ならず者国家・中国、アレコレ!(42)

その代表例が、この「一人っ子政策」であろう。中国では適正な労働人口を維持するまでには、相当の時間と改革が必要となる気がする。だからこの点からしても、中国経済は相当の問題を含んでいると見なければならない。しかし中国政府はこれと言った解決策を持ち合わせているようには見えない。

 

とりあえず、マクロ的に見た中国経済の問題点を整理することも必要なので、ひとまず次の記事を掲げておく。

 

人民元安の裏に潜む中国経済の本当の弱点

2016122日(金)田村 賢司

 19929月といえば、通貨史において、最大級と言っていい事件のあった時である。

 ポンド危機。世界最大級のヘッジファンドを率いていたとはいえ、一介の民間投資家に過ぎないジョージ・ソロスが、英国の通貨、ポンドに巨額の売りを仕掛け、買い入れ防衛に走った英・中央銀行イングランド銀行を打ち負かしたのだ。

 当時、欧州は将来の統一通貨、ユーロの実現のために特別な仕組み(欧州為替相場メカニズム=ERM)を導入していた。緩やかな固定相場制と言えそうなものだったが、ソロスはこのためにポンドが実力以上に高くなっていると見て猛烈に売り浴びせたのである。

 敗れた英国はERMを脱退し、やがて変動相場制に移行していった。政府に対する市場の勝利として名高いこの出来事を思い起こしたのは、年初から大揺れが続く世界経済の混乱の元にある中国と、その通貨、人民元の今を考えたからだ。

市場にすり寄り始めた中国為替当局

 「今の規模で中国当局が為替介入を続けると、あと34年程度で中国の外貨準備は1兆ドルに落ちる可能性がある。そうなれば、ポンド危機と同じ人民元危機が起きても不思議ではなくなる」

8.11ショックから人民元安が進んできた
ドル・人民元レートの推移

[画像のクリックで拡大表示] 人民元レート01 T #&D

 みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏はそんな“強烈な”予言をする。中国は、日本や米国のように市場で為替レートが決まる自由な変動相場制ではない。通貨当局が、毎営業日の午前10時過ぎに発表する基準値から一定の幅しか動かさない管理変動相場制をとっている。当局の決めた為替レートからの変動を一定の幅に抑えることで、市場の急変による経済への影響を小さくするためであり、ドル売り人民元買いなど為替介入に使うのが政府の保有する外貨準備だ。

 この人民元の動きに、今の中国が置かれた経済の停滞が、これまでとは質の違うものであることがうかがえる。

 8.11ショック。昨年811日、中国は突然、為替相場の管理方法を変えた。それまで中国は、市場で実際に取引される為替レートを見ながら、それとは“別に”基準値を決めていた。ところがこの日、「前営業日の銀行間取引(市場レート)の終値と、主要通貨の動向を考慮して」基準値を決定すると発表したのだ。一定の幅以上には動かさない管理変動相場制は維持したが、元になる基準値を市場の実勢に沿う形にしたのである。中国は基準値を3日連続で引き下げ、人民元は急落していった。

 これまで唯我独尊を貫いてきた中国が、市場にすり寄り始めたのには2つの理由がある。1つは外資と見られる資本の流出である。「中国株や様々な資産に投資していた(投機の)ホットマネーや、実物資産への投資などが母国に引き上げられている」(富士通総研の柯隆・主席研究員)。

 資本の流出の裏にあるのは、経済失速への警戒と、株式市場や為替市場など、様々な市場に見られる統制経済体制への不満なのだろう。

 人件費の低さを生かし、人海戦術で稼ぐ繊維など軽工業は、賃金上昇人民元とともに競争力を失い、工場の一部がベトナムカンボジアなどに移り始めている。一方、鉄鋼や造船、自動車などを初めとした主要産業には、設備と債務と投資の3つの過剰が改めて指摘され始めた。「過剰」の中心にあるのは、国有企業か国有企業と外資の合弁で、社会主義政権の元にある限り、過剰問題を解決する力がないと見られ始めたのである。

3つの過剰の本丸、国有企業の危機

 国有企業問題は、中国が抱える経済の矛盾の凝縮でもある。製造業で言えば、鉄鋼や板ガラス、セメント、非鉄金属、造船、石炭、アルミなどが国有企業の柱。世界一の生産国となった自動車も、中核は、トヨタ自動車日産自動車、米国のビッグ3、ドイツのフォルクスワーゲンなど外資との合弁企業だ。

 これら国有企業と地方政府、国有銀行の3者がもたれ合って「過剰」を増やしてきたと言われる。国有銀行は、国有企業に過剰融資を行い、地方政府は公共工事などで仕事を作る。あるいは、業績の悪い企業にも融資をしたり、減税をしたりして延命させる。いわゆるゾンビ企業を増やした。

 生産も同様。ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎・上席研究員によれば、「世界のGDPに占める中国の比率は約13%(2013年)だが、製造業だけ取り出してみると23.2%に達する」という。その差は、製造業の設備が過大になっている可能性があるというわけだ。鉄鋼の過剰生産もここに原因があり、安値輸出で世界にデフレを広げていると酷評される。

 しかし、より深刻なのは、中央・地方政府、国有企業自身の改革力のなさだ。「過剰」を削れば、雇用が失われ社会が不安定化しかねない。「本来、その政策は失敗する可能性がある」(三尾・ニッセイ基礎研上席研究員)だけに、改革の腰が入らないのだ。

 当局が為替市場にすり寄り始めた理由の2つ目は、意図的な人民元安誘導と見られる。人民元安は当然ながら、ドル高であり、円高と同義である。人件費の上昇などで失われてきた製造業の競争力を回復するには最もお手軽な手段になる。8.11ショック以降、じりじりと進んできた人民元安には、そんな思惑が伺える。

 国有企業を中心とした「過剰」問題のもう1奥には「技術革新や生産性向上などを起こすイノベーション力の不足がある」(柯・富士通総研主席研究員)。新興国が、安い人件費や投資コストの低さなどを生かしてある程度の経済発展をした後にぶつかる壁、いわゆる「中所得国のワナ」にさしかかったのかもしれない。

 2008年秋のリーマンショック時のような外的要因や、循環的な景気後退とも異なる不安。市場は、それを中国に感じ始めている。

記者の眼

日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/012000149/?P=1

(続く)