の実験

上記のことからも分かる通り、当時の中国海軍はソ連海軍に対応することを念頭に建設

が推進されていました。1970年代初頭には、東南アジア諸国の海軍相手ならば戦力は優

越するとの認識があり、自海軍の装備及び部隊運用などの近海作戦能力を検証する機会

して、西沙諸島における領有問題を開戦理由として利用したという側面は否定できませ

ん。建設中の海軍の方向性の適否を、負ける見込みのない国を相手に「テストする」とい

う事例は西沙諸島海戦だけでなく、のちの赤瓜礁海戦南沙諸島海戦)でもまったく同

様に再現されました。

 
民兵の起用

また、本海戦は領土紛争の先兵として民兵民間船が用いられた例としても、日本にとっ

ては興味深いケースです。南ベトナム政府による主権領有宣言の後、中国政府は直ちに

抗議するとともに、海軍哨戒艇2隻漁船2隻パラセル諸島甘泉島に派遣し、そこに駐留

していたベトナム兵を駆逐して占領してしまいます。中国は声明を発表し、「中
国固有の領

土である西沙諸島で操業していた(民間)漁船に対し、南ベトナム駆逐艦が領海侵犯である

と挑戦してきた。そこで、海軍を漁船と民兵の保護のために派遣した
」というものでした。

この後中国は、民兵2個大隊を同諸島深航島に上陸させ、南ベトナム軍の反撃に備えて

陣地を構築しています(参照)海上民兵

                       ◇ ◇ ◇

西沙諸島海戦にみられる開戦動機から実効支配までのパターンの一部は、我が国の

尖閣諸島問題東シナ海のガス田問題でも垣間見えるものではないでしょうか。中国が

海洋権益を排他的・恒久的に確保することを目的として他国へ圧力をかけ、その過程で国

際環境が自国に有利とみれば軍事力行使も厭わない国家であることは明らかです。

また、新戦略や建設途中の海軍戦力の進捗状況を測るために、西沙諸島海戦のような局

部戦争を利用する傾向があることも事実です。


とはいえ、東シナ海で我が国相手に同じようなことをするのはいささか難しいでしょう。西沙

諸島では実験的側面があったとはいえ、結果としては戦闘に勝利し、所期の目的資源

の確保
ならびに海域の実効支配)を果たしています。しかし、東シナ海で中国が先に手を

出し、海上自衛隊だけでなく同盟国アメリカを巻き込んでしまうとなると、海域の実効支配

という実益どころか、中国海軍の実力を試す余裕さえなく、大きな痛手を覚悟しなければな

りません。つまり、西沙諸島南沙諸島と同じ動機や準備で東シナ海に侵攻することは、

中国にとって現段階ではリスクの方が大きいのです。そのため、民間の漁船を送り込むな

どの牽制行為はして見せるものの(これも実験のひとつかもしれませんが)、日本の尖閣

諸島や南西諸島への武力侵攻の蓋然性はそれほど高いものではありません


ただし、我が国自身が当該海域におけるコントロールの意志を放棄したり、日米同盟の

効果を著しく減退させ、米軍のプレゼンス低下を招くような事態になれば、それを見逃す

ほど中国は甘い相手ではないのだということを西沙諸島海戦は教えてくれています。

http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50554212.html

 

 
次に、南沙諸島への中国の侵略状況。(1988.03.14)

南沙諸島はもともと100個ほどの小さな島や岩礁で構成されている。現在はベトナム

マレーシア、フィリピン、ブルネイ、台湾、中国などが領有権を主張しているが、Wikipedia

によれば、実際に実効支配している国は、ベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾、中

の5カ国だけである。


1988.3.14
、中国はベトナムが統治していた6つの島に攻撃を仕掛けて、占領してしまう。

ここでもベトナム軍は中国軍に負けてしまう。これを南沙諸島海戦と言う。


この諸島は中国からはるか遠くに位置している。中国の海南島の対面に位置する主要軍

港の一つである甚江(甚にはサンズイがつく。)より、直線距離でおおよそ1万3千kmも離

れたところにある南沙諸島にまで、船団を組んで攻め入ったのである。これを侵略と言わ

ずして何と言おうか。

(続く)