次世代エコカー・本命は?(15)

2.今年発売の水素燃料電池車(FCV)、TOYOTA Miraiは、誰に売れるのか
 Mirai(ミライ、未来)は、年間700台製造され、700万円台で販売される予定。販売開始は、今年度末までのどこか

C先生:さて、水素だが、その本質などについては、今回の話題ではない。次回にでもまとめてみたいと考えている。

A君:なぜ水素燃料電池車が未来的か、ということを多くの人に聞いてみると、排気ガスが水だけ、という答えが多いですね。しかし、だから環境負荷が低いと考える人はまあ素人です。

B君:なぜトヨタがこの車を作ることになったのか、いくつか可能性はあるけれども、一つは、すでにハイブリッド(HV)車が余りにも一般的になってしまって、トヨタとしても、新しい未来的イメージが欲しい、ということだったのではないか。

C先生:イメージの点は、後ほどの議論にしよう。まずは、EVに対して、FCVがどのような利点があるかあたりから。

A君:ミライは、700気圧に圧縮した水素を燃料に使います。カタログ上ではありますが、航続距離は700kmと言われています。

B君:この航続距離ならば、1000km走ることも比較的簡単なHV、1100km走れるPHEVともまあまあ勝負になる。

A君:しかし、問題は水素ステーションの整備がどこまで進むか。やはり自分の家から10km以内に水素ステーションが欲しいですね。

B君:しかし、それが都会では結構難しい。なぜならば、やはり水素は危ないと思われているから。特に、700気圧以上に圧縮されている水素なので、余計にそう思える。だから、水素供給ステーションは、かなり広い面積を求められる。それに、水素を700気圧に圧縮して貯めなければならないので、そのための圧縮機の電力供給も相当の大規模にならざるを得ない。満タンにして700km走ることができるミライだけれど、そのための水素を単に圧縮するだけの電力を使ってこの車を走らせれば、150km走ると言われている。

A君:ということは、電力の排出原単位が大きい国になってしまった日本では、水素は決して環境負荷は低くないということになってしまう。

B君:まあそういうこと。

A君:これは3.の話題なのですが、排出する二酸化炭素は、水素をどうやって作るかに依存するのですが、普通に天然ガスあたりから作ると、二酸化炭素排出量は、FCVの方がPHVよりも多くなってしまうのです。

B君:こんな状況で、どのぐらい売れるのか。それは、かなり長期的な視点でものを考えないと。
 毎回言っていることなのだけれど、まずは、IEAの2050年予測が大体正しいのではないか、と思うのだ。すなわち、FCVが18%、電気自動車が20%、PHVが35%、HVが15%、その他が通常のガソリン車を含めて12%ぐらいといった分布になるのでは。

A君:ここで問題は、PHVというものの多様性で、電気自動車に充電専用の内燃機関を積んだレンジエクステンダーを含むかどうか。まあ、含むという解釈になるのでしょうか。

B君:そう思う。PHVというものの定義が、モーターと内燃機関の両方を搭載した車で外部電源からの充電が可能なもの、ということになっているだろうから。

A君:水素の作り方を変えない限り、FCVの環境負荷は低くならないのだけれど、2030年を過ぎると、自然エネルギーから水素を作ることが主力になって、この水素はLCA的に二酸化炭素の排出量がゼロなので、環境負荷が格段に低いものと言えるようになる。

B君:その時代をイメージすれば、現時点でも、明らかに化石燃料を燃やす装置を持っているPHVよりも先進的に見える。

A君:純粋のEVも、全く同じで、電気がどうやって作られるかに依存することになりますね。自然エネルギーだけ、あるいは、原子力もまあまあですが、これら一次エネルギーを使った発電による電力ならば、環境負荷は格段に低いことになる。

B君:しかし、現時点での環境負荷は決して低いとは言えない。

C先生:結局、FCVは、誰にも向く実用車というよりも、すでに水素ステーションにアクセスができる人だけが買う。となると、最初は、霞が関には水素ステーションがあるから、やはり政府関係だろうか。東京には、あと数ヶ所しかない。成田空港にもあるけれど、政府関係はこのところ羽田空港だろう。実際、羽田にもある。

A君:他の地域で比較的密度が高いのが、福岡・北九州・鳥栖付近。

B君:大阪は関西空港大阪市内と2ヶ所か。ちょっと無理か。

C先生:やはり普通の人が買うようになるのは、自宅から10km以内に水素ステーションがあること。さらに、少なくとも高速道路に100kmごとぐらいに水素ステーションが整備されてから、ということになるだろう。


4.東京オリンピックで使われる公用車は何かの予測

C先生:先日、東京オリンピックで使われる技術について、記事を書いたが、もう一つ考えなければならないことが、東京という地域のヒートアイランド現象をいかに緩和するか、ということ。なぜなら、真夏のマラソンコースの温度をできるだけ下げるために、様々な工夫が必要だからだ。

A君:水のミストを吹くとか、あるいは、地下にトレンチを掘って、多少とも冷風を吹き出すとか、様々な方法がありそうですが、使う自動車からの発熱量を抑えなければならないのは当然ですね。もっとも有利なものが、ほとんどすべての排出を発電所で行ってしまって、エネルギーのエッセンスとでも言えそうな電力だけを使うEVが排熱量が少ない

B君:FCVの場合だと、高分子型固体電解質を使った燃料電池発電効率は35%ぐらいだと思われるので、電力への変換時に65%は熱になっているものと考えられる。

A君:FCVは水しか出さないと言うと実はウソで、かなりの熱を出しているのですね。ヒートアイランドを回避しなければならない東京オリンピックマラソンの随伴車としては、EVの方が良いことになる。

B君:2020年には、EVは全く先進的な感じを失っているだろうから、当然のことながら、多少不利は分かっていても、使われる車はFCVになるだろう。要するに、一般人向けのイメージが重要だから。

A君:実体の方も対応する策が無いわけではなくて、走れば走るほど、二酸化炭素が減る水素というものを作って、それを使うことも不可能ではない。いわゆるネガティブエミッションを実現する水素ということになりますが。

B君:まあ、そこまでやるかだが。

A君:実は、燃料電池車は、上海の2010年万博ですでに使われているので、それだけでは新鮮味も限定的、だから、本当に環境負荷を下げるということが平行して行われないとダメなのでは。

B君:ではやることにしよう。具体的な方法が存在しない訳ではないのだから。

A君:ネガティブエミッション水素は、こうやって作ることができます。原料は、バイオマス。これを炭化します。そのときに温度にもよりますが、高温にすれば、水素が発生する可能性があります。その他のガスは、このプロセス内のエネルギー源として使用。そして、得られた炭素は、土壌改良材として使用し、水素は精製して燃料電池車用にする。これで、土壌改良材に使う炭素分がマイナス分になります。なぜならば、エネルギー源として使われる部分の燃焼によって排出される二酸化炭素の炭素分は、もともとバイオマス起源なので、いわゆるカーボンニュートラルの考え方で、ゼロだと見做すことができるからです。

B君:色々と調べてみても、ネガティブエミッションの水素を作ろう、すなわち、炭と水素が二つの目的物という研究は比較的少ないようだ。

A君:絶対にどこかでやられていますよ。もっと探せば。しかし、ネガティブエミッションを目標にするということだけなら、排気ガスをCCSで隔離するという方法論もありますね。

(注、ネガティブエミッションNegative Emission地球温暖化を防止するために大気からCO2を削減する事)

(注、carbon dioxide capture and storage,ccs二酸化炭素回収・貯留)

B君:その通りなのだけど、ちょっと力ずくの感じがある。炭ならば、どこかに埋めるということが可能だけれど、COをCCSでとなると、処理が大げさになってしまう。

A君:いずれにしても、東京オリンピックで使われるであろうFCV車の分だけでも、ネガティブエミッションの水素を作るという目標であれば、なんとか実現が可能なので、是非とも、史上初だということでやってみて欲しいですね。

C先生:考えてみれば、電力についても、CCS付きのバイオマス火力発電所を整備して、東京オリンピックの競技用に使われる電力だけは、ネガティブエミッションだったという実績を作るのも悪くはない。これならかなり未来を先取りすることになる。これが実現すれば、ゼロ・エミッション水素で走るFCVミライだけではなく、ゼロエミッション電力で走るEVも新鮮味が出てくるので採用される可能性がある。

http://www.yasuienv.net/ModelS_Mirai.htm

(続く)