続・次世代エコカー・本命は?(59)

いくらコンプライアンスがゆがんだ三菱自動車であっても、ゴーンのこの「してやったり」と言った誇らしげな顔を見れば、さもありなんと思われる。

 

 

ゴーンと益子、両CEOの蜜月が生んだ救済策

ニュースを斬る

三菱、日産傘下入りで「3度目の正直」なるか

2016513日(金)

寺岡 篤志

 

 スリーダイヤが日産自動車の傘下に入る。512日産自動車三菱自動車2370億円を出資して筆頭株主となることを発表した。これまで三菱重工業が持分法適用会社とするなど、三菱グループ3社が三菱自動車の経営を支えてきた。日産の出資で三菱グループの出資比率は20%程度まで下がる見込み。

会見で満面の笑みを見せた日産自動車カルロス・ゴーン社長(左)と三菱自動車の益子修会長 (写真:Bloomberg/Getty Images



 420日に発覚した三菱自動車の燃費データの不正問題は依然として調査段階にあり、多くの事実の解明が待たれている。各種の補償の負担や販売へのダメージなどで経営への深刻なダメージが予想される中、渦中の軽自動車事業で提携関係にあった日産が救済の手を差し伸べることになる。

 三菱自動車はこの10数年で、ダイムラークライスラー(当時)三菱グループと「庇護者」を変えてきた。そして次は日産。「3度目の正直」で危機からの脱出に挑むことになる。

 三菱自動車の益子修会長は会見で、「開発部門への日産からの人的・技術的支援によって、風土改革を促進できると期待する」と発言。今回の燃費データ不正問題も含め、長年にわたって組織の風通しの悪さや隠蔽体質が課題とされながら、根本的な解決には至らなかった。軽自動車事業の提携関係を継続することに加え、新型車の開発や次世代技術の開発といった広範な領域で日産とのアライアンスを進め、思い切った「外科手術」によって組織風土の改革を進めようとしている。

 一方の日産のカルロス・ゴーン社長兼CEO最高経営責任者)は、三菱自動車の救済というよりも、両社のウィン‐ウィンの関係を強調。「三菱自動車筆頭株主になることで、日産にとってもメリットがある。既にわかっているだけでも、22億ドルもの出資を正当化できる十分なシナジー効果が期待できる」と語った。

1日前とは違う表情

 笑顔の両CEOが握手を交わしながら報道陣のカメラに収まったその1日前、益子会長は国土交通省に不正についての3回目の報告に赴き、「全容解明が全く出来ていない」と批判を受けていた。誰が不正を主導したのか、不正があった車種の規模はどれくらいか、ごく基本的な事項すら明確に返答できなかったからだ。

 この状況下で不正処理後の経営を見据える資本提携の発表。スピード決着の背景に何があったのか。

 「益子さんから不正について報告を受けた。益子さんがこういう問題があると言うならそれを信用する」。ゴーン社長12日の記者会見で、益子会長との「信頼関係」を繰り返し強調した。つい半月前には、北京自動車ショーに際しての記者会見で、三菱自動車との提携関係の今後について「政府や三菱自動車の調査で全容が解明されるのを待つ」と言っていたにも関わらず、益子会長の説明に納得し、資本提携の覚書にサインしたことになる。

 ゴーン社長と益子会長は、ピックアップトラックの部品の共通化など、軽自動車に続く新たな協業の形を2人の個人的な会話の中で検討してきたとも明かした。環境対応車自動運転などの幅広い技術開発が必要とされる中、下位メーカーの三菱自動車単独で投資負担を背負いきれないためだ。「今回の問題で実現が早まっただけだ」(ゴーン社長)

「俺がいないと日産となじめない」

 提携会見に続いた日産の決算会見では、ゴーン社長は「今回は直前まで情報が漏れなかった。噂も憶測記事もなかった」と不敵な笑顔を見せていた。不正発覚後も両トップの非公式会談を続け、内々に計画を進めてきたことを改めて伺わせた。益子会長も最近社内で「俺がいないと日産と三菱はうまくなじまない」と当面留任する考えを語っていた。

 三菱自動車の経営を独立させて、ブランドを維持することを強調するゴーン社長の日産は、三菱グループ各社にとっても、三菱自動車の嫁ぎ先としては好ましい相手と言えるだろう。ただし、日産側のステークホルダーにも、提携の正当性を説明する責任が求められる。

 ゴーン社長が「提携は何十億ドルの効果を生む」と強調した理由の1つが、三菱自動車が得意とするSUV(多目的スポーツ車。しかしその車種のひとつである「RVR」でも、一部のモデルで実験をせず、机上計算で走行性能を算出した疑いがあるというケチがついた。三菱自動車東南アジアでの高い実績も、同社の戦略や技術力だけの功績と言うよりは、同地域での販売を担う三菱商事の能力を示すものと言える。

 益子会長は資本提携の実行について「年内にクローズさせたい」と発言。それまでのデューデリジェンス(資産査定)で、両CEOの蜜月が産んだ提携が慎重に評価される。

 

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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/051200343/?P=1

 

 

 

三菱自の益子会長は会長で、「俺がいないと日産と三菱はうまくなじまない」などとうそぶいているし、ゴーンはゴーンで、益子の話は検察が信用ならないと言っていても、「益子さんが言うのならそれを信用する」と、三菱自にぞっこんである。なんとなく出来レースの趣がある。

(続く)