次世代エコカー・本命は?(87)

研究の内容

 本研究は、金属リチウムの負極側にのみ有機電解液を用い、正極の空気極側では水性電解液を使うという着想を基にしている。負極側の有機電解液と空気極側の水性電解液の間に、リチウムイオンのみを通す固体電解質を隔壁として使用すれば両電解液の混合を防ぐことができ、かつ電池反応を進めることができる。これによって、正極での固体反応生成物である酸化リチウム(Li2O)の析出を防げることを発見した。すなわち、この電池では、放電反応により生成するのは固体の酸化リチウム(Li2O)ではなくて、水性電解液に溶けやすい水酸化リチウム(LiOH)であり、空気極のカーボン細孔の目詰まりは起こらない。また、水や窒素などは固体電解質の隔壁を通れないため、負極のリチウム金属と反応する危険性がない。さらに、充電するときには、充電専用の正極を配置することにより、充電による空気極の腐食と劣化を防ぐことができる。

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2 新しい構造の「リチウム-空気電池」の構成 左図:放電時 右図:充電時


 負極として金属リチウムリボンを、負極用電解液としてリチウム塩を含む有機電解液を組み合わせる。正極と負極を分離する隔壁としてリチウムイオン固体電解質を中央に配置する。正極用の水性電解液としてアルカリ性の水溶性ゲルを用い、微細化カーボンと安価な酸化物触媒で形成された正極と組み合わせた。

 放電時の電極における反応は次のようになる。
 1)負極での反応Li → Li+ + e-

金属リチウムがリチウムイオン(Li+)として有機電解液に溶解し、電子は導線に供給される。溶解したリチウムイオン(Li+)は固体電解質を通り抜けて正極の水性電解液に移動する。

 2)正極での反応:O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-

導線から電子が供給されて微細化カーボンの表面で空気中の酸素と水が反応して水酸イオン(OH-)が生じる。正極の水性電解液においてリチウムイオン(Li+)と出会って水溶性の水酸化リチウム(LiOHとなる。

 充電時の電極における反応は次のようになる。
 1)負極での反応:Li+ + e- → Li

導線から電子が供給され、リチウムイオン(Li+)は正極の水性電解液から固体電解質を通り抜けて負極表面に達し、そこで金属リチウムの析出反応が起こる。

 2)正極での反応:4OH- → O2 + 2H2O + 4e-

酸素発生反応が生じる。発生した電子は導線に供給される。

 今回新たに開発したアルカリ性水性電解質ゲルを用いたリチウム-空気電池を、空気中で0.1A/gの放電レートで放電すると、放電容量は約9000mAh/gとなった。また、充電容量も約9600mAh/gとなった。この放電容量は、これまでに報告されている従来型のリチウム-空気電池の容量(7003000 mAh/g)に比べると、大幅に増加している。さらに、アルカリ性水溶性ゲルの代わりにアルカリ性水溶液を使うと、空気中で0.1A/gの放電レートの放電で、図3に示すように連続的に20日間の放電ができ、その放電容量は約50000mAh/gとなった。

 

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3 新しい構造の「リチウム-空気電池」の長時間連続放電曲線

 

 この新しいリチウム-空気電池は、放電が終わった後に充電する代わりに、正極の水性電解液を入れ替え、負極側の金属リチウムをカセットなどの方式を利用して入れ替えれば、連続使用可能になる。これは一種の燃料電池であり、「金属リチウム燃料電池」と呼ぶことができる。理論的には金属リチウム30キログラムはガソリン40リットルとほぼ同じエネルギーを持っている。空気極側で生成した水酸化リチウム(LiOH)を使用済みの水性電解液から回収すれば、電気的に金属リチウムを再生するのは容易であり、燃料として再利用できる。リチウムが循環使用される「金属リチウム燃料電池」のコンセプトを図4に示す。

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4 リチウムが循環使用される「金属リチウム燃料電池」のコンセプト

 

今後の予定

 今回、産総研が開発した新しい構造の新型「リチウム-空気電池」は、実用化に向けて技術の向上がさらに必要であり、充電可能な電池として、また大容量連続放電が可能な「リチウム燃料電池として、さらなる研究開発を進める予定である。

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http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090224/pr20090224.html


 

「リチウム-空気電池」は一種の燃料電池と言っても差し支えない、と言っているので、燃料電池車を世界に先駆けて世に出したトヨタでも、開発を進めているのではないのかと思っていたら、そんな話がトヨタのホームページに載っていた。

(続く)