何のための「RESCUEシステム」かと言われても仕方がない状況の様に見えるが、少なくともこれだけトヨタ車に使われている部品であるから、当然優先的にバックアップ策が検討されていてもよかったのではないのかな。
しかもこの部品は、地震が頻繁に起こる可能性がある熊本平野に位置している工場で生産されていたのである。
だから災害の可能性と部品の使われ方で層別して、管理対象の部品の優先度をつけておくべきだったのではないのかな。当然トヨタはそうやってほとんど完全な形でこの「RESCUEシステム」を作った筈であるが、「上手の手から水が漏れる」の喩の様にこの「ドアチェック」は漏れていたものと思う。
全ての部品に対してこの「RESCUEシステム」で管理することは出来ないので、何らかの方法で管理すべき部品を優先順位付をした筈であり、これだけの部品であるので当然この「ドアチェック」は該当部品としてリストアップされたのであろう。しかし何らかの特性でこの部品は重要管理部品から外れてしまったのではないのかな。たぶんあまりにも膨大な作業となるので、こんな簡単な部品は何とかなるのではないかと言った安易な考えで、管理対象からに外されてしまったのではないのか、と想像される。
多分熊本平野と言う地震多発地帯であると言うキー項目に思いが至らなかった、のではないのかな。そうでなくても、トヨタ車の国内生産の9割に使われている部品が、アイシン精機子会社の一社だけに任されていたと言うことは、明らかに間違いであろう。平時において復社発注にしなくても、トヨタとしてアイシン本体で即バックアップできる体制を整えさせる様指示するとか、アイシン本体でも何らかのバックアップ体制を独自に考えておくべきであった。アイシンは以前にも(1997.2.1)自社の生産ラインが火事となり、トヨタ本体の生産ラインの停止の原因となっていたことを忘れてはならない。
失敗百選 ~アイシン精機で工場火災(1997)~
【事例発生日時】1997年2月1日
【事例発生場所】愛知県刈谷市
【事例概要】
アイシンfire Giff
大手自動車部品メーカー、アイシン精機刈谷工場(プロポーショニング・バルブ:PVの生産工場・トヨタ車の90%を担っている)での火災により、トヨタグループの中で刈谷第一工場でしか生産していなかったPVの供給が完全に停止。PVは生産にかなりの加工精度を要求され、車種ごとに形状が微妙に異なるなど、他工場での代替生産が難しかった。このため、在庫を極力持たない「かんばん方式」を採用していたトヨタの全工場や同じく供給先だった三菱自動車工業の主力工場の操業も停止。トヨタだけで減産規模は7万台以上となった。
【事象】
大手自動車部品メーカー、アイシン精機刈谷工場(プロポーショニング・バルブ:PVの生産工場・トヨタ車の90%を担っている)での刈谷第一工場の中央ラインから出火、初期対応が遅れ火災が拡大した。PVの供給が完全に停止。トヨタの全工場や同じく供給先だった三菱自動車工業の主力工場の操業も停止。トヨタだけで減産規模は7万台以上となった。
【経過】・・・・・・・(略)
http://www.sydrose.com/case100/315/
ここでも該当部品はトヨタ車の90%に使われているブレーキ関係の重要な部品であった。ブレーキの踏み圧を前後輪のブレーキにうまく分配する役目をするバルブであるので、それなりの加工精度が必要となる。機能などはこのURLを参照されるとよい。
(http://www.advicsaftermarket.co.jp/support/brake/detail/25/index.html)
アイシン精機のこの部品の加工ラインが火事となり、トヨタの全工場、また三菱自動車の生産ラインも停止することになったものである。だから今回の熊本地震は、アイシンにとっては、謂わばやってはいけない災害の再発だったのである。このときの教訓が何にも役立っていなかった、と言われても致し方ないであろう。アイシンは、トヨタにとって、鬼門である。
日本は地震大国であるので、過去にも同じような災害は発生していたのである。2007年の新潟県中越沖地震での、リケンピストンリングの被災による国内完成車メーカーが一斉に生産ラインを停止せざるを得なかったこと、新しくは2011年の東日本大震災での福島・ルネサスエレクトロニクスの被災による半導体部品の供給停止による完成車メーカーの生産ラインの停止など、まだ記憶に新しいことである。
過去に同じような経験があるにもかかわらず今回も同じことが起こってしまっている。、これがこの問題の一つの重要ポイントであろう。即ち、どのようにして管理対象の部品の優先度をつけて、バックアップ体制を作ってゆくか、と言う事である。
更に気になるのは、アイシン精機の子会社での配電設備の故障が長引いたことである。電気は生産工場にとっては、最重要な生産要素となろう。それを司る設備の故障がなかなか治らないのでは、重大問題である。しかもその一つの設備で、アイシン九州(熊本市)とアイシン九州キャスティング(同)の2つの工場で共用されていたと言う。だから一つの設備が壊れれば、2工場に影響する。それほど大事な設備であるから、何らかの事前対策が必要ではなかったのか、と言うことである。
当然「金型」や「治工具」と言った重要生産要素的設備類の管理は、それなりになされていた筈であるが、それと同じくらいに重要な設備の管理も大切なことである。2011年の東日本大震災での部品調達のための「RESCUEシステム」と共に、工場稼働のための重要設備の対策も実施されていたここと思うが、今回の事故は一部ではこれが出来ていなかったと言う事を示したものであろう。トヨタとしても今までに施した対策の見直しが、必要なことと思い知らされる事象となるのではないのかな。
これが2つ目の重要ポイントであろう。工場の諸設備に対する対策についての見直しは、当然トヨタはわかっている筈である。すでにそれ相応の対策が打たれていることと思う。
3つ目の問題は、「在庫を持たないジャストインタイムがサプライチェーン寸断の影響を増大させた」というものである。
(続く)