尖閣諸島問題その3(11)

5.四つ目のポイント

四つ目の原則は、「イデオロギーや好き嫌いの感情を、外交政策に持ち込んではならない

と言うものである。

 

日本の親米保守には、「アメリカは好きだから、米国の言う通りに日米協力すればよい」と

考えている者が多い。その一方、親中左翼は、「中国は良い国だ。中国政府の言う通り”謝

罪と反省”を繰り返していれば、日中友好は実現するだろう」と思い込んでいる。

 

しかし外交政策とは、冷静・怜悧なバランス・オブ・パワー計算コスト・ベネフィット計算

よって決められるべきものであり、イデオロギーや好き嫌いの感情を外交政策に持ち込む

と失敗する、と結論付けている。1930年代の日本の大陸進出はコストが掛かりすぎるもの

であったので、割が合わなかった。これは(1)3回のパラダイムシフトの項で述べた。この

意味での外交の達人と言われる人には、伊藤博文チャーチル、ド・ゴール、スターリン、周

恩来などが該当する、とこの筆者は言っている。

 


国際政治でのリアリスト外交のこの原則は、絶対に忘れてはならないものである。戦前の

日本人がこの原則を守っていたら、中国大陸で戦線を拡大するような愚考は避けられた筈

である。そして「気がついたら四方を四核武装国に包囲され、自主的な抑止力を持てない

状態になっていた」と言う窮状は避けられた筈である。外交政策パラダイムとは、単なる

「学者の屁理屈」ではないのである。

 


きちんとしたパラダイムを選択できない国民は、まともな国家戦略をもつことも出来ない

と言うことになる。そこでこの筆者(伊藤 貫氏)は次のことを提案している。

 


・ミニマム・ディフェンス必要最小限の自主的核抑止力)の構築、そのために国防予算を

GDPの1.2%(6兆円)まで増やす。

日印軍事同盟を締結する。

 

日露協商を構築する。

 


と言うもの。現在の日本を取り巻く地政学的環境を考えると、自主的な核抑止力と同盟関

係の多角化はバランス・オブ・パワーを維持する上でどうしても必要だからである。

 


核の洗礼を受けている唯一の国の日本としては、核アレルギーがあることは判る。しかし

バランス・オブ・パワー状況において、どれほど日本が不利な状況に置かれているかを、認

識しなければならないのである。日本にとって有利な方向へ変えるのに役立つ国家とは、

感情やイデオロギーを排して協力すべきである、とこの筆者は結んでいる。将にその通りで

ある。

 


CIAは、2010年後半にも中国の実質経済規模は世界一になると予測している。更に中国

の実質軍事予算
は、4年ごとに倍増している。そして米国の軍事予算は経済危機のため

「今後5~6年は増加しないだろう」といわれている。遅かれ早かれ、中国の軍事力はアメリ

カのそれを凌駕することとなろう。ならないにしても拮抗することとなる。
日本を取り巻く地

政学的条件
は、今後ともますます悪くなってゆく。

 


日本は米占領軍に押し付けられた”平和国家(即ち無力国家)”パラダイムを捨て、リアリ

スト・パラダイムを採用すべきである。
何時までもアメリカへの依存主義の外交論を繰り返

していると、李鵬の言うように「
日本などと言う国は、20年くらい後には消えて亡くなってし

まう
」と言う予告が、現実なものとなってしまう。

 


ここで二つ、三つ追加しておきたい。

 

(1)3回のパラダイム・シフトの項では、米政府は1942年から「日本に自主防衛させない」

と決めていたと、Michael Sherry, “Preparing for the Next War”, Yale University Press

引用
して記述しているが、伊藤 貫氏は「正論・1月号」にも「オバマ米新大統領の”チェ

ンジ”が
日本にもたらすもの」とする一文を載せている。それによると、1941年8月の時

点で、アメ
リカ政府は既に「戦後の日本を、永久に武装解除すると決めていた」と、
キッシ

ンジャー元
国務長官
は記述している、と述べている。アメリカは「日本を戦争に追い込む」こ

とを計画
し、そして叩き潰して「2度と自主防衛できない国にする」ことを、
日米戦争が始る

前に既に
決めていた
のである。

 


そして2008年の米民主党にも「アメリカは日本に自主防衛させてはならないが、中国の

軍備増強に反対する必要はない。日本は、米中両国が共同して封じ込めておくべきだ
」と

考えている者が多い、と述べている。クリントン夫妻、ホルブルック特別代表(元国連大使

然り。1942年のF.ルーズベルト大統領の「米中による日本封じ込め」政策と同じ考えで

あり、民主党親中嫌日的な政策は、いつまでたっても変わらない。共和党でも同じで

あると言う。ブッシュ(息子)は2003年ごろまでは親日的であったが、2004年以降、父親

キッシンジャーに説得されて、「米中両国で日本を封じ込めておく」と言うアジア戦略に

賛同するようになる。そして「日本を押さえつけておく為に必要だ」と納得して、2008年米

朝合意をしたのである。ジョージ・W・ブッシュは、決して親日ではないし、
アメリカに依存す

外交政策は間違い
である。

 


米ソ冷戦の終わった後も、政治家や国際政治学者の著作や論文には、「日本は、アメリカ

保護領に過ぎない」とか「実質的な属国である」と描写されていると言う。21世紀になっ

た現在でも、「
日本に、永久に自主防衛能力を持たせない。日本が2度と外交政策を実行

できない国にする
」と言うアメリカの日本に対する基本的考え方は継続されており、変わっ

ていないと言う。

 


今後、オバマ政権が日本に対して表面的にはどんな甘い言葉を使おうが、日米関係のこ

の基本的な構造からは外れることはない、とこの筆者は結論付けいてる。そして、「オバマ

は計算高い民主党ポリティシャン(政治屋であり、2012年の大統領再選に不利になる

ような言動はしないだろう」と言っている。彼は信念タイプの政治家ではなく、政治を一種の

ゲームに勝つように立ち回る「ゲームズマン・タイプ」の政治家とみなしている。そのためオ

バマは、自分の政治キャリアに不利になるような言動を徹底的に避ける。そのため、

「変革」は掛け声だけであろうと予測している。そしてこの対日戦略の枠組みからは決して

外れることはないし、
中国と真正面から対抗してまで、日本や台湾を守ろうとはしないであ

ろう
、と予測している。

 


たった1回の戦争に負けただけで、「自分の国は自分で守る」と言う当たり前の義務を果た

すことをやめてしまった日本は、今後、「偉大な中華帝国」の属領となるだろう。そして、

日本が中国勢力に併合されても、世界中、どこの国も日本に同情しないだろう。

 


日本と言う国は、北朝鮮核武装し、日本の女性や子供を拉致しても、自国の国民を自分

で守ろうとすらしない国である。そんな卑怯な国に同情する国など、世界中に存在するわけ

が無い。このように結論付けている。しかし、そこから脱却する為の方策も述べている。

 


それは先に述べたように、

 


・自主的な核抑止力を含む自主防衛能力を構築すること。

 


・同盟関係を多角化すること。

 


これらのことは先に述べた提案と同じであるが、次の三つ目はまともなものであり是非とも

実現させたいものである。

 


・兵器の確保や軍事技術の開発について、アメリカだけに依存せずに、ヨーロッパ、

インド、ロシア、イスラエルとも、共同して進める必要がある、と提案している。

 


「米中両国に弄(もてあそ)ばれる」日本外交から脱却する為には、多極化したバランス・オブ

・パワー外交が必要なのである。日本の同盟関係と軍事・外交・技術の協力関係を多角化

し、多極的なバランス・オブ・パワー外交を推し進めることが、日本の生き延びる道である。

さし当たっては、F-22なんぞの採用にこだわらず、ブラックボックスを設けないとしてい

る「ユーロファイター」を採用することである。

 

(続く)