検閲から透けて見える党の不安
北京で今月、党大会が開催される期間中、世論を統制し、批判を封じ込めようとしている
中国共産党にとり、確かにネットは邪魔な存在だ。今回の指導部交代は、ソーシャルメディ
ア時代の幕開け後初めての経験となる。
中国でツイッターは遮断されているが、国内で開発された同様のサービスは人気が高く、
検閲当局はこれらを懸命に抑え込もうとしているものの、まず不可能な状況だ。
当局の懸念を推し量る手がかりはある。中国のミニブログは、首相の姓(「温かい」という
意味がある)と、単語「資産」と組み合わせて検索するだけで遮断される。「首相」と「一族」
でも同様だ。
中国メディアをモニターしているサイト「中国数字時代」によると、中国の最も富裕な実業家
の1人で、党大会の代議員でもある梁穏根(リャンウェンゲン)氏*2の政治的経歴につい
ての報道もこの1カ月は規制されている。以前は、国内メディアも梁氏が中国で初めて民間
の起業家として党中央委員に任命されるのではないかと報じていた。
*2=中国の建機大手、三一集団(湖南省)の創業者で、董事長
民間の実業家を党に迎え入れることは、慎重ながらも歓迎されるようになってきていた
が、現在は党と富裕層とのつながりを示唆するような発言はすべてタブーとされているよ
うだ。
当局が検閲で覆い隠そうと躍起になっているニュースはほかにもある。10月に上海
の150kmほど南にある港湾都市寧波(ニンポー)で10月に数千人規模の抗議デモが発生
した事件もその1つ。地元の化学工場の拡張計画による環境汚染を不安視する住民の
デモ隊が、警察と衝突した。騒動から数日後の10月28日、市当局は工場拡張計画の一部
撤回を発表した。
政治の行く末を左右するこの時期、党幹部は何としても国内の動揺を抑えたいらしい(ち
なみに、北京市内のタクシーですら、乗客が窓から抗議ビラをまかないようにと、後部座席
の窓を開けられないようにするよう命じられている)。寧波の騒動も普段ならこれほど危惧
されなかったはずだ。
10年前、現指導部への交代に先立って党が最も注意したのは、国有企業が100万人単
位で解雇した工場労働者層による抗議運動だった。だが、党はかなり前から工場労働者
の支持を権力維持の決定的要素とは見ていない。
現在最も重要な支持基盤は、力を増しつつある中間層だ。だが、最近は都市部の中間層
がデモを起こすケースが増えており、寧波のデモも彼らが党を常に支持するわけではない
ことを示す一例にすぎない。7月には中国南西部にある四川省の什邡(シーファ)で、銅の
精錬工場の建設に反対して数万人を超える規模のデモが起こった。同月、上海近くの啓
東(チートン)で工場の排水管敷設に反対する抗議のデモが発生した時も、同規模の数万
人が集まった。いずれの場合も当局が反対派の要求に譲歩した。
こうした国内の緊張と、東シナ海に浮かぶ島を巡って最近、日本との間で高まっている対
外的な緊張が重なって、近く発表される新指導部の人事を巡る最高幹部間の闘争を複雑
なものにしていることは間違いない。
胡錦濤氏が、強大な権力を持つ党中央軍事委員会主席の座にとどまるかどうかも、まだ
不明だ。胡氏が前任者たちと同様、あと2~3年、この地位にとどまる意思があるなら、内外
の安定に関する党の懸念を軍を掌握し続けることを正当化する材料に使うだろう。
「革命は改善期にこそ発生する」
胡氏の前任者、江沢民(ジャンツーミン)氏がいまだ影響力を維持していることも、事態を
複雑にしている。胡氏と江氏の関係はよくなかったと言われている。
86歳になる江氏が最近公の場に姿を見せることが多いのも、自分の影響力がまだ無視で
きないものであることをアピールするためと思われる。
習氏は69歳の胡氏よりも江氏に近いと考えられているが、国家主席就任後も、胡氏と江
氏の両者に気を配らなければならないことは間違いない。
党はメディア統制を試みているが、機関紙に掲載される数々の記事を統制し切れていな
い。このことからも、多くの自由主義的知識人が見るように、社会的緊張が高まっているこ
とは明らかだ。知識人たちは今以上に迅速な政治改革を要求している。その要求はどう
やら、新指導者の習氏に対し、極端に慎重だった胡氏よりも大胆になれと迫るものだ。
このところ中国の書店や知識人ブロガーの間の議論では、19世紀のフランスの歴史家ア
レクシ・ド・トクヴィルの著作が不思議なリバイバルを果たしている。「革命は、条件が最も厳
しい時期ではなく、改善期にこそ発生する傾向がある」というトクヴィルの持論は、国の向
かう方向に苛立つ中国人民の琴線に触れるところがあるようだ。
(©2012 The Economist Newspaper Limited.
Nov. 3-9, 2012. All rights reserved.)
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
英国エコノミスト
1843年創刊の英国ロンドンから発行されている週刊誌。主に国際政治と経済を中心に扱
い、科学、技術、本、芸術を毎号取り上げている。また隔週ごとに、経済のある分野に関し
て詳細な調査分析を載せている。
The Economist
Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。
世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。
記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。
このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121108/239207/
大体共産党一党独裁の中国では、多かれ少なかれ、中央の指導幹部も地方の官僚達も
全員が腐敗にどっぷりと浸かっている。“虎”も“ハエ”も一緒に叩くとなれば、殆どの幹部
は叩かれなければならない状況のようだ。だから習近平も、迂闊に大物幹部を叩きにゆけ
ない状況ではないのかな。まあそんなことにはならないのだが、叩けば叩くほど共産党の
組織は混乱する、と危惧しているのではないのかな。温家宝までが腐敗に塗(まみ)れてい
たとなると、胡錦濤も、場合によっては習近平までもが10年後には、拘束されかねないの
だから。
(続く)