尚2015.10.3の東京新聞には「日本の技 VW不正見抜く 堀場製作所の測定装置」と大きく、写真入りで掲載されているので、そのさわりの記事を紹介しよう。
「ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が排ガス規制を逃れていた問題で、発覚のきっかけとなる米大学の調査に計測機器メーカー、堀場製作所(京都市)の車載式排ガス測定装置が使われていた。・・・調査した米ウエストバージニア大工学部は、VWのディーゼルエンジン車に堀場製作所製の測定装置を載せ、実際に路上を走行させて排ガスを検査。車体を固定して行う試験場での結果と比べ窒素酸化物(NO2)が基準より最大で35倍も多いことを2014年5月に公表した。実験の内容を伝える大学のホームページには、堀場製作所の装置を扱う研究者の写真が載っている。・・・」として(この新聞には)その通りの写真が掲載されていたが、現在のWVUのホームページには上の写真が載せられている。
この記事では「2014年5月に公表」となっているが、たぶんこれはICCTがインターネットで公表した時期を言ったものと思われるが、2015.10.4の新聞には、CAFEEが公開討論会で測定結果を公表したのは、2014年3月とある。
「・・・「結果は14年3月にある会合で公表したが、その後にVW側から数回、訪問を受けた。VW側はどのルートで実験を行い、データをどのように回収したか、どんな装置を使ったかなどを聞いた」-わずか五人の研究チームが世界を代表する自動車メーカーの不正を暴いた。世界が驚いている。「成果が認められたことには誇りを感ずる。ただ、不正公表後の騒ぎは私たちの手を離れたことだ」」
2015.9.18にEPAがVWの排ガス処理に、違法なソフトウェア(defeat device)が使われていることを発表したことにより大騒ぎとなったが、関係者間では当然早い段階で、それなりの物議を醸していた。
新聞紙上に載った記事から関係する事柄を、時系列的に並べてみる。
1.2005~2006年 浄化装置がコスト高のためVWは、違法ソフトウェアの使用を決める。
ベルント・ピシェツリーダー(前)社長時代のこと。
2.2007年 マルティン・ヴィンターコーン社長就任
3. 〃 ボッシュ、テスト用として違法ソフト提供。但し文書で違法と警告している。
4.2008年 社長の拡大路線表明、2018年迄に一千万台達成目標、トヨタを抜くと、
中期経営計画「ストラテジー2018」を発表。
('08/600万台→'14/1014万台、'15/1~6/504万台・トヨタを抜いた。)
5.2008年 違法ソフト搭載ディーゼル車、米国で宣伝・販売開始。
'08年ロスアンゼルスモーターショーにブルー・モーション・テクノロジーの
ディーゼルEGの「ジェッタ」を発表、米Green Car of The Yearを受賞。
このBlue Motion Technologyとは、アイドリングストップ機構とブレーキ
エネルギー回収システムのことを言う。
7.2011年 VW技術者が、搭載ソフトウェアの違法性を指摘。
VW、20年振りに米国生産開始。
VW年次報告書でスズキを子会社扱い。
8.2011.6.27 スズキ、フィアットから1.6LディーゼルEGの供給で合意。
9.2011.11 スズキ、 VWを国際仲裁裁判所に提訴する。
10.2013年2月 WV大学のCAFEEが排気ガス測定試験開始。
11.2013年 EU欧州委員会「共同研究センター報告書」でVWの違法ソフトによる規制
逃れを認識していた。
12.2014年3月 CAFEEがサンディエゴで公開討論会、VW車の排ガス測定をプレゼン。
13.2015.8.30 スズキ、VWとの資本提携解消を発表。
14.2015.9.18 EPAがVWの排ガス不正を公表、違法ソフトを搭載2008年~48.2万台。
15.2015年9月 独自動車局、10/7迄に改修方法・時期の具体策の提示を指示。
16.2015.9.22 VW社声明、不正を認め、該当車は全世界で1,100万台。
17.2015.9.25 VW監査役会・報告書に「2011年に 違法性を指摘」の記述。
18. 〃 ヴィンターコーン社長引責辞任→ポルシェのマティアス・ミュラー氏社長へ
19. 〃 スイス交通規制当局、VWディーゼル車の販売禁止。
20. 〃 独検察当局、ヴィンターコーン前社長を詐欺容疑で捜査。
と言ったところが、VWによる排ガス不正の経過であるが、この違法ソフトは2007年に独ボッシュが作りVWに納めたものであった。そしてご丁寧に文書で「車両に搭載することは違法である」と警告までしていたものであった。
更にVW社内でも、わかっている範囲では2011年に違法性が指摘されていたものであり、当然EUでも、このVWの規制逃れは認識されていたのである。それにも関わらずEUでは格別な対応はとらなかった。この点EUにも大きな責任があるとする新聞記事も見受けられる。当然EU域内でもユーロ5規制(2009年、ユーロ6は'14/9~)は守られていなかったのではないのかな。だからEUとしても、しっかりとVWに問い正さなければならなかったものと思われる。だから当然EUにもそれなりの責任が発生する、もちろんVWが一番悪いのであるが。
まあブルー・モーション・テクノロジーと言いながら、必ずしも環境に優しかったわけでもないVWのディーゼル車は、大手を振ってヨーロッパ大陸を闊歩していた訳だ。
欧州自動車工業会によると、2014年のEU主要15カ国での、新車登録のうちディーゼル車の占める割合は、何と53.6%にものぼる。だから環境対応車の代名詞となっており、看板製品なのである。そして欧州ではガソリン車に比べてCO2排出量の少ないクリーンディーゼル車の購入には、補助金や税控除が各国で導入されている、と2015.9.25のかの新聞には記載されている。
Green Car of The Yearや補助金なども返還せよ、と言われなかったのかと心配になるが、米国などでは集団訴訟の動きもあるやに聞くが、現在ではそのニュースはあまり新聞紙上では聞かれなくなっている。
何れにせよ排ガス規制がより厳格になるのは確かなので、いくらCO2の排出が少ないと言われるディーゼル車でもNOxやPMを処理する排ガス処理装置はかなり高価なものとならざるを得ないので、ディーゼル車の利点はなくなりつつある。ここでもディーゼルエンジンの排ガス処理に関する技術革新が待たれることになるが、それまでは、HV、PHVやEVへの移行が加速することになろう。
まあまだ結論じみた事にはなってはいないが、クリーンディーゼルよりもトヨタのハイブリッド技術の方に、軍配が上がった形になったようなものではないのかな。
その点日本のマツダのスカイアクティブディーゼルは、環境対応も相当優れていると言われているので、ディーゼルもまだまだ捨てたものでもないのであろう。
このVWディーゼルの排ガス不正にびっくりした国交省と環境省が、慌てた訳でもないが、国内のディーゼル車の排ガス試験を行っている。
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