次世代エコカー・本命は?(14)

B君:テスラは、スーパーチャージャーという充電設備を全米112箇所に作っている。しかも、モデルSがここを使う限り、充電の電気代はタダとのこと。しかもすごいのは、30分で170マイル=270km走るだけの充電ができるということ。なぜなら、この充電設備の出力は120kWもあるから。200Vのキャンプカー用のNEMA14-50を使った設備のなんと12倍の出力。もっとも、EPAの電費を使えば、30分の充電で、航続距離190kmということになってしまうけど。

A君:日本には、残念ながらまだ2箇所しかなくて、両方とも東京。今後、どこに作るのかも明らかでない。

B君:スーパーチャージャーも、NEMA14-50という規格のコンセントもない状態だと、車庫に設置できるチャージャーは、200V15Aの3kW。これでモデルSを充電すると、85kWh版のモデルを少々電気を残した状態で帰宅したとして、25時間ぐらい掛かることになる。ということは、モデルSを買ったとして、フルに走れば、翌日は丸一昼夜、充電日になる。これだと、日本でも、やはり2台目以降の車だということになる。

A君:日本で家庭に400Vを導入するにはいくら出費がかかるのやら。そもそも、コンセントの規格がどうなっているのですかね。
 そして、本日の3番目の課題が、環境負荷は本当に低いのか、ですが、これはなかなか難しい問題。米国の電気代は安いことは安いし、原発もまだ生きているのですが、やはり化石燃料が主体の電力ですね。

B君:米国の電力からの二酸化炭素排出源単位は、2005年頃で大体のところ570g-CO2/kWhぐらいだった。しかし、石炭の変わりに天然ガスを使う発電が増えてきて、2012年には、15%ぐらい減少して、485gCO2/kWhになっている。

A君:この数値は、2012年の日本の電力会社の中でもっとも低い値である中部電力の512gCO2/kWhよりも低く、ほぼ平均値である代替値は550gCO2/kWhですから、これよりかなり低いのです。これがシェール革命の効果を示しています。だから、米国は温室効果ガス削減にかなり積極的な姿勢を見せることができるようになった。

B君:ということは、85kWhで、約41kgのCO2を排出することになる。日本の2015年版排出規制値が139gCO2/km

A君:モデルSが41kgのCO2を320kmの走行(米国内)で出したとすると、128gCO2/kmとなって、まずまずなのですよ。ちょっと意外。

B君:ということは、モデルSの環境負荷は、米国の場合だと、同クラスのガソリン車よりはかなり低いということになる。例えば、キャデラックCTSの6.2LモデルEPA燃費が21MPGは、260gCO2/kmぐらいですから、まあ、半分と言える。

A君:話変わって、今回、まだ議論していないのですが、電気自動車のバッテリーの寿命は、大体5年ぐらい。というよりも充電回数で決まるといった方が良いかもしれません。大体500回ぐらい、多くても1000回と言うべきでしょうか。

B君:バッテリーの保証がどうなっているのか。Webサイトによれば、8年間、走行距離は無制限、となっている。リチウムバッテリーは徐々に容量を失うので、実際、何%になれば無償交換が行われるのか、良く分からない。

A君:これもちょっと探してみました。
http://www.teslamotors.com/fr_FR/forum/forums/battery-warranty-model-s
 ここに回答があって、容量が70%以下になったときには、交換するということのようです。

B君:それにしても、8年経過して、バッテリーを交換したらいくらになるのだろう。

A君:それも答えがあります。
http://www.teslamotors.com/it_CH/forum/forums/battery-replacement-cost
あらかじめ払っておけば、85kWhモデルの場合、$12000ドルで交換してもらえる。120万円以上を最初から払うかは大問題。

B君:この問題は、なかなか微妙だな。8年を経過したモデルSの中古車価格はいったいいくらになるのだろう。電気自動車のモーターは、8年経過しても劣化はしていないから、十分に走るだろう。しかし、電池が弱り始めた車をいくらで買うか。

A君:確かに。しかも、バッテリーの価格は、8年後に相当下がっているはず。そのとき、あらかじめ$12000を払うかが大問題。

B君:いずれにしても、決断を迫られる。しかし、かなり不確実性が高いなあ。なぜなら、電池自体の価格は確かに多少下がるかもしれないが、テスラの電池は実は、パナソニックの18650という大きめの単3電池のような円筒形の電池を大量に使ったもので、かなり大変な仕組みなのだ。1本で3.7 volts 2600mAh。すなわち、9.6Wh85kWhのモデルだと、9000本ぐらいの搭載が必要。この方式だと、電池の単価はすでにかなり下がっているし、その逆に生産性が上がらないので、余りコストが下がらないと推測できるのだ。

C先生:このあたりがモデルSの真実。まず、この車は、米国では3台目の車。いつも通勤に使う車、奥さんが買い物に行く車。そして、3台目がときどき楽しむためのモデルS、ということになる。
 モデルSは、今年の4~6月の米国での販売台数が7579台売れた。かなり売れていると言える。これは、もともと3台目の車として買う人が多いこと、さらに、スーパーチャージャーなどの充電設備があること。家庭にも、NEMA14-50の10kWのコンセントが設置できることなど、日本といささか違う条件があるからだと考えれば良いのではないだろうか。
 加えて、日本で電気自動車を使うよりも、米国の方が電力の排出源単位が低い分、環境負荷が低い。しかも、電力はタダみたいなものという考え方が米国人にはあるし、実際、スーパーチャージャーを使えば、モデルSの走行費用はゼロ。
 ということで、売れている車が、環境の全く違う日本でどこまで売れるか、それは、かなり疑問ということになる。日本でも、2台目の車として買える人だけが関心を持ちそうに思う。
(続く)