次世代エコカー・本命は?(110)

トヨタ燃料電池車は、かつて、フューエルセル、水素ボンベなどをレイアウトするのに自由度の効くクルーガーなどをベースに行われてきました。

ところが、市販車水素燃料電池車第1号であるミライはセダンです。エンジンはないとはいえ、様々なデバイス、ユニットを収めるのに、ある意味最も不利な形状です。なぜ、セダンで出してきたのか? 製品企画本部ZF主幹浅井尚雄さんによると、「もちろん、大変なのはその通りです。けれど、セダンでモノにならないクルマ(燃料電池車)だったら、その先もないのではないか、ということで始めました」といいます。


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あえて困難な道を選び、ぜったいに市販にこぎつけるという水素を普及させる本気度が見えてきます。

走らせた印象では、一般的な電気自動車と大きな差は感じられません。回生の強さは大きめでなく、回生の選択の幅が大きくあるわけでもありません。この辺も、最初の燃料電池車として、違和感なく、まずはこれが普通だということを基準に作ったということです。燃料電池車のスタンダードを自分たちで作ろう、ということでしょう。

走行中も車内はとても静かであるのは言うまでもありません。静かになっている分、タイヤと路面から発生する音が大きく感じてしまい、700万円のクルマにしては惜しい、と感じる人もいるかも知れません。ミライにはブリヂストンの低燃費タイヤの代表格エコピアが採用されていますが、高級車向けブランドのレグノくらいがミライの車格にふさわしく、走行距離もそれほど変わらずに快適性が増すのでは?と思ったわけです。けれど、浅井さんによると、「ミライは、例えば灼熱の地で連続した登り道を走らせるようなテストも行い、最も過酷な条件でも最小限の走行抵抗にしたかった理由もあるんです」とのこと。

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日本国内だけで、顔の見える会社役員や一部の政治家さんにアピールを兼ねて乗ってもらうクルマなら、そこまで考える必要はなかったかも知れません。けれどミライは、世界中のどんなシーンでも普通の人が使えるようにテストを繰り返し市販化となっていることが想像できます。


クルマとしての印象は静かなほかに、シートが大きめで座り心地がよく感じられます。フロントシートの下にはミライの命とも言える燃料電池そのものを含んだユニット「トヨタFCスタック」があり、リヤシートの下には高圧の水素ボンベがあります。そのため全体が大きくなった部分もあるでしょうが、シート自体は薄く作らざるを得なかったと言います。けれど、表皮材などを工夫してしっかりとしたシートに仕上がっているのは賞賛に値します。

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国を挙げての水素プロジェクト。トヨタの威信にかけてぜったいに失敗は許されないクルマがトヨタ・ミライです。まだ誰もが乗れる価格、インフラ状況にあるとは言えませんが、少なくともミライ自体はクルマとして誰にも不満の出ない仕上がりになっています。水素にかけるトヨタの本気度は、ミライに乗ってみるとしっかりと伝わってくるのがよくわかりました。

(文・写真:clicccar編集長 小林和久)

http://clicccar.com/2015/04/15/303433/


 

この「イワタニ水素ステーション 芝公園」には、FCV「ミライ」のショールームも併設されている。更には純水素型燃料電池も設置されていて、電力供給の実証実験も行われることになっている。


FCVと設置されている燃料電池で使われる水素は、液化した水素外部からトレーラーで搬入するオフサイト」方式で供給されると言う。岩谷産業は古くから水素を扱ってきた会社なので、水素の扱いには自信を持っている。そしてここに設置されている燃料電池は、東芝燃料電池システム株式会社が製作したもので、燃料電池なのでCO2をまったく発生させずに電気を作ることが出来る。残念ながらそこで使われる純水素はそこで作られるものではなく液化水素として外部から搬入されるものである。外部で水素を作るときには、きっとCO2が発生していることであろう。この「イワタニ水素ステーション芝公園」での活動では、だから、CO2の発生はないのだが、出来得れば「オンサイト」でCO2フリーで水素を作ることに挑戦してほしかったものだ。

(続く)