世の中、何だこれ!(WBC敗退、52)

 私は運よく、MLBNをキャリーしているタイムワーナー・ケーブルに加入しているため、

このサービスを利用することができたのですが、テレビを視聴できない環境(オフィスなど)

にいる場合は、パソコンやモバイル端末を利用して試合中継を見ることができます。

 また、試合会場にいても、座席の場所やアングルなどにより試合が見づらい場合や、試合

を多面的に楽しみたいファンには、球場内で試合を見ながら携帯端末で試合映像を確認す

るという新たな楽しみを提供することができます。私も実際、準決勝の日本対プエルトリコ

戦で試しにやってみたのですが、球種やコースなどの細かい部分は中継映像の方が分か

りやすい場合が多く、「意外に面白いな」というのが感想です。

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モバイル中継を見ながら試合観戦、という新たな楽しみ方


「第4の窓」での取り組み


 テレビ、パソコン、モバイル端末をそれぞれ「第1」から「第3」の窓とするなら、口コミは「

4の窓
」と言えるかもしれません。そして、この4つ目の窓でも、WBCは今大会から新たな試

みを始めています。
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マンハッタンの一角に出現した「ファンの洞窟」 

 MLBは2011年シーズンよりニューヨーク・マンハッタン内に「ファンの洞窟」(Fan Cave)と

呼ばれる特設スタジオを設置し、ソーシャルメディアを活用したマーケティングキャンペーン

を展開しています。この「ファンの洞窟」には、約1万人の応募者の中から選ばれた特派員
2人
が住み込み、MLB全2430試合を視聴してその経過やイベント情報などをFacebook

ツイッターなどのソーシャルメディアを通じて発信しています。いわば、口コミマーケティング

拠点です。

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スタジオ内には多数のモニターやオブジェが所狭しと配置されている 

 約1400平方メートルの広大なスタジオには、試合を視聴するテレビモニターのほか、カ

フェ、バー、ビリヤードスペースなどの擬似生活空間を併設し、ライブミュージック等が披露

されるほか、選手、監督、芸能人らもゲストとして定期的に訪れます。

 こうしたイベントや来客は直前まで極秘とされ、ソーシャルメディアを用いてゲリラ的に告

知されるため、ファンには「何か面白いコトが起こる場所」として記憶されることになるので

す。こうしたすべてを明らかにせず、秘密の部分を併せ持つことがソーシャルメディアの伝

播力
をより強めているようです。

 MLBは、この「ファンの洞窟」の仕組みもWBC用にアレンジして活用しています。マンハッ

タンのスタジオにはWBCのディスプレーが用意されるなど、WBCの雰囲気盛り上げに一

役買っています。

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「ファンの洞窟」に設置されたWBCを紹介するディスプレー 

 さらに、WBC開催に合わせて参加国を代表する“洞窟の住人”の特別オーディションが開

催されました。晴れて国を代表する“住人”に選ばれたファンには、ニューヨークまでの往復

航空費、ホテル宿泊費、現地での生活費は支給され、“洞窟”で2次ラウンドまでの全ての

試合
を観戦、毎日ソーシャルメディアを通じ、試合の感想や観戦記を伝える任務を果たす

ことになります。


将来の収益化に備えてカマを研ぐ


 代表ファンは母国が敗れると“洞窟”を離れなければなりませんが、決勝ラウンドにコマを

進めた4か国の代表ファンは、決選の地サンフランシスコのAT&Tパークにて母国の戦い

を観戦する機会を与えられます。球場内には、サンフランシスコ名物のケーブルカーを模し

WBC版“ファンの洞窟”が設置されており、ファンが記念写真を撮影することができるよう

になっています。

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AT&Tパーク内に設置されたWBC版「ファンの洞窟」 

 このように、今大会からMLBは「第1の窓」から「第4の窓」(ソーシャル)までのすべてのウ

ィンドウを内製化し、来る収益化への臨界点に備えて既存資産を有効活用しながらマネタ

イズの仕組み
を築き上げています。「今か、今か」とカマを研ぎながら、果実を刈り取る機会

を虎視眈々と狙っているのです。

 WBCを巡っては、大会収益からの各国への分配金比率が米国に偏り過ぎだとして、“ML

B中心主義
”への批判も聞かれます。しかし、米国以外の国が今回ご紹介したような収益

化の仕組みを作ることは簡単ではないと、今大会での変化の兆しを目の当たりにして痛感

した次第です。


鈴木 友也 (すずき・ともや)

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ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社、「トランスインサイト」代表。1973年

東京都生まれ。一橋大学法学部卒アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を

経て、マサチューセッツ州立大学アムハースト校スポーツ経営大学院に留学(スポーツ経

営学修士
)。世界中に眠る現場の“知(インサイト)”を発掘し、日本のスポーツビジネス発展

のために“提供(トランス)”する――。そんな理念で会社を設立し、日本のスポーツ組織、民

間企業、メディア、自治体などに対してコンサルティング活動を展開している。ほかにも講

演、執筆でも活躍中。著書に『スポーツ経営学ガイドBOOK』(ベースボール・マガジン

社、2003年)、訳書に『60億を投資できるMLBのからくり』(同、2006年)がある。中央大学

商学部非常勤講師(スポーツマネジメント)。ブログ『スポーツビジネス from NY』も好評連

載中。Twitterのアカウントはtomoyasuzuki
(写真 丸本 孝彦)


鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」


「スポーツビジネス先進国」と言われる米国。その市場規模や人気などで日本を凌駕する。

そこでは、日本にいては思いつきもしない先進経営が繰り広げられている。だが、進みすぎ

たが故の問題も内包する。米在住のスポーツマーケティングコンサルタントが、米国スポー

ツビジネスの現場を歩き、最新トレンドを解説していく。

果たして、米国は日本スポーツ界の「模範解答」となるのだろうか?

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20130322/245423/?mlt&rt=nocnt

 

 
 

このようにMLBは着々と金儲け話を進めている。まあ賭場を広げてきているのである。米国

と言うよりも北米だけでは金儲けに限界があると悟ったMLBが、更なる金儲けのために国

際化を迫ってきたのだ。それがWBCだ。いわゆる他人の(主に日本の)褌で相撲を取ろうと

仕掛けてきた(かっこよく言えば)ビジネスモデル(賭博場)の展開なのである。

(続く)