続・戦後70年談話はヒストリーで!(29)

要するに、この「太西洋憲章」は、あくまでも欧米列強(白人国家)にのみ適用され、有色人種(日本など)には適用外で、欧米列強が有する植民地は絶対に手放さない、有色人種には独立は絶対に許さない白人国家の支配下に置くと言っているのである。

 

この「大西洋憲章」の4ヶ月後に「大東亜戦争」が始るのであるが、この戦いは白人から東亜の植民地を開放する戦いであった。即ち、「白人対有色人種の戦い」と言う意味合いを持っていたのである、と言うよりも、「白人有色人種の戦いそのものであった。

 

この「大西洋憲章」の考えをべースにアメリカは、戦後の日本を、2度と独立した外交政策が実行できない国にする。日本から、永久に自主防衛能力を剥奪しておくと言うことを決めていたのである。アメリカは日本のおかげで、中国に利権を獲得できなかったことを、いかに無念と思っていたことか、このことでよくわかるのである。アメリカの潜在意識の中には、「大西洋憲章」が色濃く残っていたのであろう。そのこころは、人種差別の温存である。

 

こんな国のアメリカに日本の主権が握られていて、よいものであろうか。やがては中国に売られてしまう、と言うことが現実味を帯びてくるのである。ただし中国も有色人種である。しかし中国は核を持っている。アメリカはその核に敬意を表しているのである。インドにも敬意を表したではないか。紙に書かれた約束をいかに有効なものとするかは、どうも、核武装が必要なのである。これは今までの考察でわかる。果たして四つ目のポイントは何であろうか。

 

日本の信頼する同盟国「アメリカ合衆国」は、果たして、信頼できる国なのか。以上見てきたように、米国は大西洋憲章の原則を、今でも堅持している、と推定できる。こんな国を信頼できる、と言えるものか。否、信頼できない。もともと国際社会は、無政府状態と言ったではないか。

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5.四つ目のポイント

四つ目の原則は、「イデオロギーや好き嫌いの感情を、外交政策に持ち込んではならない」と言うものである。

 

日本の親米保守には、「アメリカは好きだから、米国の言う通りに日米協力すればよい」と考えている者が多い。その一方、親中左翼は、「中国は良い国だ。中国政府の言う通り”謝罪と反省”を繰り返していれば、日中友好は実現するだろう」と思い込んでいる。

 

しかし外交政策とは、冷静・怜悧なバランス・オブ・パワー計算コスト・ベネフィット計算によって決められるべきものであり、イデオロギーや好き嫌いの感情を外交政策に持ち込むと失敗する、と結論付けている。1930年代の日本の大陸進出はコストが掛かりすぎるものであったので、割が合わなかった。これは(1)3回のパラダイムシフトの項で述べた。この意味での外交の達人と言われる人には、伊藤博文チャーチル、ド・ゴール、スターリン周恩来などが該当する、とこの筆者は言っている。

 

国際政治でのリアリスト外交のこの原則は、絶対に忘れてはならないものである。戦前の日本人がこの原則を守っていたら、中国大陸で戦線を拡大するような愚考は避けられた筈である。そして「気がついたら四方を四核武装国に包囲され、自主的な抑止力を持てない状態になっていた」と言う窮状は避けられた筈である。外交政策パラダイムとは、単なる「学者の屁理屈」ではないのである。

 

きちんとしたパラダイムを選択できない国民は、まともな国家戦略をもつことも出来ない、と言うことになる。そこでこの筆者(伊藤 貫氏)は次のことを提案している。

 

・ミニマム・ディフェンス(必要最小限の自主的核抑止力)の構築、そのために国防予算をGDPの1.2%(6兆円)まで増やす。
日印軍事同盟を締結する。

日露協商を構築する。

 

と言うもの。現在の日本を取り巻く地政学的環境を考えると、自主的な核抑止力と同盟関係の多角化はバランス・オブ・パワーを維持する上でどうしても必要だからである。

 

核の洗礼を受けている唯一の国の日本としては、核アレルギーがあることは判る。しかしバランス・オブ・パワー状況において、どれほど日本が不利な状況に置かれているかを、認識しなければならないのである。日本にとって有利な方向へ変えるのに役立つ国家とは、感情やイデオロギーを排して協力すべきである、とこの筆者は結んでいる。将にその通りである。

 

CIAは、2010年後半にも中国の実質経済規模は世界一になると予測している。更に中国の実質軍事予算は、4年ごとに倍増している。そして米国の軍事予算は経済危機のため「今後5~6年は増加しないだろう」といわれている。遅かれ早かれ、中国の軍事力はアメリカのそれを凌駕することとなろう。ならないにしても拮抗することとなる。日本を取り巻く地政学的条件は、今後ともますます悪くなってゆく。

 

日本は米占領軍に押し付けられた”平和国家(即ち無力国家)”パラダイムを捨て、リアリスト・パラダイムを採用すべきである。何時までもアメリカへの依存主義の外交論を繰り返していると、李鵬の言うように「日本などと言う国は、20年くらい後には消えて亡くなってしまう」と言う予告が、現実なものとなってしまう。


ここで二つ、三つ追加しておきたい。

(続く)