尖閣諸島問題その3(16)

「ありえない」意見を強大な軍事力が支える

 日本からすれば「ありえない」の一言だが、ある中国政府高官は「中国の軍事力はあと30

年ほどしないとアメリカに追いつかない」とかつて筆者に語ったことがある。「あと20~30

年後」というのは、アメリカに並ぶ軍事力を中国が持つ時期であり、その軍事力を前提とす

れば、「長期的計画」を「本気で」考えている可能性はある。


◆日本で「琉球民族独立総合研究学会」発足(5月15日)


 これに関しては、日本のメディアでも報道されたので、ここで筆者が多くを語る必要はない

だろう。以下は5月16日付の「沖縄タイムス」(社会)からの引用だ(元記事はこちら)。

こちらhttp://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-05-16_49297

 

 琉球の独立を目指し研究や議論を深める「琉球民族独立総合研究学会」が15日発足

した。日本から独立して軍事基地を撤去し、「平和と希望の島」を自らの手でつくり上げてい

くことが目的。設立委員会の友知政樹沖縄国際大准教授は同日、県庁で会見し「琉球民族

が独自の民族として平和・自由・平等に生きる世を一日も早く実現させる」と趣意書を発

表、多くの参加を呼び掛けた。夜には記念シンポジウムを開いた。

 研究内容は、独立の実現に向けたプロセスや独立後の経済政策、政治・行政・国際関係

のあり方、琉球諸言語の復興など。沖国大の桃原一彦准教授は「独立しても古い国民国

家の焼き直しになることを避けなければならない」と述べ、新たな国や社会のあり方を模索

する重要性も強調した。

 会員は「琉球の島々にルーツを持つ琉球民族」に限定。友知准教授は「琉球民族自身が

解放されるために難儀をすることが大事。排外主義ではない」と説明。龍谷大学の松島泰

勝教授は「琉球を抑圧している日本側も、自分の問題として自覚するきっかけになる」と意

義を話した。沖国大で開いたシンポには約250人が詰め掛け、西表をほりおこす会代表の

石垣金星さんが「いま沖縄全体が危険な方向に向かっている。このまま子どもや孫たちに

引き渡すわけにはいかない」と学会設立への思いなどを語った。

 学会は今後、独立を目指したり、独立した国や地域と交流、連携するなどの活動を展開

する方針。10月に第1回の学会大会と総会を開き、共同代表も決める予定。

 問い合わせは同学会設立委員会、電話050(3383)2609。

 

 これは5月11日の「環球網」の内容と多くの共通点を持っている。

 沖縄国際大学を中心とした学者が中国に連動しているのではなく、中国側が、学者たち

のこの動きを俊敏にキャッチして動いているということの現れだろう
(注1)。学会設立委員会

は4月1日からメディアに発信し始めている。


(注1)
ブログの筆者としては、この考えはいささか甘いのではないかと感じている。先に示した中国共産党「日本開放第二期工作要綱」によれば、沢山の工作員が沖縄にも潜入して、沖縄県民を扇動しているはずだ。そうでなければこんな時期にこのような活動が連動して起こる筈が無い。この動きも中国共産党によって引き起こされてると見るほうが正しいのであろう。(2009.4.8~4.17の尖閣諸島問題NO.12~NO.21を参照願う。)

 実は今年4月に入ると、中国中央テレビ局CCTVでは、ほぼ毎日のように沖縄県民の

抗議の姿を映し出していた。抗議の相手はアメリカ、あるいはアメリカに追随して沖縄県

を犠牲にする日本政府。

 中国はこのときから、着々と5月8日人民日報沖縄領有権論議」論文掲載の準備を始

めていたということになろう。



◆中国は「沖縄民族独立総合研究学会を支持する」(5月16日、「環球網」)


 5月16日付の「環球網」は、「沖縄民族独立総合研究学会を中国人民は支持すべきだ

という「社説」を出した。

 またもや「社説」であることに注目しよう。政府見解だ。



サンフランシスコ平和条約は無効」が中国の立場


 サンフランシスコ平和条約により日本の独立を認めたときに(1952年4月28日)、沖縄は

米軍の施政権下に置かれた。同条約の第3条には、「アメリカ合衆国信託統治領とする

同国の提案に同意する」という趣旨のことが書いてある。

 これに対して既に誕生していた中華人民共和国は、当時、激しい抗議を示したが、この時

点での抗議の相手は「アメリカ」である。「日本人民とともに戦う」、特に「沖縄人民とともに

戦う」というスローガンを中国は全土を挙げて叫んだ。

 1972年5月15日沖縄県がようやく日本に復帰したとき、中国は日本を非難しなかった

当時の中国はソ連と対立していたから、一刻も早くアメリカや日本と国交を正常化したかっ

たからだ。

 しかし「琉球の領有権」に関して論じ始めたら、その矛先は常に「アメリカ」に向かっている

と解釈しなければならない。中国は今でもサンフランシスコ平和条約を肯定してない。第二

次世界大戦に参戦していた国の人民を含んだ「中華人民共和国」が除け者にされていた

から、というのが中国の理由だ。その問題はアメリカおよび日本と個別に国交正常化をし、

平和友好条約を結んだ時に解決したはずだが、しかし1991年ソ連が崩壊した時に「
ご破

算に
」したようだ。92年には中国は領海法を制定して「釣魚島」を中国領土の中に入れた

(この経緯の詳細は拙著『チャイナ・ギャップ 噛み合わない日中の歯車』のp.205で詳述し

た)。それ以来、サンフランシスコ平和条約無効という姿勢に戻っている。

 だから米韓首脳会談という「5月8日」に「琉球領有権に関して再検討の余地あり」という

中国社会科学院の学者が書いた論文を載せ、すぐさま、「カイロ密談」を出して、かつての

アメリカ大統領が言った言葉をアメリカに思い起こさせる。

 米韓首脳会談に合わせて北朝鮮の金融制裁を宣言して北朝鮮に一定の楔(くさび)を

打ったが、アメリカと歩調を合わせたと喜ばせたくはない。国際社会に対するメッセージと

北朝鮮に対する(第一段階の緩い)脅威を与えただけだ。

 アメリカに対しては、「だからと言って私は何もアメリカ寄りになったというわけではありま

せんよ」という意味で、同時に「琉球領有権問題」を掲載する。

 そして「アメリカさんよ、あなたはかつて、日本は不当な手段でこの群島を争奪した。

したがって(日本から)剥奪すべきだ」と言いましたよね、と「カイロ密談」を再掲載。

 つかず離れずのバランスを、米中韓日および北朝鮮との間で微妙にとりながら、
さまざま

なシグナル
を中国は発しているのである。

 5月11日の「環球網」をもう一度詳細に見てみよう。

 そこには「中国は必ず“もう一つのアメリカ”という力をもって、日本が政治海賊のような騒

動と対抗をしてくることを放棄させる」と書いてあるのである。

 中国は20~30年後には「アメリカ」に代わる国になろうと思っていることを示唆している。

その際に、沖縄の領有権という、日本人には「あり得ない問題」が材料となる可能性を、

決して低く見積もるべきではないと、筆者は考えている。

(続く)