続・次世代エコカー・本命は?(89)

心境の変化 

 自動運転に対するトヨタの態度については、社内外で疑問があがっていた。報道陣はグーグルに大きな後れを取っているように見える理由を同社に求めた。当時、トヨタの幹部は、研究が同様に進んでいると考えていると述べる一方、この技術は運転手に代わる技術ではなく、運転手を支援する技術があるという、豊田氏も受け入れられるような答えを述べていた。

 豊田氏は積極的に現場と接触を図っているものの、最前線からの情報が自分になかなか上がってこない時があると指摘。「上がってきた時には遅い情報という意識がものすごく強い」と話した。

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サーキットレースの準備をするトヨタの豊田社長 Photo: Alex Domanski/Reuters

 

 鯉渕氏によると、同氏が率いるチームが行っている取り組みなどを外部に知らせる方法を広報チームとまず相談し始めた。そして、自動運転技術が活用されるべき分野を限定すべきではないことを話した。

 最終的に、3人の幹部がこの問題を社長に進言することを決めた。鯉渕氏と、技術開発本部本部長の伊勢清貴氏、広報部長の橋本博氏だ。豊田氏がすでに考えを変えていたと聞いて3人は驚いたが、豊田氏によると、この会合がトヨタの転換点となり、「そのおかげで(様々な動きや発表が)非常に早まった」という。

 豊田氏は2014パラリンピックの選手たちと会ってから心境に変化が生じたと話した。選手たちは、障害者が簡単に乗車したり、操縦できるように設計されただけの車に乗りたくないと豊田氏に話していたのだ。

 豊田氏はお気に入りのスローガンが従業員の一部を混乱させたかもしれないと認めた。「Fun to driveというのは、ものすごく多様的に考えていく必要性がある」ことに気付いたと述べた上で、それでもこの目標を断念したくないと付け加えた。同氏は自動運転車について、究極的に交通事故を削減するべきだとも話した。

 トヨタの公のスタンスが変わるのは速かった。11月にはAIを研究するシリコンバレーの新施設に10億ドルを投入すると発表。この研究施設を率いるのは米国防総省の高等研究機関でロボット工学分野のマネジャーを務めたギル・プラット氏だ。

 また、グーグル・ロボティクスの元責任者も、トヨタが新研究施設で採用する予定の200人の研究者の中の1人として採用した。さらに、同社は「ディープラーニング(深層学習)」を手がける東京のベンチャー企業800万ドルを投資。鯉渕氏によると、トヨタで自動運転技術を研究しているのは東富士研究所で約70人、シリコンバレーでさらに100人ほどいる。

 豊田氏は自動運転であろうがなかろうが、車は自由を提供すべきだと話した。

 「ドライバーにフリーダム(自由)を与える、そして(ユーザーから)愛というものを与えられる移動手段であることは、絶対に失ってはいけない自動車のエレメント(要素)だと思う」

【訂正】第1段落の「役員」を「幹部」に、第14段落の吉貴氏の肩書きを「役員」に、第21段落の「通年で初めての赤字」を「数十年ぶりの通年の赤字」にそれぞれ訂正します。また第46段落の「同氏」を削除します。

http://jp.wsj.com/articles/SB12053837977855664124504581475241719654566

 

 

 

直接のきっかけは豊田章男社長が、2014年にパラリンピックの選手たちと会ってからだと言う。

 

選手たちは、障害者が簡単に乗車したり、操縦できるように設計されただけの車に乗りたくないと豊田氏に話していたのだ。

 

これはどういう意味なのだろうか、と暫く小生は考え込んでしまった。健常者が運転する普通の車では、障害者はそれほどうまく運転は出来ないであろう。だから障害者でも運転が出来るように施された車にならざるを得ないのではないのか。なのにそんな車には乗りたくない、と言っている。これでは障害者は、クルマには乗れなくなってしまうのではないのかな、云々と感じたのだ。

 

でも障害者は、クルマを運転したいと思っている。

 

障害者たちは、「格好良い自動車に乗りたがっているパラリンピックの選手たちと会った」と言っているように、格好良い車に乗りたいのだ、そんな車を運転したいのだ。

 

と言う事は、障害者が簡単に乗車したり、操縦できるように設計されることによって、車が格好悪くなっては困るのである。あくまでも、それでも格好のよい車を障害者たちは操りたいのである。操りたい、とは少し言い過ぎであるが、障害者たちは格好良い車での移動(の自由)を欲しているのである。

 

ここに運転支援の技術、自動運転の技術が必要となってくるのである。これこそが障害者たちの「Fun to Drive」なのであろう。きっと豊田章男社長は、そんな感慨に打たれたのではなかろうか。

 

 

以前に(84日、NO.80)「自動運転機能は、高齢ドライバーや車を必要とするが車を操作できない人達にとっては、垂涎(すいぜん)のものとなろう。」と述べたことがあったが、これこそがその Fun to Drive なのである。

 

だからトヨタのスローガンである「Fun to Drive」は、当初は豊田章男社長の言う”クルマを操る歓び ・ もっといいクルマを作ろうよ”だけであったものが、”もっとよい移動手段たる車も作ろうよ”と言う概念も含むことになるのである。

 

操る歓びをもっと与えてくれるいいクルマも必要であり、もっと自由によりよい移動手段を与えてくれる自動運転車も必要なのである。

 

これも「Fun to Drive,again」なのである。

 

2020年の東京オリンピックパラリンピックの時には、トヨタをはじめ各社の自動運転車のオンパレードとなっているのではないのかな、楽しみである。そんなことも見越して、トヨタウーバーとも提携しているのではないのかな。

(続く)