続・次世代エコカー・本命は?(21)

トヨタBMW燃料電池車の共通点と相違点

MIRAIと双子?」のプロトタイプに乗ってみた

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川端 由美 :モータージャーナリスト 川端 由美モータージャーナリスト

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試乗ができたのは、5シリーズ・グランツーリスモをベースに燃料電池システムを搭載したテスト車。オリジナルと比べて、200kgほど重量が増している

トヨタ自動車が昨年末に発売した「MIRAI(ミライ)」。説明するまでもなく、世界で初めて量産にこぎつけた燃料電池車(FCV)だ。まだまだ「夢の技術」だと思われていたFCVが市販化されたことは、世界の自動車業界を震撼させた。ダイムラーゼネラルモーターズGM)、フォードといった世界の巨人たちがかつて2010年までにFCVを市販するという目標を掲げ、躍起になって研究開発をしたにもかかわらず、まだ実現していないからである。

そんな世界の先陣を切ったトヨタFCVの分野で組んでいるのが、BMWである。両社は環境技術で2011年末に提携関係を構築。重点分野の一つが燃料電池技術の共同開発だ。

筆者はこの夏、BMWが南仏ミラマに持つテストコースで、BMW5シリーズGT」をベースとしたプロトタイプとなるFCVに試乗する機会を得た。市販車に搭載される前の先進技術を公開する同社のイベント「イノベーション・デイ2015」で公開されたプラグインハイブリッド車PHV)、ウォーター・インジェクション(WI)機構を積んだ過給エンジンのレポートとともにお伝えしよう。

 

燃料電池車とは?

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5シリーズGT」をベースとしたプロトタイプのFCV370個のトヨタ製セルを、BMWがパッケージングをした状態で搭載する。BMWではセルの独自開発も進めており、トヨタチタン製セパレーター採用するのに対し、BMWステンレス製を開発中だ

そもそも、「燃料電池車って何がスゴイの?」という疑問を持っている読者もいるだろう。「燃料電池」とは名ばかりで、電池のように電気を貯めたりはしない。「Fuel Cell」という英語を直訳したゆえに混乱を招くネーミングだが、要はタンクに積んだ水素と空気中の酸素を化学的に結合させて発電する装置であり、「水素発電機」とでも呼んだ方がしっくりくる。

それを積んだFCVとは、水素をエネルギー源にクルマの上で発電しながら走る電気自動車EV)の一種であり、エネルギーをつくる代わりに排出するのは水だけ、排ガスはいっさい出さないという究極のエコカーである。加えて、水素は地球上にほぼ無限に存在することから、化石燃料を一切使わないというだけではなく、エネルギーの枯渇の心配がない。それらがともに備わってこそ、FCV夢の未来カーと呼ばれる。

BMWFCVは、この試乗イベントが開かれる前に「ミライの双子では?」といううわさもあった。実際に見ると、トヨタとの提携が生かされている部分はあるものの、かなり異なる仕組みだ。具体的には、BMW燃料電池スタックの筐体を作って日本に送り、トヨタがセルを詰めてドイツに送り返しているようだ。DC-DCコンバーターなどの電気系補機はトヨタ製だが、コンプレッサーと電気モーター水素タンクBMW製。制御もBMWの独自開発である。

試乗はかなわなかったが、テストコースには「i8」のようなスポーツカー風のボディを持つプロトタイプが用意されていた。詳しいスペックは明かされていないが、100km/hまでの加速 を6秒でこなすとされる

BMWFCVは、燃料電池スタックの上に電気モーターと補機類を搭載したRWD(後輪駆動車)であり、FWD(前輪駆動車)の「ミライ」用ユニットとは配置が異なる。水素タンクはクライオ式を採用しており、マイナス220230℃に冷却した水素を350バールの高圧で保存することで、7kg以上の水素を搭載できる。驚くべきは、燃料電池の効率が65%を達成している点だ。主なロスは、スタックで生じる熱、コンプレッサーやポンプなどの作動によるものだ。

試乗車は、この燃料電池ユニットとクライオ式水素タンクを組み合わせたシステムを搭載していた。アクセルを踏み込むと、甲高いコンプレッサーの音が室内に響く。もともと車重2トン超の「5シリーズGT」が、FCVプロトタイプでは約2.2トンへと増しているが、電気モーターによる駆動の特徴を生かして高い加速感を生む。

200Hpの最高出力を発揮し、燃料電池スタックの出力は「ミライ」と同等の113kWを誇る。「ミライ」は「プリウス」と似た滑らかな加速だが、BMWFCVプロトタイプはスポーティな味付けになっている。市販についての言及はしていないが、「i8」風のスポーツカーに進化版の燃料電池スタックを搭載してテストし、その結果を反映した次世代の燃料電池2020年頃に発表する計画

(注)クライオcryo とは、極低温液化と言うような意味かと思うが、確かではない。

電化でも、「駆け抜ける喜び」を

続いて、充電したモーターだけで走るEVとしても、エンジンとモーターを併用するHVとしても使えるPHVに試乗した。BMWはこれまでにスポーツカー「i8」でPHVを市販しているが、今後は主力モデルにPHVを投入する方針だ。現段階で「X5」、「7シリーズ」、「3シリーズ」、「2シリーズ・アクティブ・ツアラー」にPHVの導入をアナウンスしている。

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シリーズ・アクティブ・ツアラーeDriveは、欧州の家庭用電源で3.15時間、ウォールボックスを使えば2時間で充電が可能だ。0-100kmh加速が6.5秒。 カタログ上のEV走行距離は50kmだが、実走行では28−28kmが目安150km/hまでは、EV走行が可能

試乗した「2シリーズ・アクティブ・ツアラー eDrive」は、前方にエンジン、後方に電気モーターと分離して搭載し、「i8」とは前後逆のレイアウトを採る。1.5Lターボ付きエンジン(220HP/365Nm)を積むFWDの「218i」をベースに、リアを電気モーター(65kW165Nm)で駆動する仕組みだ。

システム全体の出力は上級モデルの「225i」同等に向上し、燃費が2L/100kmまで低減できる。オート、スポーツ、パフォーマンス、エコプロ、セーブバッテリ、MAXeドライブの走行モードを選べる。

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5ドア・ボディを持つ1シリーズに、WIを装着した強化版1L3気筒ユニットを搭載したテスト車。ノーマルの最高出力が110kWなのに対して、160kWまで高めている。背後にあるのは、MotoGPのセーフティ・カーに使われる「M4」で、ツインスクロールターボ付き3L6ユニットが搭載される。WIで筒内を25度まで冷却することにより、筒内圧を高め、ピークをより上死点に近づけている

シリンダー内に水を噴射して、その気化熱で筒内の温度を下げてノッキングを防止する「ウォーター・インジェクション(WI」を、排気量1000cc3気筒ユニットに搭載したテスト車も試すことができた。

古くは、ゼロ戦にも搭載された技術で、航空機の分野では高度が上がると水が凍ってしまうため、アルコールを混ぜて噴射していた。このことをBMWのエンジニアに伝えると、「フォッケウルフの方が先に開発していた」という。

フォッケウルフとは、BMW製エンジンを搭載した戦闘機。BMWという社名は、もともと「バイエルン・エンジン製作所」の頭文字をとったもので、戦前は特に航空機用エンジンの制作で定評があった。戦後になって自動車の製造をはじめたが、創業当社からずっと自他ともに認める“エンジン屋”であることが、このような発言につながっているのだろう。

ベース・ユニットの圧縮比は9.5で最高出力110kwを生じるのに対し、テスト車では、WIを搭載することで圧縮比を11.0まで高めて、「i8」に搭載されるエンジン(170kW)と同程度の160kWまで最高出力を高めている。

エアコンから生じる水を活用

具体的には、水と燃料の混合物を直接筒内に噴霧し、吸気を冷却してアンチノック性を高める。加えて、点火タイミングを早めて、圧縮比を高められる。これにより、高負荷領域では23%以上も低燃費化できて、出力を10%高められる。低中負荷領域では38%の高効率化になる。エアコンを使うことで生じる水を活用するため、水を追加する必要はない。

BMWは、エンジンや走りのイメージが強い自動車メーカーであるが、次世代車に欠かせない電気駆動の技術における先進性を保ちつつ、走行性能が高く、ドライビング・プレジャーに優れるイメージを継続していく方針だ。FCVでは先行する“相棒”トヨタのノウハウを借りながら、BMWらしい車を仕上げられるかがポイントになるだろう。

http://toyokeizai.net/articles/-/81526

 

それにしてもなぜVWは不正に手を染めたのであろうか。

(続く)