尖閣諸島問題その3(24)

中国のネットにあふれた悲鳴

 実はこの日の「人民日報」は中国でも閲覧できる。5億4000万人を超える網民(ネット市

民、ネットユーザー)の中の一人が、これを見つけた。2010年4月6日のことだった。

「ウソだろう――っ?!」

「ああ、絶句!」

売国奴は誰だ?」

「ぼくたちはいつもこうして騙されてるんだよ」

「おい、GCDよ、回答しろよ!」(GCDとはGong-Chan-Dang、「共産党」の中国語発音を表

したネット上の隠語である。削除から免れるために考え出された隠語の一つ)

 といった類の書き込みが中国のネットに出始めた。そのサイト(中国歴史-「鉄血社区」)に

は「1953年1月8日」の「人民日報」の記事と、1958年11月にから出版されたと投稿者が注

記している『世界地図集』の中の「琉球群島」などが載っていた(リンクはこちら)。


→ http://bbs.tiexue.net/post_4178186_1.html

 衝撃を隠せない書き込みが一瞬ネットに溢れたが、そのほとんどは削除された。中に

はURLはそのままに内容が全く別の物に書き換えられ、地図の文字が繁体字だったり、横

書きなのに右から書いてあったり、図形まで赤線で書き換えられているものもある。

 私は辛うじて二つのページをダウンロードしていたので、今、なんとか正確なことが書ける

のだ。

 この「人民日報」に関して次に書き込みが現れたのは2010年9月15日

 そして2012年8月17日になると再び本格的にこの「人民日報」報道が問題になり、中国網

民の書き込みが日本語に訳されて日本語のネット上に載ったので、多くの日本人の知ると

ころとなった。したがってご存知の方もおられるかもしれない。

 では続いて、中国建国後、二度目の「琉球群島」に関する「人民日報」の記事を見てみよう。



【典拠2】1958年3月26日付け「人民日報」


 1958年3月26日付の「人民日報」には「無恥なる捏造」という見出しの「社説」が載って

いる。書いたのは「本報評論員」とあるので、「人民日報」の評論員だ。日本語流に言えば

論説委員」。現場で最も高い職位の者が書いた社説である。

 そこに書いてある内容の趣旨は「中国が琉球群島に対する領土主権を絶対に放棄しない

という情報は、アメリカ人が捏造したデマである」というものだ。

Ph02_s

(『チャイナ・ギャップ』p.140)

   「無恥なる捏造」とは次のことを指している。58年3月26日「人民日報」の記事の一部を

転載する(日本語訳:筆者)。


占領者アメリカは、沖縄民主勢力の選挙活動を破壊し選挙民の反米感情を和らげるため

に、いろいろな陰謀を企て多くの手段を用いてきたが、その中でも最も卑怯で恥知らずな

のは、選挙前日北京ラジオ局の名義で虚偽のラジオ放送を行ったことである。この他人の

名前を騙(かた)ったデマ宣伝によれば、中国外交部のスポークスマンが「中国は絶対に琉

球の主権を放棄しない
」と言っているというのだ。これは明らかに悪辣な挑発で、目的は沖

縄人民が沖縄を日本に帰せという強烈な情熱に打撃を与えようというものである。

(※新聞記事を忠実に訳しているので、少々わかりにくいかもしれない。もう少し自由に筆

者の文章で説明を加えると、この記事の背景はこういうことだ。

 沖縄県民は沖縄を爆撃し占領している米国への反発が強かった。そこで「沖縄を日本に

復帰させよ」という県民の要望と、米軍基地を拡大させる米国に対する反米感情をくじくた

めに「米国に逆らっていると中国に占領されてしまうぞ」というデマを米国が流している、とい

うものである。「中国が絶対に琉球を放棄しない」ということが真実であるのを証明するため

に北京ラジオ局の名を使って偽の放送をした。そのことに対する中国側からの抗議が、こ

の記事だ)

 この記事の信憑性を証明するために、中国のネット言論(2010~12年)はさらに1951年

における「琉球群島と小笠原群島を含めたこれらの島嶼(とうしょ)に関して、過去におけ

るいかなる国際協定の中においても、日本に所属しないと規定したことは一度もない
」、

つまり「これらの島嶼は完全に日本のものだ」という趣旨の周恩来の声明をも引き出してし

まった。


周恩来が米国を意識した発言の中で…


 これはどういうことかというと、1958年3月26日人民日報」の社説「無恥なる捏造」

中に、以下のような記述があるのである。

 我が国の周恩来首相は、1951年8月15日に米英対日講和草案およびサンフランシスコ

会議の声明に関して″(という発言)において、「アメリカが琉球群島や小笠原群島に対して?

委託管理権″を持っているという言い方に反駁するときに、われわれは?これらの島嶼(とう

しょ)は過去のいかなる時においても、またいかなる国際協定においても、日本から脱離す

ると規定されたことはない
″と言ってきた。

 中国赤十字会代表団の副団長・廖承志昨年(1957年)訪日したときも函館市民による

歓迎大会の挨拶の中で、やはり同じように中国人民は日本人民が沖縄を日本に返還させ

る闘争を支持すると表明した。我が国の新聞は過去において関連の評論を発表してきた

が、どんな時でも常に沖縄人民が生存と民主を争奪するために沖縄を日本に返還すべき

である
という要求を出して闘っていることに対して、(我が国は)同情と支持を表明してきた。

中国政府と中国人民のこういう公明(中国語は光明)正大な態度は、他国の領土を侵略す

アメリカ帝国主義が陰でコソコソとデマをまき散らすようなやりくちによって、その(光明盛

大な)光が覆われることは絶対にない。(中略)

 沖縄の立法院の選挙結果は、明らかに沖縄が(アメリカの)核武器基地になることに反対

しており、沖縄を日本に返還せよという沖縄愛国民主の力が、さらなる進歩を遂げたことを

示している。沖縄人民が一致団結して闘争を進めていけば、彼らは必ず彼らの目的を達成

できると、われわれは信じている。

 2012年8月17日の中国語版ツイッター「微博」(マイクロ・ブログ)には、次のような皮肉が

書き込まれた。

思うに、あの保釣連盟の人たちは、五星紅旗や青天白日旗を(尖閣諸島に立てるのでは

なく)、人民日報の総本部に立てに行った方がいいんじゃないか?そうしてこそ正しい行動

だと私は思うんだよ。

 この書き込みは多くの網民の拍手喝さいを浴び、もちろんすぐに削除された。

 書き込みにある「保釣連盟」とは「釣魚島を守ろう」という中華民族の人たちが民間レベル

で結成している聯盟のことである。ここで「中華民族」と書いたのは、実はこの連盟に参加し

て活動している者たちは中国政府に対して「反政府的思想を持った者」が多く、大陸よりも

香港や台湾の人たちが多いからだ。「青天白日旗」は「中華民国」の国旗である。

 ネットにはさらに「人民日報」を

自分が過去に何を言ったかを一切覚えていない新聞?

自分の「喉と舌」が何を言ったかを一切覚えていない大脳。

といった書き込みもある。「喉と舌」というのは「人民日報」に対する蔑称で、人民はこの新

聞を「党と政府の喉と舌」と呼んでいる。「記事の内容で正しいのは日付だけだ」という言い

方もある。

(続く)