尖閣諸島問題その3(15)

では以上のことを踏まえて、遠藤誉氏の論考を熟読願う。

 

ニュースを斬る
中国の「沖縄領有権論議」は本気なのか?
主張と狙いを人民日報から読む

2013年5月22日(水)  遠藤 誉

 米韓が首脳会談を開いていた5月8日、北京では、もう一つのややこしいことが起きてい

た。中国共産党の機関紙である「人民日報」が、「馬関条約(下関条約)と釣魚島(尖閣

島)を論じる
」というタイトルの論文を載せたのである。中国政府のシンクタンクである中国

社会科学院の学院学部委員・張海鵬と同科学院の中国辺彊史地研究センター研究員・李

国強の共著だ。

 その原文の日本語版もある(こちら)。ご覧いただければわかるように、非常に多くのまち

がいを含んだ身勝手な領有権主張が数多く書いてある。日本の主要メディアはこれを、「人

民日報『琉球帰属論議を』」「『琉球問題は未解決』共産党機関紙が異例の論文」といった

憤慨をもって報じた。

 元記事を読んでみると、領有権主張の対象はあくまでも「釣魚島」であって、「沖縄県」に

対してではない。沖縄県に対しては、「歴史上懸案のまま未解決だった琉球問題も再議で

きる時が到来した」と結語しているだけだ。
(こちら)http://j.people.com.cn/94474/8237288.html
 

なぜいきなり「沖縄の領有権」など持ち出したのか

 もちろん、沖縄県の領有権が日本にあることに関しては疑う余地もない事実なので、これ

とて許されない事態である。問題は、今まで「沖縄県は日本の県の一つ」と定義し、沖縄に

対する領有権など主張したことのない中国政府が、なぜこの時期になって、このような論文

を載せたのか、だ。

 中国政府は「あれは学者個人の論文であって、政府の見解は変わっていない」と説明し

ているが
「人民日報」は中国共産党の機関紙だ党の意向なしに掲載はあり得ない。

 その後も、続けざまに奇々怪々な現象が起きた。

 以下に羅列する。

1
. 5月10日中国政府の新華通信社のウェブサイト「新華網」(網はこの場合ウェブサイト

の意味)が「
カイロ密談」に関して再度報じた。
(カイロ密談)http://news.xinhuanet.com/mil/2013-05/10/c_124691915.htm ただし中国語です。

2. 5月11日、「人民日報」系列の「環球時報」のウェブサイト「環球網」が「激論琉球問題

は、政府の立場を変えるための準備か?」という社説を掲載。

(激論琉球問題)  http://opinion.huanqiu.com/editorial/2013-05/3924225.html ただし中国語です。

3. 5月15日、日本の沖縄県で(!)、「沖縄民族独立総合研究学会」が「日本人により」創設

される(報道記事はこちらなど)。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201305/2013051501037

4. 5月16日、中国の「環球網」が「沖縄民族独立総合研究学会を支持する」という記事を

掲載。

 この一連の事象から、何が読み取れるだろうか。
 

 

◆カイロ密談再掲が意味するもの(5月10日)

 5月10日に「新華網」が「カイロ密談」を再掲した。

 「カイロ密談」に関しては日経ビジネスオンライン(NBO)で連載させて頂いた『中国国盗り

物語』で、今年2月14日に「中国共産党も知っていた、蒋介石が『尖閣領有を断った』事

」というタイトルでご紹介した。
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130208/243504/?rt=nocnt)

 その記事で書いたように、2008年1月16日中国共産党の「中国共産党新聞網」および

新華網」が「蒋介石后悔拒収琉球群島」(蒋介石琉球群島を領有するのを拒んだこと

を後悔した
)を発表していた。

 5月10日記事の情報源は2008年1月16日のとき同様、「中国共産党新聞」と書いてある。

そしてその「中国共産党新聞網」には「転載してはならない」と朱書してある。

 ところが中国のネット空間には、5月10日の日付で一気に同じ「カイロ密談」の記事が湧

きあがってきた。ということは「中国共産党新聞」が「転載許可」を与えたことになろうか。

つまり中国共産党「意図的な何か」があったということを意味する。
 


カイロ密談を逆宣伝に利用し始めた?

 「カイロ密談」は2月14日のNBO記事に書いたように「中国の尖閣領有権を否定する」内

容だ。

 と同時にルーズベルトが「琉球群島は多くの島嶼によって出来上がっている弧形の群島

である。日本はかつて不当な手段でこの群島を争奪した。したがって(日本から)剥奪す

べきだ。私は、琉球は地理的に貴国に大変近いこと、歴史上貴国と緊密な関係があった

ことを考慮し、もし貴国が琉球を欲しいと思うなら、貴国の管理に委ねようと思っている
」と、

蒋介石
に言ったということにも注目しなければならない。

 2月14日のNBO記事では「蒋介石ルーズベルトのオファーを二度も断った」ことに焦点

を当てて中国の領有権主張の論理矛盾を突いた。しかし日本の外交、メディアはこの点に

注目しようとはしない。果たして中国はいい気になって、「カイロ密談」の内の「日本はかつ

て不当な手段でこの群島を争奪した。したがって(中国は日本から琉球を)剥奪すべきだ


というルーズベルト発言の方に力点を置いて「カイロ密談」を逆利用し始めた

 2月14日にNBOで記事を公開させていただいた時に読者から「遠藤は甘い。中国はルー

ズベルト発言に力点を置いて主張してくるだろう」という趣旨のコメントを頂戴した。その通

りだ。この方のおっしゃっていることは正しい。

 実は筆者は『チャイナ・ギャップ 噛み合わない日中の歯車』でこのコメントと同じ懸念を詳

述している。2月14日NBO記事で、そこまで踏み込まなかったのは、そうでなくとも字数が

多すぎていたので、議論の拡散を避けるためだった。
(チャイナ・ギャップ)↓
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4023311650/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4023311650&linkCode=as2&tag=n094f-22


 「カイロ密談」は尖閣領有権が日本にあることの証左であることに関して日本は目を向け、

中国に「論理的」反撃に出なければならない。筆者のその立場は今も、そして将来も変わら

ない。
 


琉球独立を示唆する「環球網」記事が意味するもの(5月11日)

 5月11日、非常に不気味な記事が「環球網」に現れた。

 「人民日報」系の「環球時報」は「琉球問題の議論激化は、政府の立場を変えるための準

備か?」という社説(こちら)を掲載したのだ。


(こちら)
http://opinion.huanqiu.com/editorial/2013-05/3924225.html ただし中国語です。


 これは「学者個人」の論文ではなく「社説」だ。そこには人民日報の意図、すなわち中国共

産党の意図
が込められている。

 社説には「中国政府はこれまで、釣魚島とは異なり、琉球を取り戻そうとはしていない。

しかし今後はその立場を変えないという保証はない」という趣旨のことが書いてある。中国

政府はおおむね次のような三段階で「琉球再議」を進めていく可能性があるという。

 第一歩:民間が琉球問題の研究と討論をすることを許す。琉球国の組織回復を支持す

る。世界に対して日本がいかに不法に琉球を占拠したかを示していく。中国政府はこの活

動には参加しないし反対もしない。(琉球国:昔の独立した琉球王国の意)

 第二歩:日本の中国に対する態度を見て、中国政府の立場を正式に変えるか否かを決

め、中国政府の名義で琉球問題を国際社会に提示していく。

 第三歩:もし日本が中国の復興を破壊する急先鋒になるならば、中国は将来的には実際

の力を行使し、沖縄地区で「琉球国回復」の力を養成する。中国が、あと20~30年後に十

分に強大な力
をつけさえすれば、これは幻想ではない。もし日本がアメリカと結託して中国

の未来を脅かそうとするのなら、中国は琉球を日本から離脱させて、琉球が日本の脅威と

なるようにさせることができる。

 こういう三段階の計画で動こうとしているというのだ。

(続く)