次世代エコカー・本命は?(30)

FCVには設計上の制約も

 これまでトヨタの最初の市販FCV500万円台になると予想されていたのだが、実際には700万円台となった。補助金(約200万)を活用しても500万円台と高価だ

 対する、電気自動車の方は、日産「リーフ」(Sグレード)は287万円。そこから53万円の補助金分を差し引くと234万円まで下がる。「MIRAI」の半額以下だ。三菱「i-MiEV」(Mグレード)なら226万円。補助金49万円を差し引くと177万円と、200万円を切る負担で入手できる。

 しかも、「MIRAI」は全長4890mm、全幅1815mmという大きなサイズにもかかわらず、4しか乗れない。5人乗りにできない理由は大きな水素タンクである。普通のガソリン車の燃料タンクは60リッター以下だが、「MIRAI」の水素タンクは倍の122リッターもある。

 しかも、FCVのタンクは、高圧の気体(水素)を蓄えるために円筒形(あるいは球形)にせざるを得ないという制約がある。タンクを1個にすると、直径が大きくなって室内スペースが圧迫されるため、「MIRAI」では細めのタンク2個に分割したのだが、それでも5人乗りにすることができなかったのだ。

 その点、EVでは、バッテリーパックを平たく作り、床下に装備することができるのでスペース的には全く問題ない。もちろん「リーフ」は5人乗りだ。

トヨタMIRAI」出所:トヨタ自動車

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インフラ整備で明暗

 上述のように、筆者は、FCVの将来には悲観的だ。その理由は二つある。電気自動車は走行中のCO2の排出がゼロであり、充電を太陽光発電で賄うようになれば、さらに、排出量を減らすことができる。対するFCVは、水素を取得する段階でCO2が発生してしまうため、温暖化対策としての効果が非常に限定的である。

 さらに、FCVの場合、水素供給のためのインフラ整備の困難さが大きなネックになる。水素は、数百気圧という高圧タンクに搭載することになり、そういう高圧水素を供給するステーションが必要になる。

 ステーション建設に数億円というコストがかかるため、なかなか設置は進まない。目標自体が、2015年中に100カ所という小さなものだが、その達成も難しそうだ。実際、具体的な計画ができているのは40数カ所しかなく、稼働中のものとなると、20カ所にも満たない状況だ。これでは、本格普及は難しく、せいぜい「テスト販売」程度にしか対応できない。

 

日本初のガソリンスタンド併設水素ステーション
海老名中央水素ステーション

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写真:JX日鉱日石エネルギー

 対するEVの方は、現時点で、すでに6050カ所の充電拠点があり(普通3490+急速2560)、桁が二つも違っている。しかも、200Vの普通充電なら自宅でもできるので、充電拠点は事実上無限に存在すると考えても良い。

 充電には8時間程度かかるが、夜寝ている間にやれば、朝起きた時には充電済みの愛車が待っている。オイル交換の必要もないので、ガソリンスタンドに行く手間もなくなるというわけだ。従って、「究極のエコカー」はバッテリー使用のEVであると考える。

 このように筆者は、燃料電池には否定的なのだが、定置型燃料電池の方はもっと可能性があると考える。一番の違いは、定置型は都市ガスを使うためにインフラ(ガス管)がすでに存在していることだ。

 しかも、燃料電池が天候に関係なく安定的に電気を供給できるベースロード電源であるため、現在の電力会社から独立した地産地消(あるいは自産自消)の電力システムを構築できるという大きなメリットを持っている。

技術で勝って、ビジネスは?

 最近の日本企業は、家電などに見られるように、「技術で勝ってビジネスで負ける」というバターンを繰り返している。FCVもその道を歩んでいるのではないだろうか。

 トヨタFCVのセールスポイントは、EVと比べてエネルギーの補給が迅速で、かつ、航続距離が長いことだ。水素は3分程度で充填でき、約650キロメートル走ることができる。つまり、これらの点ではガソリン車と同等ということだ。

 確かに技術は素晴らしい。しかし、ビジネス的にはどうなのか。トヨタは、今年12月に国内で発売し、15年末までに約400台の販売を目指すと言うが、「究極のエコカー」と意気込む割には何とも寂しい数字だ。しかも、すでに官公庁や企業を中心に約200台を受注している。つまり、一般ドライバー向けの販売目標は200台以下ということになる。

 対するEVの販売も予想を大きく裏切ってはいるが、それでも、日産「リーフ」は月間販売台数1000台のペースを維持している。テスラの「モデルS」は、発売2年で累計販売台数は47000台に達している(20149月現在)。

 21世紀は、シンプルな技術組み合わせのもとに、ビジネスで勝つ時代。FCVはそのトレンドに逆行しているように感じる。

(続く)