尖閣諸島問題その3(59)

中国の「5頭の龍」とは

 しかし、軍事力で列島線を奪い合った帝国主義の時代はもはや過去である。現在、列島

線はアメリカの同盟国・友好国の施政下にあり、中国がこれを軍事力で強引に奪うことは

容易ではない。そこで、中国はこれら列島線が生み出す沿岸海域、つまり東シナ海や南シ

ナ海の支配に重点を置いている。これらの海域は沿岸国の排他的経済水域EEZである

ため、今日のアジアの地政学は“EEZをめぐる戦い”に変容しているのである。
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北小島南小島  

 各国は国連海洋法条約に基づいて基点から200海里までEEZを主張することができる

ため、東シナ海南シナ海点在する島EEZの基点として極めて重要である。だからこ

そ中国は東シナ海尖閣諸島南シナ海の西沙・南沙諸島の領有権を強硬に主張してい

ると考えられる。EEZを拡大して漁業・エネルギー資源の確保を目指すとともに、EEZを領

海の延長
と位置づけて他国の軍事活動を制限することが中国の海洋戦略の本質である。

 ただし、中国政府が一丸となってこの戦略を実践しているわけではない。海軍の他に、海

洋監視船を運用する国家海洋局や漁業監視船を運用する農業部漁業局など、「5頭の龍

と呼ばれる5つの海洋関係機関がある。諸機関の間で政策の調整が行われることはまれ

で、むしろ影響力の拡大をめぐって相互に競合関係にあると考えられている。海洋関連機

関を統合
する動きもみられるが、それぞれの利害を調整するのは容易ではないだろう。


「基」から「動」へ


 では、このような中国の海洋戦略に対し、どのように南西諸島を守るべきであろうか

 まず、南西諸島防衛を尖閣の防衛に矮小化するべきではない。漁業監視船海洋監視船

尖閣周辺での活動を活発化させているが、海軍はむしろ宮古海峡からの太平洋への進

出を常態化させつつある。いずれは大隅海峡バシー海峡からも太平洋に出るようになる

であろう。中国機に対して航空自衛隊スクランブル発進する数も急増しており、最近は戦

闘機が接近することも多くなっている。南西諸島1000キロ以上の長さがあり、数百の島

から成り立っている。尖閣の防衛は、南西諸島防衛という大きな枠組みの中で考えなくて

はならない。


新たなアクセス拠点の確保を急げ


 「防衛大綱」は自衛隊を全国に均等に配備する従来の「基盤的防衛力」ではなく、各部隊

が高い機動力や警戒監視能力を備えて迅速に展開する「動的防衛力」という概念を導入

した。現在、南西諸島防衛の強化のため、日本最西端の与那国島への沿岸監視部隊の

配備、潜水艦部隊の増強、那覇基地の戦闘機部隊の増強、宮古島の固定式3次元レーダ

ーの更新等により、周辺海空域における警戒監視や即応能力の向上が計画されている。

しかし、これらは基本的に「基盤的防衛力」の延長に過ぎない。

 「動的防衛力」の観点から、南西諸島防衛は陸海空による統合任務として実践されなくて

はならない。東日本大震災の救援活動は自衛隊の統合作戦の貴重な先例となったが、同

時に自衛隊揚陸輸送能力が不十分であることも証明した。南西諸島が広大な海洋戦域

であることを鑑みれば、海上自衛隊将官の下に陸海空からなる統合任務部隊を創設し

て揚陸輸送能力を強化し、統合訓練・演習を常態化するべきである。その上で、日米共同

対処能力
を高める必要がある。

 また、南西諸島の地勢を考えると、既存の施設以外にも自衛隊が平時・有事に使用でき

る空港・港湾施設を整備しておく必要がある。先島諸島では下地空港新石垣空港、拡

張中の石垣港などが防衛や災害救援の際に重要な拠点となり得る。薩南諸島では、馬毛島

奄美大島徳之島等が候補となろう。地元では誘致による経済効果を期待する声もあ

るが、活動家に扇動された反対運動も予想されるため、慎重な検討が必要である。しかし、

新たなアクセス拠点の確保
なしに南西諸島防衛は成り立たない。


尖閣ブランドの確立と実効支配の強化を


 尖閣に関しては、近海での漁業を中心とする経済活動を活性化させるとともに、不法操

業や不法上陸を取り締まる法執行の強化を通じた実効支配の確立が求められている。

 尖閣諸島石垣市の一部であるが、燃料費や高い波、そして中国船とのトラブルを懸念

して、石垣島から漁に出ることはまれとなっている。石垣島八重山漁協は、尖閣近海で

獲れるカツオやマグロに「尖閣ブランドをつけることを計画しているが、すでに「尖閣」が個

人によって商標登録されているため異議申し立ての準備をしている。尖閣周辺での経済活

動を強化するためにも、八重山漁協が「尖閣」ブランドを管理することが望ましい。加えて、

尖閣漁船の避難港ヘリポートを設置し、漁船の安全を向上させる必要もある。

 最後に、海上保安庁も南西諸島防衛の重要な要素と考えるべきである。尖閣沖漁船衝

突事件以降、石垣島第11管区海上保安本部にはヘリコプター搭載型の巡視船が1隻追

加配備され、離島への不法侵入があった場合は海上保安官逮捕権を与えることも検討

されている。しかし、中国公船の尖閣近海での活発な活動や大量の漁船が違法操業を行

う可能性を考慮すれば、巡視船のさらなる増強は不可欠である。とりわけ、世界最大の巡

視船である「しきしま」型を配備すれば、実効支配を強化する上で効果的であろう。

*文中写真はすべて筆者による提供です。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1761

 

 

この記事は、一年前の2012.3.21のものであるので、今年の動きは当然含まれてはいな

い。例の五龍は、下記の1~4の部署が今年の7月22日に統合されて、国家海洋局の傘下

におかれて「中国海警局」となっている。


中国の五龍と言われる海洋監視関連機関は、次の五つの機関である。

1. 海警公安部辺防管理局公安辺防海警総隊-海上警察(沿岸警備隊・コーストガード)

2. 漁政農業部漁業局BOF 漁政総隊- 漁業取締り船・巡視船

3. 海監国土資源部国家海洋局SOA海監総隊-海洋権益の保護、海洋調査

4. 海関国務院海関総署緝私(かくし・トラエル・アツメル)局密輸取締警察 -税関業務、密輸取締り

5. 海巡交通運輸部海事局MSA -外国船舶監督、海上交通、海難事故捜査海関 


海警・漁政・海監・海関の4部署は国家資源部MOLR配下の国家海洋局の下に「海警局」と

して統合されたのである。海洋局○△海警総隊と呼ぶよりも、これを総称して海警局と呼ば

せているようだ。そして海上交通を司る海巡はそのままである様だ。今まで何かと連携が

取れていなかった五龍であったが、現在既に主要な四つの龍が合体して「海警」として、尖

閣海域にはびこっている。


もともとこの四龍?は、人民解放軍海軍と同様な分担、即ち・北海・東海・南海と3部隊と

なっており、今度の新中国海警局も同様な3総隊となっており、中国海軍との連携も密に

なっている。もともと海監などは、準海軍として位置づけられていたので、目新しいことでは

ないが、統合された海警は海軍との関係がより密接となり、第2海軍とよばれる様である。

日本の海上保安庁は、もともと海上自衛隊との連携には定評があったのであるが、更なる

連携と強化が望まれるものとである。


ちなみに中国海軍の簡単な組織とそれに対する海警局の組織を
Wikipediaを元に下記する。

1.北海艦隊- 黄海渤海湾 青島チンタオ基地 -(海警局北海総隊

2.東海艦隊- 東シナ海 寧波基地-   (海警局東海総隊

3.南海艦隊- 南支那海 甚江基地(甚はサンズイ付き)-(海警局南海総隊

4.海軍航空隊------      (各総隊の下に北海、東海、南海航空支隊

5.海軍陸戦隊- 海兵隊- (南海総隊に西南中沙支隊があるが、これは海兵隊機能を有するのか)

(続く)