そして経済成長には、革新(イノベーション)、協調(格差解消)、環境(大気水土)、開放(透明性確保とルール作り)、共亨(社会保障?)の五つが原則だと規定している。
中国新5カ年計画、守りの改革から攻めの改革へ
2015年11月5日(木)森 永輔
第13次5カ年計画の方針を承認した、中国共産党指導部の面々(写真:新華社/アフロ)
中国共産党が(2015年)10月26~29日に5中全会を開催し、第13次5カ年計画の目標をまとめた。
最も強調したのは、中国経済・社会にイノベーションを生む力を付けること。
13億いる国民の誰もがイノベーションの担い手になれる環境作りを目指す。
一方、国有企業改革をはじめとする「守りの改革」に目立ったものはなかった。
改革のできるところから改革していく、という方針にかじを切ったと見られる。
中国共産党が第13次5カ年計画に臨む姿勢について、金堅敏・富士通総研主席研究員に聞いた。(聞き手は森 永輔)
---中国共産党10月26日から29日まで第18期中央委員会第5回全体会議(5中全会)を開催し、来年から始める第13次5カ年計画に対する党の目標を固めました。「初めて」という形容がつく方針がいくつも出ています。金さんはどこにいちばん注目していますか。
金:中国共産党は第13次5カ年計画を通じて小康社会(まずまずゆとりのある社会)を実現すべく、5中全会で5つの原則を定めました。第1は「イノベーション(革新的発展)」、第2は「釣り合いのとれた発展(協調)」。以下、「環境に配慮した発展(緑色発展)」「開放的発展」「共に享受する発展(共亨)」と続きます。
金 堅敏(ジン・ジャンミン)
富士通総研主席研究員。専門は投資・貿易の自由化、多国籍企業の中国・アジア戦略、中国経済・産業・企業全般。1985年、中国浙江大学大学院修了。1985~91年、中国国家科学技術委員会に勤務。1998年から富士通総研。工学修士、学術博士(国際経済法)
このうちノベーションを第1に挙げました。この点に注目しています。
ちなみに中国共産党は2つの100年を重視しています。1つは、党の設立から100年目の2021年、もう1つは中華人民共和国の建国から100年目の2049年です。最初の節目である2020年までに「小康社会(まずまずゆとりのある社会)」を築くことが当面の大目標になっています 。小康社会は、貧困からは脱しているものの先進国のレベルには至らない、その中間のステージを意味します。
---中国が今後も成長を続けていくに当たって、「中進国の罠」*1が障害として立ちはだかります。これを乗り越えるためにイノベーションが必要ということでしょうか。
*1:低賃金をドライバーとして成長した途上国の成長が、ある段階で止まってしまうこと。人件費が高騰し他の新興国に比べて競争力が落ちること、イノベーションを生み出す力において先進国に追いつけないことなどが理由とされる 。
金:その通りです。
中国はもう低賃金の労働力をてこに産業を発展させることはできません。賃金の面では、アジアの他の国々に追い上げられています。加えて、この発展モデルに甘んじる気もありません。中国が生み出した成果を海外に譲り渡しているようなものですから。
加えて、もう1つ意味があります。新しい技術を自ら作り出すことに自信を深めていることです。これまでは先進国が開発した技術を利用して発展する「後発優位」を方針にしていました。これを「先発優位」に改めることです。「イノベーション」を第1に挙げたのは、中国が他の国々に先んじて新しい技術を開発していくという意気込みを表わすものでもあるのです。
13億人の誰もがイノベーション
---中国共産党の機関誌人民日報の日本語オンライン版が「中国5中全会で登場した新たな政策」として「高校段階の教育を普及させる」ことを取り上げています 。これはイノベーション重視と関係があるものですか。
金:はい。高校の授業料を無償にすることで進学を促し、イノベーションを生み出すことができる人材を増やす狙いです。中国の現在の義務教育は9年間、もちろん無償です。これに続く高校も義務教育ではないが、無償にすることを目指す。同じ狙いで、既に就労している技能工の給与レベルを高めて革新意欲を引き出す支援策も進める考えのようです。
---イノベーションのための施策というと、日本では理工系の大学生を支援するものが多い印象があります。中国では大学生ではなく、高校生なのですか。
金:中国共産党が考えているのは「大衆創業・万衆創新」です。つまり、誰もがイノベーションを生み出せる社会を作ることです。
これまでは大学や大企業、研究機関などに頼ってきました。しかし、彼らの力だけでは間に合わないことや、精細な消費ニーズを満たすことができないことが明らかになった。日本で爆買いが注目されていますよね。あれは、中国の国民の側に需要があるにもかかわらず、それを満たすレベルの製品を供給側が開発できていないからです。この需要と供給のギャップを埋めるためには、イノベーションを担う人材(消費者自身を含む)の裾野をもっと広げる必要があるのです。
3層からなるピラミッド構造を思い浮かべてください。頂点を含む最上位層は政府主導の研究機関(国有企業や研究所)です。電力や鉄道、素材など社会インフラに関わる部分のイノベーションは今後もこの層が担っていくでしょう。真ん中の層は華為技術(ファーウェイ)、アリババなど私営(私有と民化化経営)の大企業です。今はこの層が活躍しています。でも、国民の需要をすべて満たすには至っていない。そこで、第3の層に期待するわけです。ここには、大学生、高校生や技能工に加えて、ベンチャー企業(草の根のイノベーション層)が入ります。
---そう言えば、5中全会の動向を伝える人民日報の報道の中に「起業支援政策を充実」という項目がありました。これもイノベーションの推進と軌を一にする政策なのですね。
金:はい。さらに関連して、中国共産党はコミュニケの中で「ネット強国」も謳っています。これも今回、初めて登場した表現です。
(続く)