続・次世代エコカー・本命は?(98)

2016年の重大災害でなぜ長期に渡り工場停止になるのか

 重大災害によって被災した拠点のみならず、日本全国の組み立てラインが1週間以上の長期に渡り停止しました。私はこの現実を知り「なぜそんなに長期停止になるのか?」と疑問を覚えました。

 原則として、トヨタでは余分な在庫を持たないリスク管理の目的も兼ねて複社購買を前提としています。同じ部品でも、1社だけでなく複数の仕入先から調達可能にしているのです。そうすることで何かあった時のリカバリーができます。例えば、他社ではタイヤを調達する際に自社の製品の型式に特定のタイヤメーカー&そのタイヤ型式をひも付けしてしまうことが多いのです。そのため、該当タイヤ型番の生産ラインが止まると欠品で組み立てがとまります。トヨタではそれを防ぐためにタイヤの機能を明確にして、その基準を満たす複数の同等品を引き当てる管理にしているハズなのですが……。

※複社購買:(1)別の会社の同等規格の部品を同等と認識し、(2)その同等品をそれぞれの一定比率で複数のメーカーから購入すること

 今回の災害発生で1週間以上も日本全国の組み立てラインが止まって再稼働しないのは、複社購買がうまく機能していなかったのではないかと推察します。例えば、熊本で50%生産、別の生産地または別会社で50%生産であればもっと早く回復できるはずです。2直で1社被災したのであれば、3直化と土日稼働で復旧できるはず。熊本での購買比率が高過ぎたため、停止期間が長かったのではないかと思われます。

図2
2 被災時の代替生産の対応方法(クリックで拡大)  TPS_sp_160531suzumuradojo_02_02


重大災害に備え製造業がやるべきことは何か

 では重大災害に備え製造業がやるべき事について次に解説していきます。

1)複社購買を前提とする。

 先に述べた内容から分かる通り、複社購買を前提とする体制を構築することが望ましいと言えます。そうすることで非常時に代替生産による短期復旧が可能になります。ここで大事なことをお話しします。購買部門の使命は何か? それは「長期安定的にものを調達する」と言うことです。

 最も避けるべきは、

  1. スケールメリットによるコスト価格ダウンだけで飛びつくこと

  2. 目先の入門価格でよいものを提示されて飛びつくこと

  3. 目先の値段だけにとらわれて極端にリードタイムの長いものを買うこと

などです。私は上司から「安いには理屈があるから納得するまで買うな」と教えられてきました。

 複社購買とは同じ品番で複数の会社から調達ができることです。複社購買できない場合でもせめて、生産地は分けるべきです。例えば、東日本と西日本。中国では魏、呉、蜀(編注:魏=華北、呉=華南、蜀=内陸部の意)、インドでは北と南、米国では西海岸、中西部、東海岸といった分け方が理想です。

 ところが、よく複社購買が不可能だという話が出てきます。私は以前、船のエンジンオイルについて「航海の安全確保のため、できない」という説明を受けたことがあります。実際には、これは神話に過ぎなかったことを解き明かしました。

 ぜひ仕入先の営業マンや自社の調達係の言うことをうのみにせず、理論的に検証してご判断ください。意外と、不可能なことが可能になり、そこがコスト低減ポイントになるのです。これについてはまたの機会に解説させていただきます。

2)在庫は極力減らす

 1)で代替生産による調達が可能となっていれば、余分な在庫は持つ必要はありません。

 ただし、在庫ゼロにしなければならないということではありません。お客さまを待たせることは機会損失になりますので、在庫を極小化する努力をするということです。

 「必要なときに、必要なものを、必要なタイミングで供給できる」ことがあるべき姿です。今では多品種少量生産が当たり前ですが、需要を整理すると、大抵の商品は繰り返し生産が必要なものと年に数回しか出ないものに分かれます。

 年に数回しか出ないものはロングテールと一般的に呼んでいます。よくあるのが繰り返し生産必要なものとロングテールを同じ設備を使って生産しています。そのために、購入する設備は高スペックになりがちです。設備の費用は能力が高くなればなるほど、指数曲線を描き高くなります。例えばスーパーカーは時速300km出ます。軽自動車の最高時速が120kmとするとその能力はスーパーカー40%ですが、かと言って価格がスーパーカー40%にはなりません。

 その高い設備にロングテールまで生産させようとするために、段替えを惜しんで少量品の在庫を過度に抱えたり、逆に段替えばかりしたりして稼働率を落とすなどのおかしな現象を招いています。

 実は、ロングテールは色々な工夫をして少量もしくは1個で作る工夫をすればよいのです。極端な例かも知れませんが、樹脂成型であれば3Dプリンタを活用する、といった全く違う発想で考えるとよいでしょう。材料の変更によって材料コストが10%程度しか変わらないのであれば、極少量品については採用すべきです。これについてもまたの機会に解説させて頂きます。

 少量ずつ生産しようとすると段替えが多く発生します。段替えにかかる時間および段替えによって発生する材料の廃棄を段替えロスといいますが、段替えロスを減らす工夫も必要です。例えば樹脂成型の場合は、段替えで材質を変えると材料が混ざってしまうので、材料の廃棄の無駄が多く発生します。金型を変える時間よりもこちらのロスの方が金額的には大きいのです。従って、機械別に同じ材質の材料から作る品番をそろえるなどの工夫をして、金型の交換のみのロスにする方法をとるとよいでしょう。そのために材質は共通化するといった取り組みも併せて行う必要があります。

 段取りには、誤差、公差を賢く使います。生産現場では大抵材料をきちんと計測していますが、計測には時間がかかります。良くある例ですが、食品で何gといっても997gとか1005g必要といった場合、1kgの袋からしっかり電子秤で計量する必要があるのでしょうか? これは誤差、公差の範囲になることが多いのです。実際に食べてみると誰も区別できません。

 それであれば、1kg1袋をそのまま投入すればよいのです。せめて何gでなく、できるだけマスを使って擦り切り1杯にすべきです。

 日本では、何でも匠の世界といって、難しいことを超人的に道具を使わずに行うことを優遇する傾向にあります。米国人はそんなことはせず、すぐにマニュアルと道具により誰でもできるようにする傾向があります。日本人もその点は米国の文化に学ぶべきです。

 これが一番重要ですが、基本は消費者の近くで生産することです。食の世界で言われているフードマイレージに相通ずる所があります。できる限り消費者の近くで小まめに生産して供給することで、リードタイムを短くし、輸送コストと在庫を減らすのがあるべき姿なのです。

 現実に使用されている海外コンテナ輸送に利用する北米大陸横断のコンテナ列車はその全長が実に3kmもあるのです。これが何時間もかけて移動し大量の物を運んでいます。すごい量の物資が日本や東南アジアから運ばれているのだなあと驚きました。

 また私は以前、米国西海岸で1隻の自動車運搬船から5000台の輸出した日本車が降りてくるのを見たとき、これを現地の米国人が日本の侵略だと思ってもおかしくないと感じました。映画で見た、エイリアンが宇宙船から降りてくる光景とダブったのです。そんなことをしなくても米国の西海岸や東海岸で生産をすれば良いのです。

 メキシコなど税制の優遇があれば、それを活用するのは悪くありません。ですが、それも1カ所で生産するのでなく、できるだけ消費地に近い場所の西、東と分散するべきです。

(続く)