第一原理計算で裏付け
山田氏らの研究グループは実験と並行して、高濃度溶液の構造や電子状態、反応機構の理論的な解明を進めた。物質・材料研究機構の館山佳尚氏らと共同で密度汎関数法理論をベースとする第一原理分子動力学(DFT-MD)計算を実施した。
高濃度LiTFSA/AN溶液の第一原理DFT-MD計算によって、平衡状態におけるスナップショットと電子状態図(projected density of states、PDOS)を得た(図4)。低濃度溶液においてはLi+に対して溶媒分子4つが配位した状態となっているのに対し、高濃度溶液(4.2mol/L)においては全ての溶媒分子はLi+に配位し、またアニオンによるLi+への配位が確認できる。
図4 第一原理計算で裏付け
スーパーコンピューター「京」を用いた第一原理分子動力学シミュレーションによって、“濃い電解液”の溶液構造と電子状態図を導き出した(a、b)。(図:東京大学の資料を基に本誌が作成)
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さらに、それぞれのLi+は多様な配位状態を取りながらアニオンとともにネットワーク構造を形成していることが分かった。このような特殊な配位状態により、溶液の電子状態が大きく変化し、“濃い電解液”特有の安定性の起源となっていることを突き止めた。
Liイオン2次電池に注目が集まる一方で、現役HEVの多くに搭載されているのはNi水素2次電池、という現実がある。その車載向けNi水素2次電池の生産で世界首位を走るのが、プライムアースEVエナジー(PEVE)である。同社 技術管理部 部長の大谷昌司氏は「工場は今、24時間フル稼働中。生産能力は年間約120万台分あるが、それでも追い付かない」と興奮気味に話す。PEVEの株式の80.5%はトヨタ自動車が保有し、トヨタ自動車のHEV向け電池を一手に請け負う(図A-1)。
図A-1 年間約120万台分を生産
プライムアースEVエナジーは、「プリウス」をはじめとするトヨタ自動車のハイブリッド車にNi水素2次電池パックを供給している(a)。国内では宮城工場で増産を、海外では中国で新工場の建設を予定している(b)
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Ni水素2次電池とLiイオン2次電池の最大の違いは「信頼性」(大谷氏)という。「実は、コスト面ではそこまで大きな開きはなく、長年不具合を出さずに、さまざまな環境下で性能を発揮できていることが我々のNi水素2次電池の強み」(同氏)と自信をのぞかせる。PEVEが現在も主力製品として量産する電池モジュール「NP2」は、10年以上前に生産を始めたもの。細かな改良は続けているが、Ni水素2次電池は「技術的に高いレベルに達している」(同氏)と言える。PEVEが今、注力しているのが解析技術やリサイクル技術である。電池内部の材料の状態や電子の挙動を詳細に把握できれば「改良の余地はある」(同氏)という。レアメタルであるNiのリサイクル技術の確立はコスト低減や安定供給の面で必須だ。
2014年6月に累計700万台分のNi水素2次電池の生産を突破したPEVE。業界最大手の同社はNi水素2次電池の開発の手を止めない。一方、将来的には徐々にLiイオン2次電池に置き換わっていくことを同社は自覚している。事実、同社は2015年以降に次期Liイオン2次電池の量産を始める計画を持つ。2つの電池の開発競争はこれからが本番だ。
■参考文献
1)Yamada,Y. et al.,“Electrochemical Lithium Intercalation into Graphite in Dimethyl-Sulfoxide-Based Electrolytes: Effect of Solvation Structure of Lithium-Ion,”J. Phys. Chem. C,114,11680, 2010.
2)Yamada,Y. et al.,“A superconcentrated ether electrolyte for fast-charging Li-ion batteries,”Chem. Commun.,49,11194, 2013.
3)Yamada,Y. et al.,“General observation of lithium intercalation into graphite in ethylene-carbonate-free superconcentrated electrolytes,”ACS Appl. Mater. Interfaces, 6,10892,2014.
4)Yamada,Y. et al.,“Unusual stability of acetonitrile-based superconcentrated electrolytes for fast-charging lithium-ion batteries,”J . Am. Chem. Soc.,136,5039, 2014.
5)Johansson,P. et al.,“Electronic structure calculations on lithium battery electrolyte salts,”Phys. Chem. Chem. Phys.,9,1493, 2007.
6) 菊池ほか,「ECフリー高濃度有機電解液中における高速電極反応」,電気化学会第81回大会,1R07,2014年.
7)Peled,E.,“The electrochemical behavior of alkali and alkaline earth metals in nonaqueous battery systems-The solid electrolyte interphase model,”J . Electrochem. Soc.,126,2047,1979.
8)Sodeyama,K. et al.,“Sacrificial anion reduction mechanism for electrochemical stability improvement in highly concentrated Li-salt electrolyte,”J. Phys. Chem. C,118,14091,2014.
この記事のURL:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/MAG/20140929/379367/
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/MAG/20140929/379367/?n_cid=nbptec_tecml&rt=nocnt
このようにBatteryEV用の車載用二次電池については、当座は「リチウムイオン電池」が主流でその改良型などが顔を出しながら、2020年から2030年過ぎからは以上見てきたような新型電池が実用化されてゆくのではないのかな。しかしながら小生のような科学や化学に基礎的な素養のないものにとっては、バッテリのこの化学反応を理解するにはなかなか難しいのであるが、「リチウムイオン電池」のこの「未解決リスク」を解明することはノーベル賞に値するほどのものらしい。
それほどFCVを含むこれらのバッテリに関するものは、難しいと言うことなのか。
「リチウムイオン電池」に関しては発火事故が頻発した。近いところでは最新型旅客機のボーイング787型機に搭載されていた「リチウムイオン電池」が発火した事例が記憶に新しい。しかしこの原因は未だに特定されていない。
(続く)