尖閣諸島問題その2(40)

 産業の景況悪化は別の情報によっても裏付けられる。電力消費量の大幅な低減である。

国家統計局が発表した今年4月の全国の発電量は前年比0・7%増だが、それは1月の9・7%

増から大幅に落ちた。英字紙ヘラルド・トリビューン紙は6月25日付の紙面で、基幹産業が集

中する有数の工業ベルト地帯である江蘇省山東省の電力消費量が前年比10%以上も激減

したと報じている。


 筆頭副首相の李克強氏はかつて、中国の経済動向を見るのに電力消費量の変化が最重要

な指標であると語っているから、彼の見方からすれば中国経済が衰退していることは確実で

ある。


 経済衰退の兆候は別の方面でも表れている。シンガポールの聯合早報が、中国本土からの

観光客がシンガポールや香港でブランド品や高級住宅、美術品などを買いあさるといった

級品
の消費ブームが下火となったと報じたのは5月31日のことだ。


 6月23日のマカオ政府の発表によると、5月に中国本土からマカオを訪れた人は前年同月比

4・2%減で、約3年ぶりに前年同月を下回ったという。経済の衰退に伴って、「金持ちの中国人

観光客」というのは徐々に過去のものとなりつつある。


 これまで中国経済は主に、対外輸出の拡大と国内固定資産投資の拡大という「2台の馬

車」で高度成長を引っ張ってきたが、この成長戦略が今や限界にぶつかっていることが経済衰

退の主因であろう。


 例年25%以上の驚異的な伸び率で拡大してきた対外輸出の場合、今年1月から5月までの

伸び率が8・7%増に止(とど)まり、過去のような急成長はもはや望めない。


 一方の固定資産投資の拡大に関して言えば、6月28日、経済参考報という経済紙が「資金

不足ゆえに複数の国家的事業としての鉄道建設プロジェクトが中止・延期されたまま」と報じて

いる。「ハコモノ造り」で成長を維持していくという戦略自体がすでに限界を迎えていることがよ

く分かる。


 こうした中で、中国経済の全面衰退は明確な趨勢(すうせい)となってきている。6月25日、中

国の各メディアが伝えたある政府高官の発言は実に興味深い。全国の国有企業を監督する

立場にある国有資産管理局の副主任にあたるこの人物は最近、国有大企業の経営者たちに

向かってこう語ったという。


 曰(いわ)く、連続30年以上の高度成長を続けてきたわが国の経済は今、長期的な「緊縮

期」
に入ろうとしている。国有大企業は今後、「3年から5年間の厳冬期」に備えなければなら

ない、という。


 おそらく国有企業だけでなく、中国経済全体がこれから「厳冬期」を迎えることになるだろ

う。ただしそれは果たして「3年から5年」の短期間で終わるものであるかどうか、それこそ問題

なのである。

                   ◇

【プロフィル】石平

 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院

文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』

など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120705/chn12070511040002-n1.htm

 
 

しかしながら既にこの民衆の不満は、政府と言っても共産党に向けられていると言う。このシュ

ウホウ市の暴動では、市政府と言うよりもその上に位置する共産党委員会庁舎への破壊

行為が行われていたと言う。まあ四川省では小学校などがあの地震で沢山崩壊して、児童生

徒達が沢山生き埋めにあっている。それも地方政府・共産党委員会などとグルになって手抜き

工事を助長した結果だと言う。だから人民達も憂さを晴らしたかったのであろう。

 
 

【石平のChina Watch】四川省暴動事件 一党独裁のほころび露呈
2012.7.19 11:01
Chn12071911010003n1
中国遼寧省大連市のデモで、反腐敗の横断幕を掲げる若者ら=14日(共同)
 
今月初め、中国四川省の什●(シュウホウ)市で市民による暴動事件が起きた。政府当局が

誘致してきた金属工場の建設をめぐり、住民たちが「健康被害が出る恐れがある」として反対

運動を起こしたのがことの始まりである。運動が盛り上がっていく中で、参加者の一部が暴徒

化し什●市共産党委員会と市政府の庁舎への破壊行為にまで及んだ。 ●=方におおざと


 だが事件の結末はむしろ意外なものであった。政府当局は一応、公安警察を現場に派遣し

て警戒に当たらせたが、警察部隊は本格的な実力行使に踏み切らなかった。そして、共産党

什●市委員会の李成金書記は、くだんの金属工場建設の中止を発表した。


 今の中国では、当局が力ずくで民衆の反乱を押さえ込むようなことはそう簡単にできなくなっ

ている。そのことは共産党政権そのものの弱体化を意味しているが、上述の什●事件から

は、党の支配体制に生じている大きな矛盾の一つを見取ることもできる。


 民衆の暴動で当局の庁舎が破壊された中で、実は市政府のそれよりもむしろ共産党委員会

の庁舎の方が破壊行為の主な対象となっていたことが国内の報道で分かった。民衆の抗議行

動とその憤りの矛先は明らかに、政府よりも党の方へ向かっていたのである。


 おそらく当の党委員会にとって、それは甚だ「心外」だったのであろう。中国の政治システム

においては、各地方の党委員会は確かに権力の中枢ではあるが、工場建設などの具体的な

「経済工作」はむしろ政府の管轄範囲であって、党のあずかり知るところではない。本来なら、

金属工場建設の一件で党委員会までが暴動の対象にならなくても良かった。


 だが結果的にはやはり、民衆は容赦なく党委員会の庁舎に乱入して憤りの打ち壊しを断

した。要するに民衆からすれば、党が権力の中枢としてすべてを支配している以上、それは

当然、この地方に起きたすべての問題に対して責任を負わなければならないものだ。だから、

何か起きる度に追及の矛先憤りのやり場を党の方へ持っていくのはむしろ自然の成り行き

である。


 もちろんこのような感覚は一地方に限らず、中国国民全体に行き渡っているはずだ。一党

独裁体制
を敷いてあらゆる支配権を手に入れている共産党は結局、この国で起きたすべて

の出来事に対して何らかの責任を負い、民衆の不満や憤懣(ふんまん)を一身に背負う立場

にあるのである。


 それこそは、独裁政権が独裁であるが故に抱える根本的矛盾の一つだが、これまで、党の

支配体制が盤石で民衆の不満と反乱を簡単に押さえ込むことができたときには、党は矛盾を

抱えながらも何とかして体制を維持できた。しかし什●(シュウホウ)事件からも分かるように、

力ずくで民衆を統制できるような時代が過去のものとなっていくと、共産党政権の立場はます

ます苦しくなってくるのであろう。


 とにかく今後、民衆の不満が高まってくるのにしたがって、常に追及と攻撃のターゲットにされ

ていながらもそれを簡単に押さえ込むこともできない各地の党委員会と共産党政権全体は窮

地に陥っていく。


 最近、党の政治権力の及ぼす範囲への制限を着眼点とする「政治改革」の機運が政権内で

高まってきているが、それは、「すべてを支配しているが故にすべてに責任を負わなければなら

ない」というジレンマから党を救い出すための動きの一つであろう。だが、大きな時代的変化の

中では、小細工的な改革よりも一党独裁体制の放棄こそが党自身が窮地から脱出できる

唯一の道となるのではないか。

                             ◇

【プロフィル】石平
 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院

文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』

など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120719/chn12071911010003-n1.htm
(続く)