日清戦争開始120年に考える。(12)

反撃に打って出た石油閥
掘削事件の「黒幕」か


 しかしまさに今年の3月後半当たりから、習近平氏の石油閥叩き作戦が暗礁に乗り上げ

る様子となった。まずは周永康氏自身が、当局の調査に対し横領などの容疑を全面否定、

協力を一切拒んでいることが4月になって複数の党関係筋によって明らかにされた。どうや

ら周氏は徹底抗戦の構えのようだ。彼がそれほど強気になっているのには当然それなりの

理由がある。

 周氏に対する摘発が進んでいく中で、彼と同様に引退の身となった一部の長老たちはこ

のままでは自分たちの身も安全ではなくなると危惧し始めたことから、江沢民派・石油閥は

反撃に打って出た
。政治局常務委員会の中では石油閥の代弁者である筆頭副総理の

高麗
江沢民派重鎮の張徳江全人代委員長らが「摘発の行き過ぎが党の威信を傷つ

ける恐れがある
」との理由から、習近平王岐山サイドの進める腐敗摘発=石油閥叩きにブ

レーキ
をかけ始めた模様である。

 そうすると、それまで順調に進んできた周永康摘発の動きが徐々に鈍くなってきた。前述

のように、今年3月の時点で中国の一部メディアは既に「周永康に問題あり」とのような報道

をしていたが、中国国内の一般常識からすれば、この問題に関するメディア報道の「解禁」

は普通、摘発に関する政治的決着がすでにつけられていて正式発表が間近であることを

意味している。

 しかしこの常識に反して、それ以来現在に至るまで、周永康摘発の正式発表は一切な

、摘発の進展を窺わせるような動きも一切なかった。「周永康問題」はとっくに全国民の知

れるところとなっているのに、問題の決着がここまで先延ばされているとはまさに異常事態

である。しかも、去年9月に「調査開始」と発表された蒋潔敏氏に関しても、現在に至って何

の調査結果も発表されることなく、処分も決まっていない。それもやはり異様である。

 こう見ていると、現在、江沢民派・石油閥は、習近平氏の叩き潰し作戦に対して必死の抵抗

を試みている最中であることがよく分かるが、このようなタイミングで中越間の衝突を起こ

した掘削の意味を考えてみると、一件無関係に見えるこの二つの動きの間に関連性があ

るのではないかと思いたくなるのである。

 そう、問題の海域で掘削を断行したのはまさに石油閥傘下の中国海洋石油総公司であ

り、その総公司の上位機関である国務院国有資産監督管理委員会の元主任はまさに石

油閥主要幹部の蒋潔敏氏である。今はまさに、彼らが習近平氏の腐敗摘発によって追い

込まれている立場であり、自分たちの権益と命を守るために最後の戦いを強いられている

最中なのだ。

 その際、習近平氏に対する最も有力な反撃の一つとして、外交トラブルをわざと引き起こす

ことも選択肢の一つとして考えられる。何らかの外交的危機が発生した場合、中央国家安

全委員会主席の習氏は責任を持ってそれを処理しなければならない。外交上のトラブルは

すなわち習氏自身のトラブルなのである。



ただただ沈黙を守る習近平


 そうすると、浮上してくる可能性の一つは、石油閥の面々がASEAN首脳会議の直前とい

うタイミングをわざと選んで、しかもベトナム側の猛反発を見込んだ上で係争の海域での

削を断行
した、ということである。

 そうすることによって習近平氏を外交的窮地に追い込んでその政治的権威を傷つけるこ

とができるだけでなく、いわば対外的危機を作り出すことによって「国内の一致団結」という

大義名分において「腐敗摘発」の動きを食い止めることもできるからである。

 実際、石油閥のこの作戦はすでに一定の効果を上げていると見ることもできる。掘削の断

行がベトナムとの衝突を引き起こし、地域における中国の外交的孤立化が進んでいること

は前述の通りであるが、中国国内の動きとしてもう一つ不思議に思えるのが、この一連の

事件発生以来の習国家主席の態度である。

 ほとんど信じられないようことであるが、中国国民がベトナムの反中暴動において殺され

たという由々しき事態が発生したにもかかわらず、国家主席で国家安全委員会の主席でも

ある習氏はこの問題について、いっさい発言していないのである。少なくともこの原稿を書

いている日本時間5月19日午前10時現在まで、習氏はただただ沈黙を守っているだけで

ある。

 5月15日、ベトナムの暴動で中国人が殺されたその翌日、習近平氏は国家主席として「中

国国際友好大会」というイベントに出席してまさに外交問題について「重要講話」を行った

が、その中で彼はベトナムとの衝突やベトナムでの反中暴動については一言も触れなか

った。自国民が暴動で殺された直後に、何事もなかったかのように行われたこのような「重

要講話」は、実に情けないものである。

 要するに習近平氏は進退両難の窮地に立たされているのであろう。ことを起こしたのは

石油閥の陰謀であることを承知しているから、ベトナムに対して強く出れば中国にとっての

外交的トラブルがますます大きくなり国家主席としての自分の対処はますます難しくなる。

それはまさに江沢民派・石油閥の思うつぼである。


しかしあまりにも弱い姿勢を示すと、それが逆に国内から「弱腰」の批判を招くこととなる。

そして「弱腰」への国内批判はそのまま、石油閥にとっての習近平攻撃の材料ともなる。

どの道、嵌められた習近平氏は大変不利な状況になるから、結局彼のとれる唯一の対処

法はすなわちこの問題についていっさい態度を表明せず、外交部門に任せて事態の推移

を見守ることであろう。

 もちろん、何も発言しないこの態度は結局、習近平氏の無能さと決断力のなさを国民に晒

し出す結果となるから、やはり習近平氏の負けである。



突然姿を現した曽慶紅


 窮地に立たされた習近平氏が立ち往生している最中、得意満面で公の場に姿を現した

のは、石油閥の陰のボスの曽慶紅氏である。中国の一部メデイアが写真付きで報じたとこ

ろによると、公職から引退して以来いっさい姿を現したことのない曽慶紅氏は5月14日に

突如、江沢民派の古巣の上海に現れた。表向きの活動の内容はある美術館の参観であ

るが、共産党政治局委員・上海市共産党書記の韓正氏と江沢民氏の子息で上海科学技術

大学校長の江綿恒氏が同伴しているから、どう見ても単なる個人的な参観ではない。見事

な政治的行動である。

 それでは、とっくに引退してめったに姿を現すことのない曽慶紅氏が一体どうして、このよ

うなタイミングで突如姿を現したのか、ということになると、本稿が今まで記述してきたこの

経緯からすれば、彼の意図するところは明らかであろう。決戦に臨む江沢民派・石油閥に

対する
激励
であると同時に、相手の習近平氏に対する容赦のない警告でもあろう。

 そして14日の曽慶紅氏の登場はまた、10日ほど前から始まった件の「掘削断行」の黒幕

はまさに自分たち石油閥であると自供したようなものである。この堂々ぶりは、曽氏がすで

習近平氏に対する抗戦を覚悟していることが分かる。今後、江沢民派・石油閥と習近平

国家主席との権力闘争
はますます激しさを増していくことは予想できるであろう。

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ベトナムもフィリピンも、中国共産党の権力闘争のトバッチリを受けるようでは、堪ったもの

ではない。

しかもそれが領土問題という極めてシリアスなものと絡めているから、尚更である。


ますますアメリカの軍事的なプレゼンスが必要となるのである。さもなけば、中国はますま

す増長して、本当に西太平洋を自分の海としてしまいかねない。中国は世界から非難され

ようが馬鹿にされようが、物理的な押さえがなければ、無限に侵略してくる国なのである。


中国は江沢民派がベトナム沖に石油リグを設置した事を良いことに、この権力闘争が一段

落した暁には、本格的に石油リグを進出させてくるに違いない。今度は中国共産党政府と

して、本格的に侵略してくる筈だ。


日本もこの事件をしっかりと分析して、尖閣諸島の侵略に備えなけばならない。それにし

ても、習近平は本格的に江沢民派を叩き潰すつもりなのであろうか。


結局2014.7.29に、周永康問題は立件される事になった。

(続く)