尖閣諸島問題その2(93)

これでは円高が進むのは当たり前で、輸出は増えずに反対に輸入品は安くなり、その結

果国内生産が落ち、その結果国内需要は先細りとなり安値競争が蔓延(はびこ)り、デフ

レが進行したのである。


この激しい円高デフレの進行が、日本の産業の空洞化を生み、特に製造業の海外移

が加速されたのである。その恩恵を受けたのが、世界の工場と嘯いている中国だった

のである。


これらのことは「正論、12月号」の『日銀”退治”が中国経済を粉砕する』(経済評論家・

上念司氏)に詳しく述べられているので是非ご一読願いたいが、以下それらの論考も参照

して述べることにする。


この結果日中間の貿易額は飛躍的に上昇していった。次のデータを見てほしい。

5050_2 
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5050.html      

このグラフで見ると、日中貿易は2004年に日米貿易額を超え、急激に伸びていった。

2008年秋のリーマンショックの後の2009年に貿易額は一時的にダウンしているが、その

後はまた上り調子となっている。金額がダウンしたと言っても全世界の貿易額がダウンして

いるので、日中貿易の占める割合は、落ちていない。


先の「正論・12月号」では、このことを次のように述べている。


生産拠点が中国に移った結果、現地調達の出来ない基幹部品を日本から輸出して中国で

最終製品として、更にそれを日本へ輸出しているからである、としている。さもありなん。

円高(と人民元)のせいでわざわざこんな複雑な取引形態となっている。それでも儲かっ

たのである。と言っても先端技術までも中国くんだりに渡す必要はない。このような貿易形

態は必然的なものである。


しかしこのように民主党と日銀の進めた円高政策のために、中国の経済はすこぶる拡大し

ていったのであるが、中国は中国で「人民元」を安く保つために、人民元を大量に発行

ている。しかも世界の工場として、つかの間の繁栄を享受していたが、ここにきて、インフレ

が昂進している。そして土地投機を生み、報道されているように、地方政府による数々の

不正な土地収用問題が起こり、不当に土地を奪われた農民や失業都市住民達不満

が鬱積
しているのである。


しかも経済拡大に伴う経済格差は広がるこそすれ、縮まることは無い。やがてはこの土地

投機によるバブル経済は崩壊し、インフレはますます昂進して、経済格差もますます拡大

して行く。


中国政府はこれらの三つの問題経済格差、バブル崩壊、インフレ昂進といった喫緊

の課題解決を真面目に取り扱っていない。しかも丁度政権の交代時期と重なり、中南海

権力闘争の真っ只中であった。誰を政治局常務委員に押すか、誰がなるか、権力闘争

激しさを増していったのである。

その手始めが、ハクキライ事件だった(2012.8.24のNO.29などを参照のこと)のだが、

そんな時に尖閣諸島問題(国有化)が発生した。胡錦濤としては、これは願っても無い事

だった。これで人民の不満を外に向けられる。案の定、大々的に官製反日デモを発生さ

せた。そして想定した通り、そのデモに都市にいる失業者が大挙参加して、想定通りに暴

徒化したが、これはある意味意図していたことであろう。暴徒であれば日本企業の工場や

商店を焼打ちできる。そしてそれは野田政権が忠告を無視して尖閣諸島の国有化を押し

進めた結果である、と抗弁できるからである。しかし少々激しすぎて反政府的な色彩も帯び

てきた。


そのため中国政府はあわてて(かどうかはわからないが)、この官製反日デモの押さえ込

みに動いた。そして数日でこの暴力的反日デモを押さえ込んだのである。


このデモが中国全土に蔓延すれば、現在の政治体制ひっくり返るかもしれない、と危

惧した筈である、胡錦濤らは中国伝統の「易姓革命」が起こることを恐れたに違いない(易
姓革命については、2008.11.15の当ブログ「ヨーロッパと日本(25)を参照のこと」)。


まあ、中国は三つの問題の解決を先送りして、人民の不平・不満を外に向けるへく「官製

反日デモ
」を挙行したものである。為替操作をはじめとして、この経済格差、バブル崩

壊、インフレ昂進
といった三つの問題の解決に真摯に取組み、高成長から低成長への軟

着陸や富の再分配政策の実行(年金や生活補助制度などを含む福祉政策、胡錦濤

和諧社会がそれ。)などを実施すべきだったのである。

(続く)