(2)カリフォルニア州、ZEV規制
ホンダは2015年中としていたFCVの発売を2015年度中にと、若干幅を持たせた修正をしたが、では何故トヨタは、FCV発売時期をこの時期に、発表したのであろうか。
トヨタは、「車と地球と、そして子供の未来を輝かしいものにするために、このFCVの名前をMIRAI未来ミライと名づけて、前倒して発売するものである」、というような趣旨を発表していた。そして、自然エネルギーの気まぐれさに対して、水素(エネルギー)はCO2フリーで、しかも無限に存在しており、そして貯蔵も運搬もそれなりに簡単に出来るので、日本のように資源の無い国にとっては、水素社会の実現はとてもメリットのあるものとなる、と言うようなことも言っていた。
正にその通りである。トヨタは、燃料電池車「ミライ」を世界に先駆けて発売することによって、数十年掛けてでも、日本に「水素社会」の実現を希求しているようだ。
水素供給インフラがまだ完備していないから、「数十年掛けて」でも、となるのである。HEVでも普及には、10年以上の年月を必要としたものである。
そのような高邁な目標の達成もさることながら、水素を使う燃料電池車の市販を早々に開始した訳には、もう一つ身近な理由が存在する。
それがカリフォルニア州のZEV規制である。大気汚染の進んだ加州では、1990年9月にカリフォルニア州大気資源局CARBがLEV(Low Emission Vehicle)プログラムを決定した。このZEV規制は、1993年に制定され1998年から実施となっている。
このプログラムでは、車両を次の4区分に分けて夫々の排気ガスを規制しようとしていた。その4区分は次のようなものであった。
(1) 準低排ガス車、TLEV(Transitional 過渡期的なlow-emission vehicle)
(2) 低排ガス車、 LEV(Low-emission vehicle)
(3) 超低排ガス車、ULEV(Ultra-low emission vehicle)
(4) ゼロ排ガス車、 ZEV(Zero emission vehicle)
そして乗用車とライトトラックの総販売台数に対するZEVの販売台数を次のように規定した。
1998年 2%をZEVで販売する。
2001年 5%をZEVで販売する。
2003年 10%をZEVで販売する。
当時としてはZEVとしては電気自動車しか考えられず、この結果GM EV1、トヨタ RAV4EV、日産 アルトラEV、ホンダ EV PlusなどのEV車が発売されたが、結局は走行距離の短さ、バッテリーの充電時間の長さや重量問題などで売れずに、且つ企業としては赤字の垂れ流しなどで事業継続が困難となりこの規制は実現されずに、規制は緩和されたり延期されたりして現在のものとなっていった。この過程はかなり複雑怪奇で小生のような素人には、その説明は荷が重い。
現在は「ZEV規制2018年問題」としてクローズアップされている。
CARBは、2018年モデルからその規制の中身を大きく変えて、相当厳しい内容となっているのである。
先ず2018年モデル(2017年初秋頃から生産される)から販売されるZEVを4.5% 以上としなければならないとしている。そしてそのZEVの範疇からHEV(ハイフバリッド車)を除外して、EV、FCV、そしてPHEVだけとしたのである。しかもEVによる走行距離について条件をつけたのである。だから生半可なEV走行距離では完全なZEVとは認めてもらえなくなったのである。
更に対象メーカーは大量販売の事業者6社(LVM,Large volume manufacturer, Big3、トヨタ、日産、ホンダ)だけから、中規模販売メーカー(IVM,Intermediate )も含めているのである。
これらのメーカーも完全なZEVをカリフォルニア州では販売しなければならなくなったと言う事である。マツダのスカイアクティブだけでは、加州では売れなくなったのであり、更にこの規制は全米他州にも波及して加州以外の11州でも採用されている(されるようになる)ので、加州だけ販売を止めると言うわけにはいかないのだ。
この背景には、テスラーの『モデルS』や日産自動車の『リーフ』などの成功があったのである。だからカリフォルニア州政府もこれらのZEV車の成功をみて、より効果のある大気汚染防止策を推し進めようとしているのである。
ZEV規制2018年問題、Tesla以外の対応は
和田 憲一郎=開発イノベーション コンサルタント、エレクトリフィケーション コンサルティング代表
2013/09/09 00:00
三菱自動車で電気自動車(EV)「i-MiEV」のプロジェクト マネージャーを務めた和田憲一郎氏が、注目の電動車を取り上げて分析し、現在と未来を語る連載「一車両断!」。第3回は、自動車メーカー各社が頭を悩ませる米国カリフォルニア州の環境規制「ZEV(Zero Emission Vehicle=排ガスを出さない車両)規制」の2018年問題を考える。
米国カリフォルニア州大気資源局(CARB)は、同州内で一定以上の台数を販売する自動車メーカーに対して、決められた比率をZEVにすることを義務付けている。ZEVを言葉通りに捉えるとEVや燃料電池車(FCV)だけが対象になるが、現状ではプラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HEV)などを含める。
そのZEV規制が、2018年モデルから一段と厳しくなる。そこで今回は、ZEV規制の意義を踏まえつつ、新しいZEV規制に備えて電動車両をどう開発するべきなのかを考えたい。規制にポジティブに対応していけば、技術開発に新しい方向性が生まれると考える。
ZEVが大きな収益源のTesla社
CARBは、EV、PHEV、HEVなどのZEVの種類に応じた車両ごとに「クレジット」と呼ぶ係数を決め、販売台数に対して達成すべきクレジット基準を定めている。そして大規模メーカー(現在は6社)のうち、ZEV規制で決められた基準に達しないメーカーは、CARBに罰金を支払うか、または他社からクレジットを購入しなければならない。
このクレジットの購入制度によって、EVセダン「Model S」を販売するTesla社は大きな利益を上げている。同社は2013年上半期だけで、ZEVクレジットの売却に伴う利益が約1億4000万ドル(約140億円)に達したことを公表している。なお同社は、同年上半期に本体の車両販売事業で黒字化したことも合わせて報告した。
Model Sの外観
一方、CARBの直近の公表資料によると、2011年10月~2012年9月にかけて最も多くのZEVクレジットを他社から購入したメーカーはホンダだった。次いでGM社である。ちなみに、クレジットが足りない場合にCARBに支払う罰金は1クレジット当たり5000ドルだが、2社間でクレジットを売買するときの取引価格は第3者には分からない。
(続く)