次世代エコカー・本命は?(81)

次期プリウスでは10%燃費向上

 トヨタHVシステムの技術を活用してFCVを実用化する一方、燃費の大幅向上を目指した次世代プリウスの開発も進めている(表)。次世代プリウスは、モーターや電池を小型・高性能化することなどで、米国燃費基準(EPA)で10%以上高める計画だ。

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表 次世代「プリウス」で目指す性能や最新技術(トヨタの資料などを基に日経Automotive Technology誌が作成)

 これまで各世代で燃費を約10%ずつ高めてきた歴史がある。現行はEPA50MPG21.2kmL)なので次世代は55MPG23.3kmL)以上を見込めそうだ。

 日本の基準(JC08モード)では、欧米に比べて低速の走行になるため、燃費の絶対値はより高くなる。次期プリウスの燃費が日本でも10%向上すると考えると、現行の32.6kmLから36kmL以上となる。ただ、小型HVの「アクア」や「フィットハイブリッド」が3637kmLで競い合っていることを考慮すると、車格の違いはあるにせよ、少なくとも同程度以上にする必要があるだろう。

急速燃焼技術でエンジン熱効率向上

 米国でHVの開発について触れた小木曽氏によると、次期プリウスでは「燃費向上のためエンジンの熱効率を高めつつ、HVシステムの電動部品は小型化を図る」という。

 例えば、ガソリンエンジンは熱効率を現行の38.5%から40%以上に高める。HV向けのエンジンで使われてきたアトキンソンサイクルと高圧縮比による低燃費に加えて、新たに空気と燃料の混合気がシリンダー内で縦渦(タンブル)を起こすことで混合気を短時間で広く燃焼させる、急速燃焼技術を導入する模様だ。シリンダー内に残留する燃料が減り、ノッキング(異常燃焼)も減らせる。

 トヨタは燃費を10%以上高める高効率エンジン20144月に発表し、同月に部分改良した小型車「パッソ」(排気量1.0L)や「ヴィッツ」(同1.3L)に初めて採用した。今後は1.5L以上のエンジンについても高効率エンジンへの置き換えを進める。

 高速域の燃費を改善するために、エンジンを駆動軸と直結する方法も採用する可能性がありそうだ。この技術はホンダが20136月に発売した「アコードハイブリッド」で採用している。高速域ではモーターよりもエンジンで駆動した方が効率の良い領域があるため、同機構が有利に働く場合がある。

 トヨタHVシステムは、エンジン駆動とモーター駆動の比率を燃費が最適になるように遊星歯車機構で切り替えて運転する。しかし、欧米の高速走行を重視する設計にすると、エンジンの出力軸を駆動軸に直結するモードも必要になる。

モーターと電池は小型化

 モーターは小型化しつつも出力密度を高め、現行プリウスと同様に減速機を介して駆動する。モーターの出力密度は、初代プリウスに比べると3代目の現行プリウスでは4倍に高まった。次世代は4倍以上に高める。

 モーターコアで使われる電磁鋼板の薄板化も必須条件になる。電磁鋼板は1枚ごとに厚さ方向に、熱となる渦電流が流れる。モーターコアの損失の7割を占める渦電流損は「電磁鋼板の厚みの2乗に比例する」(新日鉄住金)ことから、薄い電磁鋼板を使えば損失を低減できる。ただ薄すぎると、金型でプレスしたときに電磁鋼板の形状がひずんでしまい期待した磁力が得られないということにもなりかねない。

 現行プリウスのモーターコアは、厚さ0.3mmの電磁鋼板を積層している。発売後5年が過ぎ、金型の進化や電磁鋼板の性能の進化もあり、次世代プリウスでは0.1mm程度の電磁鋼板を使う選択肢もあり得るだろう。

 電池は車両の特性に応じて、リチウムイオン電池ニッケル水素電池の両方を使い分ける方針だ。プリウスは世界中で販売されている。リチウムイオン電池に一本化するには供給体制が十分ではない。

 ニッケル水素電池は初代から使っており、コスト競争力も高い。車種によって電池を使い分けることで価格競争力や室内空間・航続距離などで特徴を出す。既に現行プリウスでも、ベース車はニッケル水素電池であるのに対して、PHVの「プリウスPHV」、3列シートの「プリウスα」ではリチウムイオン電池を採用している。

 電池の出力密度やエネルギー密度を高めることで、次期プリウスPHVでは「1回の充電でのEV走行距離を現行の26km以上に延ばす」(副社長の加藤光久氏)としている。

2020年に向けてインバーターを改善

 次期プリウスが発売される2015年ごろには間に合わないが、2020年ごろの中長期で開発を進めているのが、インバーターや昇圧コンバーターを含む高効率のPCUである。

 PCUは電池電圧(200V)からモーター駆動電圧(650V)に昇圧したり、直流を交流に変換する。PCUには多くのパワー半導体が使われていることから、パワー半導体の電力損失はHVの電力損失の2割を占めるほど大きい。

 現在使われているシリコン(Si)製から炭化ケイ素(SiC)製に変えることで電力損失を大幅に低減できる。トヨタ2020年までに炭化ケイ素製のPCUを実用化する計画で、現行のシリコン製と比べて10%の燃費向上を目指す。次期プリウス36kmLだとすると2020には40kmLも視野に入る。

 トヨタデンソーなどと共同で、炭化ケイ素製のパワー半導体を使ったダイオードトランジスタを試作した(図4)。電流を流したり止めたりするスイッチングを短時間で高速に実行できるようになるため、熱になる「テール電流」を抑えることができる。

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4 (a)左が炭化ケイ素製パワー半導体を使った開発品、右がシリコン製の従来品。(b)炭化ケイ素を使ったトランジスタダイオード

 さらに高速で電流をオン・オフすることでPCUに必要なコンデンサコイルも小型化できる(図5)。コイルやコンデンサーはPCUの容積の4割を占めるため、PCUのサイズも現在の5分の1程度に抑えられるようになる。

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5 パワー半導体を炭化ケイ素製にすると高周波で駆動できるため、組み合わせるコイルやコンデンサーを小型化できる。PCUも小さくできる

 試作した炭化ケイ素製パワー半導体を組み込んだPCUHVに搭載したところ、燃費を5%改善できたという。燃費を10%向上させるパワー半導体の技術は、2020年に向けてHVの大きな競争力になりそうだ。

(日経Automotive Technology 小川計介)

[日経Automotive Technology 2014年9月号の記事を基に再構成]

 

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO78987190Y4A021C1000000/


 

しかもこのプリウス2015年の春発売予定だったものが、2015年末に発売を遅らせると言うことらしい。デザインが気に入らなかったと言っているが、デザイン上のそんな話は相当前から詰めてゆくものなので、小生はデザインの問題ではなかったのではないのかな、と勘ぐっている。


とすれば新型プリウス燃費を世界最高にしたかったので、発売を半年遅らせたのではないのかなとも考えられる。

(続く)