五輪周期の三菱自の不正、VW並みの悪質さ
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燃費の水増しは、技術者への冒涜でもある
2016年4月22日(金)
大西 孝弘
「うちはオリンピックの年ごとに大きな不祥事が起きている。今年度は特に気を付けよう」
4月に入って三菱自動車の社内では、そんなことを真剣に語り合っていた。その最中に軽自動車の4車種で、燃費を意図的に実際より5~10%良く見積もっていた不正が明らかになった。対象車は合計62万5000台で、同社は4月20日から生産、販売を中止した。
該当車を購入したユーザーや株主は怒り心頭だろう。4月21日の東京株式市場で三菱自動車の株価は、ストップ安水準となる前日比150円(20%)安の583円に落ち込んだ。
三菱自の社員も憤まんやるかたない。
東京・田町の本社に在籍する社員の中には、「何やってんだよ!これまでの努力が全部水の泡じゃないか!」と涙ながらに語る者もいた。
相川哲郎社長は「(報告を受けた4月13日まで)不正を知らなかった。経営者として責任を感じる」と話した
同社は2000年度以降、オリンピックの開催年に大きな不祥事が発覚している。
シドニー五輪が開催された2000年度には、三菱自の凋落の原点となるリコール(回収・無償修理)隠し問題が発覚し、経営危機に陥った。
独ダイムラークライスラー(当時)の傘下で再生を図っている最中の2004年度にはアテネ五輪があり、分社化した三菱ふそうによるリコール隠しが明らかに。三菱グループ各社が優先株を引き受けて、急場をしのいだ。
北京五輪の2008年度には世界的な金融危機があり、大きなトラブルは目立たなかったが、ロンドン五輪の2012年度は軽自動車のリコール対応の遅れで、国土交通省から厳重注意を受けた。
そして、ブラジルでリオデジャネイロ五輪が開催される2016年度。新たな不祥事が発覚した。
この4年の周期は、偶然とは言い切れない。というのは、4年はちょうど1つのクルマを開発する期間に当たり、自動車メーカーにとって経営の1つの区切りになっている。
つまり、クルマの開発が1サイクル回るごとに新たな不正が発覚し、自浄作用が働いていないと言えるのだ。
相川哲郎社長は記者会見で、「2000年以降、石垣を積み重ねるように改善していたが、全社員にコンプライアンスの徹底を図ることの難しさを感じている。無念でありじくじたる思いだ」と語り、肩を落とした。
技術者は燃費0.1%の改善に大変な努力をする
燃費の水増しが5~10%というのは、受け手によって様々な印象があるかもしれないが、関係者にとってはかなり大きな数字だ。
例えばeKワゴンの中でも燃費がトップクラスのタイプでは、ガソリン1リットル当たり30.4kmと公表していた。10%の水増しだとすると、実際はおよそ3kmほど燃費が悪かったことになる。
これは販売に大きな影響がある。まずエコカー減税の減税幅が違った可能性がある。消費者の負担額が変わるため、購入動向に響く。
実際の走行においては、カタログ燃費ほどはでないものの、10%燃費悪化は、余分のガソリン代として日々の消費者の財布を直撃する。
消費者にとっては税額、下取り価格、燃料代など様々な負担が増えるのだ。こうした負担について相川社長は、「燃料代も含めて補償を検討する」と語った。
さらに消費者や株主から訴訟を起こされたり、国から制裁金を科されたりする可能性もある。日産自動車との補償問題も浮上しそうだ。
2013年には三菱自動車と日産自動車のトップが共同で軽自動車のラインオフ式に出席した。今回の燃費不正は、日産の調査が発端となった
競合他社への影響もある。技術者にとって燃費5~10%というのは、とてつもなく大きい。というのは、技術者は0.1%の燃費を高めるだけでもたいへんな努力が必要だからだ。
自動車メーカーの技術者が、「鉛筆なめて燃費を上げられるなんて許しがたい」と憤るのも無理はない。
そもそも燃費向上には膨大なコストがかかる。自動車各社は燃費改善のために基礎研究から開発まで巨額の投資をしているのだ。
分かりやすい例でいうと、確実に燃費向上に寄与するアイドリングストップ機構を導入すると、1台あたり20万円近いコストがかかる。
今後の展開は、韓国の現代自動車グループや独フォルクスワーゲン(VW)の事例が参考になりそうだ。
現代自動車は米国で燃費の水増し表示が発覚し、販売が急減した。VWは米国でディーゼル車の排ガス性能を偽装したことが発覚し、ブランドを大きく失墜させてしまった。訴訟などが起こされており、未だに負担額の全貌は見えていない。
いずれも本来ならば負担すべきコストを意図的に省いて、関係者を欺いた点で、悪質性は高い。
三菱自も意図的な不正で関係者を欺いており、VWの排ガス不正に並ぶほどの悪質性がある。今後、行政や司法、消費者から厳しい追及を受けることは避けられないだろう。
(続く)