次世代エコカー・本命は?(46)

FCVトヨタEVTesla、覇権を狙う両社がデトロイトで火花

久米 秀尚

2015/01/15 10:28

 

 電気自動車EV)か燃料電池車(FCV)か――。

 自動車業界がガソリン安に包まれる中で開幕した米国最大の自動車展示会「The North American International Auto ShowNAIASデトロイトモーターショー)」。会場にはピックアップトラックスーパーカーなど、ガソリンをふんだんに消費する車両がずらりと並んだ。

 だが、自動車メーカーは皆、将来的には電動車両に移行していくシナリオを持つ。今回のデトロイトモーターショーで目立ったのは、プラグインハイブリッド車PHEV)への取り組みである。今後数年で市場投入する車両のお披露目や計画の発表が相次いだ(デトロイトモーターショーの記事一覧)。 http://techon.nikkeibp.co.jp/article/EVENT/20141128/391447/

 こうした華やかな舞台の裏で、“次世代車両”の覇権を狙う静かな争いが繰り広げられていた。

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1 Tesla MotorsCEOElon Musk氏 

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 「2025までに、年間100万台を超えるEVを量産する」――。EV市場を引っ張る存在となった米Tesla Motors社。同社CEOElon Musk氏は2015113(米国時間)、強気の姿勢を示した。モーターショーの会場からほど近いデトロイト市内で開催されている自動車関連のカンファレンス「Automotive News World Congress」に登壇、今後の見通しについて発言した(図1)。

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2 Tesla社のブース

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 Tesla社の高級セダン「Model S」は現在、販売が好調で生産が追い付いていない(関連記事)。

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20150105/397145/

デトロイトモーターショーの会場内にも自社ブースを構え、Model Sを並べてアピールの手を緩めない(図2)。2015にはSUV(スポーツ多目的車)の「Model X」の発売を予定し、2017には価格を35000米ドル程度に抑えた「Model 3」の投入を計画している。

 販売は好調なものの、同社は経営面では赤字の状態が続いている。Automotive News World Congressのステージ上でも、費用・役員報酬控除前の一般会計原則(GAAPGenerally Accepted Accounting Principles)ベースの黒字化は「2020年以降になる」(Musk氏)との見通しを示した。だが、Musk氏の立ち居振る舞いからは焦りは感じられなかった。

 Musk氏はステージ登壇後に開いた記者会見でライバルとなるFCVに言及、「水素を使うFCVはばかげている」とけん制した。

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3 トヨタ自動車FCVMIRAI(ミライ)」をアピール

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 そのFCVはどうか。先頭を切って市場開拓を進めるのがトヨタ自動車である。デトロイトモーターショーでは、自社ブースの特に目立つ一等地に、20141215に日本で発売したFCVMIRAI(ミライ)」を座らせた(図3)。米国は2015年秋、欧州は20159に発売する計画だ。

 さらに、デトロイトモーターショーに先だって米国ラスベガスで開催された「2015 International CES」では、同社が保有しているFCVに関連する特許の実施権を無償で提供すると発表(関連記事)。同社が単独で保有している約5680件に上る特許(審査継続中を含む)を開放する。自動車メーカー各社がFCVを開発しやすい環境を整え、FCV市場を開拓する同士を募る。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/EVENT/20150106/397240/

Tesla社も特許を開放

 特許の無償開放という戦略を採るのはTesla社も同じ。同社は20146月にEVに関して保有しているすべての特許を解放し、オープン化する決断を下している。目的はやはり「後発のメーカーがより手ごろな価格でEVを市場に投入できる下地を作ること」(Musk氏)だ。

 モーターショーが開幕してからのデトロイトは最低気温が-17℃を下回るほどの冷え込みを記録している。だが、次世代車両をめぐる静かなバトルが、この街に熱気を与えていた。

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/EVENT/20150115/399021/?n_cid=nbptec_tecml&rt=nocnt

 

これに対してFCVトヨタは、北米トヨタ自動車販売(Toyoya Motor Sales,U.S.A.)CEOであるジェームス・レンツ専務役員が記者団に対して次のように反論している、「マスク氏の製品は素晴らしい。ただEVは必ずしも長く走れるクルマではない」と。

 

そして、1回の充電で走れる距離の短さが課題だと指摘して、EVが1回の充電に数十分~数時間かかるのに対し、ミライの燃料補給は3分程度で終わるとし、FCVの優位性を強調している。

まあ電気自動車については、航続距離の短さもさることながら、その電池への充電時間の長さが問題だろう。しかもそれなりの設備も必要となる。人は、寝ている間に充電できるから問題ないのでは、などと寝言を言っているが、都市部のマンションなどの共同住宅では何台も充電設備と充電場所を設けるわけにもいくまい。現在立てられているマンションでは殆どが一台分の充電設備は設けていると言うが、これが一晩に一台しか充電できないとなると、共同住宅では電気自動車はもてないに等しいのではないのかな。

そんなこんなで2次電池の技術革新が待たれるところであるが、バッテリーでのブレイクスルーが起きて画期的なものや充電方法が発明されたとしたら、先に紹介したテスラパナソニックの「ギガファクトリ」(2014.12.12NO.142015.01.27~28NO.42~43で紹介している)などは、置いてきぼり食らってしまわないのかと心配になる。

(続く)